変調百物語は続く ー 宮部みゆき 「あんじゅう」(中央公論新社)

(この記事は2018.10.14にリライトしました)
神田の袋物屋 三島屋の「黒白の間」で、三島屋の姪・おちかを聞き役に始められた変調百物語の第2冊目

【収録は】

序 変わり百物語
第一話 逃げ水
第二話 藪から千本
第三話 暗獣
第四話 吼える仏
変調百物語事始
「序」は第一冊目の「おそろし」とこの「あんじゅう」をつなぐ口上というべきもの。「おそろし」での経緯が語られ、百物語の続きであることが朗詠される、芝居の幕開きの口上みたいなものか。

【あらすじ】

さて、では本編のレビュー

◯「逃げ水」

「逃げ水」は、山出しの丁稚と彼がつれてきた(というか彼に故郷の山で憑いている)山の主が主人公。この二人が、三島屋と、彼が故郷から連れてこられた質屋の大店で巻き起こす、「水が逃げる」という大騒ぎと、それが起きた顛末のお話。割とドタバタした展開なのだが、人の心の移ろいと、喉元過ぎればなんとやらの人の世の習いにちょっと悲しくなる。

◯「藪から千本」

「藪から千本」は、三島屋のお隣の、住吉屋の一人娘の祝言と、それに至るまでの住吉屋の本家と分家の両方で繰り広げられた、嫁姑の争いに名分を借りた、一見、仲の良い兄弟、家族の底に潜む、暗い感情の怖さを見せてくれる話。最後にわかる住吉屋の双子の長女 お花の健気な心根と思われる振る舞いが救いになるか。

◯「あんじゅう」

「あんじゅう」は、手習所に通わせてもらうことになった、三島屋の丁稚 新どんの縁で知り合いとなった手習所の師匠 青野利一郎のこれまた師匠が「紫陽花屋敷」と呼ばれていた屋敷を隠居所として暮らした時の、屋敷の怪異譚。者としては、第一冊目の「凶宅」や「家鳴り」の主人公であった「安藤家の屋敷」と同類項なのだが、こちらの話は、屋敷の徳というものであろうか、陰惨でない、「怪異」というより「妖しい」物語とでもいうべきもの。まあ、屋敷に住み着くものは、「怪しげなもの」であることには違いないのだが、この物語の一方の主人公である「あんじゅう」(暗獣)は、優しげで妙に人なつっこい。

◯「吼える仏」

「吼える仏」は先の「あんじゅう」で知り合った手習所の若師匠 青野利一郎の知り合い の偽坊主 行然坊が若い頃、山里で遭遇した怪異というより、残酷譚。古くからの山里のしきたりに抗ったために家族ごと潰されてしまう若者がもたらす災いの話。どちらがどうともいえないが、最後は救いの薄い、滅びの話。

【まとめ】

で、最後の「変調百物語事始」は今までの話を、災厄なく終わらせる禊ぎの話であろう。三島屋に忍び込む賊を、「暗獣」や「吼える仏」などで知り合いになった面々で取り押さえる話。発端は行然坊が不審がった、三島屋にかかる暈というのだから、あながち偽坊主と見くびってもいられない。まあ、終わりよければ全て良し。
第1冊目と比べて、この「あんじゅう」は話がほのかに明るくて、そう陰鬱にならずに読めるのが良い。これからも百物語が続くことを願って、今回のレビューも大団円としよう。

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