ビジネスの全てを左右するのは「応答力」ー W・A・ヴァンス「答え方が人生を変える」

以前「質問力」ということが流行したことがある。たしかに仕事をしている時、相手の不備な点をえぐるように糺したり、不足なところを質問であぶり出したりすることが上手い人をみると、「鋭いな」とは思うものの、信頼をよせるかというと、裏をかかれそうで「なんだかなぁ」という人が多いのではなかろうか。

それに対して、困った質問や答えにくい質問に、うまく切り返す人を見ると、感心するとともに、信頼を寄せてしまうのが人の常というものであろう。
本書『ウィリアム・A・ヴァンス「答え方が人生を変える あらゆる成功を決めるのは「質問力」より「応答力」」(CCCメディアハウス)』は、そんな「答える力」、つまりは「応答力」についての数少ないビジネス本である。

【構成は】

第1章 あなたを最高のコミュニケーターにするのは「答え方」である
第2章 「質問をリープする」が最強の答え方である
第3章 「答え方」の基本7原則「質問をリープする」ための条件
第4章 どんな場面でも自由自在に自分の意見を述べるには?(第1のリープ)
第5章 相手と効率的に、より深く理解し合うには?(第2のリープ)
第6章 あなた自身をさりげなく売り込むには(第3のリープ)
第7章 情報の本質を人と分かち合うには?(第4のリープ)
第8章 あなたへの信頼を不動のものにするには?(第5のリープ)

【「応答力」を磨くメリットは】

ではなぜ、こうした「応答力」について書かれたことがなかったの、ということに対しては、これはもう単純で、

誰も、「質問」が「答え」より重要だなんてひと言も言っていない!

と「ごもっとも」な回答。

詳しくいうと

質問自体は、デートを確約してくれつわけでもなければ、大発見にみちびてくれるわけでもない。知識を深めたり、人間関係を良くしたり、パフォーマンスを向上させたりしてくれるわけでもなくて、ただそうした可能性を与えてくれるに過ぎない。
(略)
質問」と「答え」の力関係の宿命だ。「質問」はトピックを提供するだけであって、そこから論点を決定し、その後の行動や思考を形成していくのは「答え」と決まっている。

ということであるとのこと。

どうやら、我々は「質問」という切れ者のもつ華やかさに目を奪われていて、その華やかさを生かすも殺すも、実は実直者である「答え」次第であった、という基本のところを忘れていたということであるようだ。

【「応答力」って、つまり何】

でも、同じことを言っている「答え」でも、「答えよう」によって、その効果がとんでもなく違うことも確かで、よい答え、優れた「応答」のコツを最初にネタバラシすると

具体的にどうするかと言えば、まさに質問のフレームから跳び出す。つまり、「質問が求めることだけに答えるのではなく、あなたと相手の目的にとって価値ある情報を追加して答える

ということで、筆者はこれを「リープする(跳躍する)」と表現している。

で、このあたりは、我々が少々苦手にするところで

日本人は質問のフレームから外れるような余分なことを言わない傾向が特に顕著だった。つまり、「質問に忠実過ぎる答え」が、話す相対量を少なくし、おとなし過ぎる印象を明らかに作っていた。

といったように、今までの教育や日本の文化の影響もあることは否めないのだが、当方が考えるに、そうした遠慮深い下地の上に、「リープする」技術をうまく上乗せすることができれば、時によって出過ぎた感を受ける欧米にかぶれた日本人の対応ではなく、程よく、効果的な、つまりはアジアの多くの人に受け売れられやすい「応答力」を身につけることができるのでは、と思うのである。

【「応答力」を身につけるには】

といったことを踏まえつつ、「応答力」を身に着け「質問をリープする」答え方を実践するテクニックは

生産的なコミュニケーションを約束してくれる「質問をリープする」答え方を実践するにあたって、心に刻んでおきたいマインドセットを確認しておくことにしよう。
◎質問のフレームに押し込まれずに、答えを自由に、クリエイティブにデザインするという気持ちを抱く。
◎コミュニケーションにおけるあなたと相手の目的を意識することを習慣にする。
◎あなたと相手の目的にとって価値ある情報を追加して答える。 ◎(上記の目的が不明、あるいは考える余裕のない場合)良い質問の3つの可能性──知識を深める、人間関係を構築する、パフォーマンスを向上する──のうち、少なくともひとつを実現するための価値を追加して答える
◎質問をリープした答えが会話のリーダーシップを取り、理想的なシナリオを描けることを記憶にとどめておく

ということであるし、「答える側」がどうしても守らなければならない7つの原則は

①質問者が求める完全な情報を提供する
②簡潔さとか「長さ」ではなく「程度」の問題である
③「答え方」がすべての透明さのはじまり
④エビデンス(データや文献といった変更不可能な証拠)を日常化する
⑤強弱の関連性を操作して答える。つまり、質問に対して直接的で強い関連性のあることだけを答えない
⑥「曖昧さ」は戦術の一部としてのみ使う。面倒くさいという理由で曖昧に言葉を濁さない
⑦答え方には、時系列型、原因ー結果型、スペース型など様々なパターンがあるので、そのうちの最適な答えの構成を画策する。

といったことではあるのだが、ここらあたりは、この文章だけで詳細を把握するのはちょっと難しいな。ぜひ、原本を読んでくださいな。

【まとめ】

考えてみれば、「質問する力」ばかり磨いても、「答える力」が伴っていなければ、薬味ばかりを食して、肝心のうどんやそばが入っていないようなもの。特にビジネスの現場では、本体の「うどん」や「そば」に該当する本体が提示できなければ、当然結果には結びつかない。

「応答力」はそうした「本体」のところを、いかに効果的に、いや「見た目以上に効果的に」提示できるか、といった技術である。

もちろん、本書をよむだけでなく、実践で磨く必要はあるのだが、「ガイド本なし」よりも「優れたガイド本」に沿って進んだほうが、何倍も上達の速度はは速いもの。ぜひ本書のレシピをお試しあれ。

そして、レビュアーから一言。「まずは、読め!」

 

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【一方で、質問力を磨く本はこういうのが】

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