江戸の怪異の数々はお好きですか? ー 宮部みゆき 「あやし」(角川文庫)

(この記事は2018.10.14にリライトしました)

旧い商家にとりついた魔物の手から、早死した姉に守ってもらった妹の話(「布団部屋」)やかどわかしをして刑死された女の亡霊に狙われる太郎をかぼちゃが救う話(「女の首」)、十年おきに同じ顔の人間が違う経歴で口入を頼んでくる話(「蜆塚」)

など、江戸時代を舞台にした怪異や不思議な話を集めた短編

【あらすじ】

詳しく書くと、下手なネタばらしになるが、こんな話が収録されてます。

◯「居眠り心中」

 若旦那の子をはらんだため、店を追い出された女中のもとへ使いに出された小僧が、使い先で若旦那とその女との心中の幻をみる。それは、後日の若旦那と若妻との理由のわからない心中の前兆だったのか

◯「影牢」

 遊び人同士の息子夫婦に座敷牢に閉じ込められた母親が、陰惨な渇き死をとげた後、起きる不思議なことごと。息子夫婦とその子供たちの集団毒殺事件

◯「布団部屋」

 奉公に出ている旧家についている魔物(その魔物はお店を繁盛させるかわりに奉公人の魂を吸い取るらしい)の手から幼い妹を守ろうとする、その店で早死した姉の話

◯「梅の雨降る」

 母親代わりの近所でも評判の良い厳しい姉。その姉が器量の悪さが原因で奉公を断られる。神社で凶のおみくじをひいた後、姉の代わりに奉公に出ていた娘が流行病で急死する(凶のおみくじを誰かに肩代わりさせるおまじないのエピソードあり)
 その死を自分のせいとおもった姉の狂っていく姿。肩代わりののせいで、顔に青黒い腫れ物ができ(弟も見た)、死ぬまで手ぬぐいをとらなかった。死後に見ると、そんな腫れは、どこにもなかったそうな

◯「安達家の鬼」

 寝付いている姑は鬼がみえるらしい。もとは別の店の奉公人あがり。
 店では、姑のうなづいた者としか商いをしない。一人、良い商売話をもってきた男を姑に会わせると、男は化け物を見たかのように驚き、逃げていく。
 姑は若いころ、奉公先の老主人の出身地まで一緒に旅をする。旅先で病みついた老主人は、その地のケガレを引き受ける家(安達家)に押しこめられる。その家は、昔は大層繁盛していたが、事件がもとで没落。以後、主の絶えた家に、村人は重病人や流行病の者を押し込めることにつかっていた。姑は、そこで安達家のケガレが凝り固まった鬼と出会い、連れて行くことに。その後、姑の連れる鬼に出会うと、人は、自分の心の中にあるものを見るようになる。
 最後まで、その鬼をみることがなかった、姑に気に入られていた嫁。

◯「女の首」

 口をきかない太郎は、縫い物屋へ奉公に。(太郎の母親名かぼちゃの神様に願をかけてかぼちゃをくわないというエピソードあり)気に入られれば、そのまま養子になれるらしい。その店では、昔、一人息子が赤ん坊のころ、かどわかしにあっている。納戸でみつけた屏風に女の首がかかっていて、それは生きているようだ。その首が太郎を取り殺しにくる。昔、息子をかどわかした女の首らしい。太郎は首代わりにかぼちゃを
くわせて退治する。実は太郎は、この店のかどわかしにあった息子。女が追ってを避けるために太郎を畑に隠したが、かぼちゃの陰に一言もしゃべらなかったので助かった過去の出来事。

◯「時雨鬼」

 言い寄ってくる男の話の真実を確かめるために、世話になった口入屋に相談にくる娘。
 そこで、主人の女房だという女に話をきいてもらい、世間の油断ならなさをアドバイスされるが、その実、主人は女とぐるの盗賊たちに殺されていた。

◯「灰神楽」

 理由もなく店の主人の若い弟に切りつけた女中の事件にまつわる話。
 女中は何かにとりつかれているようだ。最近、古い火鉢を買っている。
 事件の調査中、火鉢を預かる。深夜にみたつんつるてんの一重の着物をきた痩せた女が歩く姿。捜査の後、火鉢を寺で供養してもらうが、そこの住職もみたらしい。謂れはまったくわからない

◯「蜆塚」

 家出したが、帰ってきて口入屋の後をつぐ息子。
 同じ顔をした人間が10年ぐらいおきに、まるっきり違う名前で違う経歴で口入を頼みにやってくるという話。知らないふりをしているうちは良いが、調べようとすると、よくないことが。

【まとめ】

怪異といっても、不気味なだけの話ではなく、読後に、ちょっと寂しい、しみじみとした感じが残るのは、この人の手練れた語り口によるものだろう。ミステリーの風合いが強い「初ものがたり」や霊験お初のシリーズとは異なり、江戸のさまざまな話というイメージで、気楽に、しかも江戸の情感にふれながら読める上品。いずれも庶民しか登場しない話なので、お家騒動やら、政治にまつわる暴露話もないので、血沸き肉踊るというわけにはいかないが、ちょっと疲れている時に、古の時代の風情にふれて傷を癒すのにもお奨め。
コミック版もあります。

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