「正義の味方」の意外な正体と「お縫」の恋の行方は? ー 西條奈加「閻魔の世直し 善人長屋」

長屋の住人のほとんどが故買屋や情報屋、美人局などなど悪事に手を染めているのだが、それを隠すために、皆親切で「善人長屋」と言われているのが、主人公の質屋で故買屋の娘・お縫の父親が差配する「千七長屋。そこに本当の善人の「加助」が引っ越してきたことから、長屋の「悪党」たちが、江戸の町を守るために立ち上がらせる、というのがこの「善人長屋」のシリーズ。その第2弾で、今回は、「お縫」の恋模様も織り込まれていているのが本書『西條奈加「閻魔の世直し 善人長屋」(新潮文庫)』。

【あらすじ】

前作「善人長屋」では、加助の元女房と娘を「夜叉坊主」という血も涙もない押し込み強盗の一味から救い出したところで終わったのだが、今回はその後の善人長屋と夜叉坊主の対決、といったところが主な展開。

◯「閻魔組」登場

物語の最初は、加助が角兵衛という焼接屋が崖から落ちて怪我をしているのを助けるところと、的屋・香具師の親玉の「辻屋」の親分が何者かに殺されるところからスタート。この辻屋が殺されてことが一連の「江戸の悪党」たちが次々と惨殺される「閻魔組の世直し」の始まりとなる。

この「世直し」、かわら版などでも取り上げられ、評判をとるが、その刃が「月天の頭」にも向けられるところから、長屋の連中にも他人事とならなくなってくるのである。

◯新顔同心の登場とお縫いの恋

ここに、「白坂長門」という南町の定廻同心の新顔が登場する。この人物、お縫の前に

中肉中背で、そう目立つ顔立ちではないが妙に印象に残る。こちらに向けられたまなざしに、あまりに遠慮がないからだ。そのくせ口許は頑迷そうに結ばれている。他人の詮索をしながら、己の腹のうちは見せない。仕事柄とはいえ、こうも露骨な手合はそういない。

と突然現れて、善人長屋の前で「善人を気取る者ほど、胡散臭い。そうは思わぬか」と疑いの目を向ける「最悪」の登場の仕方である。

この侍に「お縫」が恋心を向けることになるのだが、こいつはちょっと強引な気がするな。自分を含め、善人長屋の敵のような相手に好意を抱いてしまっているので、「ストックホルム症候群」の変形みたいなものか、と邪推する。

もっとも、こういう酷薄な感じは、彼の父親が非業の死を遂げたことに関係しているのが物語の後半で明らかになるから、あまり責めてもいけないかもしれんですね。

◯宿敵相手に善人長屋の面々、奮闘ス

「閻魔組」の世直しの刃が、粛清の相手が悪事の隠れ蓑になっている商家だけでなく、普通の裕福な商家に向けられてあたりから胡散臭くなって、そのうち、「閻魔組」には前作で江戸から追い払ったはずの「夜叉坊主」の代之吉が絡んでいることが段々とわかってくる。

再びの「宿敵」登場と、「夜叉坊主」の悪行に、善人長屋の面々が立ち上がる。まずは、「閻魔組」の正体を確かめて・・、ということで探索を始めるのだが、ここで定廻同心・白坂長門の不審な動きが「閻魔組」の動きと妙に呼応する。

さては、こいつが・・、と疑いがかかるのだが、白坂への恋心を自覚した「お縫」の心は乱れに乱れて・・、といった展開なんでありますが、ここから先と今までの詳細は、原書で確認してくださいな。

【まとめ】

悪人ながら善人面をしないといけない善人長屋のメンバーと、本当の善人である「加助」との取り合わせによる物語の展開も円熟してきた。

「夜叉坊主」シリーズの解決譚ではあるが、質屋で故買屋という家業のいかがわしさに居心地の悪さを持っている「お縫」の心の隙をつくような「恋物語」が本筋っぽく見えるのが本書。捕物と恋物語をセットでお楽しみあれ。

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