「フレームワーク」や「テンプレート」はシゴトの「型」じゃねぇ — 村井庸介「どんな会社でも結果をだせる! 「最強の仕事の型」」(クロスメディア・パブリッシング)

筆者は、野村総合研究所を皮切りに、リクルート、グリー、日本アイ・ビー・エムを経て、メガネスーパーの企業再生に辣腕を振るった人物なので、転職の数がビジネスマンの経歴だ、ってな調子の転職奨励本かと思いきや、豊富な各種各様の企業生活・ビジネス生活を通じた、どんな会社でも通用する「仕事のやり方」(筆者はこれを「型」といっている)を伝授する、いわば「教習本」。
 
構成は
 
第1章 どんな会社でも結果を出せる仕事の「型」とは
第2章 仕事でいちばん大切な「提案力」の磨き方
第3章 「GISOV」を実際に使うときのポイント
第4章 自分の付加価値を高め続けるための「仕事術」
 
となっていて、まず転職について、筆者は
 
業種・業界が違えば、持っておかねばならない基礎知識は異なります。しかし、本質となる行動プロセスは、同じ「GISOV」です。・・・実はどこに行こうと「仕事ってそんなもの」なのです。
私が転職をむやみに勧めない、いちばん大きな理由はそこにあります。「井戸の外に出たら、きっといまよりもすばらしい世界が広がっているんだろう」という「憧れ」ベースの転職なら、やまたほうがいいでしょう。井戸の外に出ても、いまと同じだからです。(P205)
 
と最後の方で述べているので、転職のノウハウを期待する向きはちょっと「残念」。本書の主眼は、筆者によれば、「よい提案ができるということは、すべての仕事に使える「仕事の基本」(P5)」で、その提案が「承認」される度合いを上げるための「型」について論じたのが本書であるようだ。
 
その「型」というのが、「GISOV」というもので、図式化すると
 
①G:GOAL(ゴール:目的、目標)
②I:ISSUE(イシュー:課題)
③S:Solution(ソリューション:解決策)
④O:Operation(オペレーション:実行計画)
⑤V:Value(バリュー:付加価値)
 
ということで、最後の⑤があるのが、独自なところ。そして、「V」が付加されているところが、通常のコンサルによる仕事術とは違うところで、なんといっても
 
私は「フレームワーク」「テンプレート」と「型」とは、少し意味が違うと考えています。
(略)
「フレームワーク」「テンプレート」はあくまでもツールにすぎません。確かに便利なのですが、必ずしも仕事の本質を学ぶことができるわけではないのです。提案がまさにそうです。「フレームワーク」に事例を当てはめただけの提案なら、「誰でも」できます。「フレームワーク」とはそういうものです。しかし「誰でも」できるような提案に価値はあるのでしょうか。そのレベルの提案なら、誰かがすでにやっているはずでしょう。(P51)
 
といったあたりは、クライアントの立場で、いつもコンサルから煙に巻かれている当方としては、溜飲が下がるところ。というのも、クライアントも横のつながりがあるから、よその会社のプレゼンで、自分のところに来ているものと同類のコンサル提案の見ることはよくありますからな。
 
で、本書は「GISOV」の型に沿ったガチガチのシゴト術が述べられるかというと、そうでもなくて
 
「どうやったら承認してもらえるか」を考えるよりも、「却下されるとしたら理由は何か。どうやったらその理由をなくすことができるか」と考えるほうが、提案をブラッシュアップする方策が具体的になる(P125)
 
ポイントは
①相手のことを徹底的に知る
②「相手によくなってもらいたい」という動機を忘れない(P125)
 
とか
 
「プロジェクトが成功する要因は、キックオフのときに、成功できると思っている人たちが集まっていること」(P130)
 
はじめてのことを「やってみようか」「それならできるかも」と感じさせ、さらに継続するために重要なのは、ハードルの設定の仕方。そのポイントは
①仕事の「型」に沿っており
②すぐに成果が目に見えて
③現状での負荷が大きくない(P132)
 
といった実践的なところが多いのは良いですな。
 
また、最初に「転職のノウハウを知りたい向きには・・」と書いたのだが、それは、転職するためのノウハウは出てこないよ、という意味で、実は、転職で一番大事な、転職した後の頭角の出し方として、
 
・社内で新しい提案をするタイミングは、ひと通り、既存の仕事やプロジェクト、作業を終えたときです。少なくともワンクールの仕事は、そのまま受け入れてやってみる。提案はそのあとです(P148)
・新しい会社に入ったら、まずは既存の仕事、あるいは仕事の進め方や流儀を尊重する。しかし、見えないところでは、ゴールとイシューを発見する(P149)
・イシューを見つけるために有効な視点は「大きな仕事やプロジェクトを、小さく分割してみること」(P151)
・転職先で、できるだけ早く「新参者」から脱却するためには、「売上げアップ」よりも「時間短縮」のほうが成功しやすい(P154)
 
といったものや、新規プロジェクトがスタートできない主要な理由の一つである「上司のやらない理由」を潰す方法として
 
・「何をやるか」も大事だが、有効なのは「何をやるとどれだけ成果が出るのか」を必ず数字で示すこと
・仮にうまくいかなかった場合の「逃げ道(バックアップ)」も用意しておくこと(P164)
 
といった、転職経験の豊富さを活かしたアドバイスは秀逸である。
 
さて、転職云々は別として、およそ全てのビジネスマンが、強制的に、社内環境、労働環境が、「転職」と同様に大激変することがある。そう「定年」である。「再就職後」を希望するビジネスマンは、誰もが新しい場所で、能力発揮と結果を出すことを求められるし、結果を出すことを望んでいるはず。転職希望社だけでなく、「そろそろ・・」のビジネスマンも読んでおいたほうがよいのかもしれんですね。
 

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