薬味がたっぷり効いた”歴史エッセイ”をどうぞ ー 塩野七生「逆襲される文明 日本人へ Ⅳ」

先だって、イタリア在住の漫画家ヤマザキ・マリ氏の著作をレビューしたのだが、イタリアつながりということで、本日は、塩野七生氏の『「逆襲される文明 日本人へ Ⅳ」(文春文庫)』をとりあげよう。氏の文春新書の歴史エッセイは「リーダー篇」「国家と歴史篇」「危機からの脱出篇」と出されていて、本書がその第四弾。

【収録は】

国産で来た半世紀/イタリアの悲/帰国してみて/なぜ、ドイツはイタリアに勝てないのか/ユーモアの効用/三十代主訴油はイタリアを救えるか/プーチン☓オバマ/政治家とおカネの不思議な関係/ヨーロッパ人のホンネ/ある出版人の死/女たちへ/この夏をわすれさせてくれた一冊の本/朝日新聞叩きを越えて/日本人の意外なユーモアの才能/中国に行ってきました/脱・樹を見て森を見ず、の勧め
一神教と多神教/ローマに向けて進軍中/テロという戦争への対策/地中海が大変なことになっている/「イイ子主義」と一般人の想い/悲喜劇のEU/なぜドイツ人は嫌われるのか/イタリアの若き首相/残暑の憂鬱/今必要とされるのは、英語力より柔軟力/イスラム世界との対話は可能か/一多神教徒のつぶやき/消費税も頭のつかいよう/誰でもできる「おもてなし」/感揚げ方しだで容易にできる「おもてなし」/四国を日本のフロリダに
「保育園落ちた日本死ね」を知って/EU政治指導者らちの能力を問う/ローマ帝国も絶望した「難問」/両陛下のために、皇族と国民ができること/「会社人間」から「コンビニ人間」へ?/著者のこだわり/帰国中に考えたことのいくつか/若き改革者の挫折/トランプを聴きながら/負けないための「知恵」/拝啓、橋田壽賀子様/がんばり過ぎる女たちへ/見ているだけで美しい/ドイツ統一の真の功労者/政治の仕事は危機の克服
となっていて、あいかわらず、イスラム国やイギリスのEU離脱、ヨーロッパの政治家の月旦といったところから、日本の「待機児童」問題や、芥川賞作品(コンビニ人間)に着想を得たものなど幅広い上に、今回は「女たちへ」とか「がんばり過ぎる女たちへ」とか女性読者を意識したものも収録されている。

【気になるところをピックアップすると】

この人のエッセイの面白さは、ローマ史を始めとした歴史家の視点と、イタリアと日本という、当方の感覚では両極端の価値観の国の双方が理解できる柔軟さを備えた、歯に衣着せぬ発言にある。
例えば、なぜEUが理念高く出発したのに、今、ダッチロールを繰り返しているかということについて、当方が思うに、筆者は、EU内の強国がリーダーシップをとらない、ことが原因と考えていて、特に
ドイツがEUのリーダーになるのには賛成だ。しかし問題は、このドイツに指導力を発揮する勇気が有るのか無いのか、にある。
結論を先に言ってしまえば、無い。歴史的にも気質的にも、無い。なぜなら、指導力を発揮するには、勝つだけでは充分でなく、勝って譲る心がまえが必要になってくるからである。
 勝っていながら「譲る」とは、敗者の立場にも立って考えるということで、これはもう想像力の問題であり、「一寸の虫にも五分の魂」があることを理解する、感受性の問題でもある。
ということで、「盟主」になるには力だけでなく、「徳」もいるのだ、ということが思い起こされる。
そして、氏によれば、ヨーロッパの錚々たる政治家も形無しで、環境保護派からは評判のよいドイツのメルケル首相も「EU第一の強国ドイツを率いる立場にありながら、自ら先頭に立って引っ張っていくという気概なり肝っ玉なりが、この人からはまず感じられない」と形無しである。
さらに、いわゆる「男女の機会均等」のところでも
自分は「デキル」と思い、やる気もある女たちに、老婆心ながら進言したい。それは、男たちの多くから女らしいと思われたいという、心底では女たちの持っている願望はきっぱりと捨てることである。その理由の第一は、仕事に対しては男も女もないこと。理由の第二は、女らしいと思ってくれた男たちの全員と寝るわけにはいかない以上、寝たいと思う男一人が思ってくれればそれでよし、とするしかないという現実。
というあたりには、「炎上」という言葉が頭に浮かぶし、「日本人」についての
日本に帰国するたびに感ずるのは、日本人とは想定していた事態への対処となると世界一だということだ。
 
だがその一方で、想定していなかった事態に直面したときに、日本人はまだまだ弱い。想定していなかった事態への対処だけでなく、想定していなかった質問をされた場合の答え方、思ってもみなかった行為をされたときの反応、等々。それを眼にするたびに私は思う。日本人て何とまじめなのだろう、何と人の良い民族なのだろうと。だが同時に心配になる。世界では、それも権力者ともなると、人が悪いほうが当り前なのだから。
といったところには、我が身を振り返って、「うーむ」と唸るしかないのである。
【まとめ】
薬味ばっかり聞いているような「エッセイ」を読んでいると、心のあちこちがヒリヒリしてきて、辛くなるものなのだが、本書は、とてもスパイスが効いているのだが、悪辛くなく、刺激を楽しみながら読み進んでしまう。
日々の暮らしで、心がボンヤリしてきたら、こういうピリッとくるものを読むことが、心の活性化にもってこいでありますな。

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