「砂漠」の中の”タラス”と”スミス”の恋物語 ー 森 薫「乙嫁語り 3」(エンターブレイン)

カルルクとアミルの物語も、アミルの一族の襲撃を撃退して一段落したところで、次の展開へ至るまでの、ちょっとした幕間の劇というところなのが、本書『森 薫「乙嫁語り 3」(エンターブレイン)』である。

【構成は】

第十二話 逗留
第十三話 懇願
第十四話 タラスの想い
 おまけ パリヤさんはお年頃
第十五話 再会
第十六話 市場での買い食い
第十七話 アンカラへ向かって

となっていて、民族学者のスミスが旅の途中で出会う「砂漠の中の美女」との「恋」が本巻の主筋。

【あらすじ】

◯砂漠の中の美人・タラス

本巻の物語の最初は、カラザという砂漠の中のオアシスっぽい街からスタート。この街で、カルルクの家に居候していた民族学者・スミスがアンカラまで一緒に行く案内人を待っている間に、馬を盗まれてしまう。この時、同じように馬を盗まれたのが、今巻で、スミスと恋仲になる「タミル」という未亡人。

未亡人とはいいつつも、この土地の風習で、長男に嫁いできたのだが、その長男が急死し、その兄弟に再嫁するが、次々と兄弟が死に、今は義母と砂漠の中で遊牧しながら暮らしている、という設定。日本でも昔は夫の死後、兄弟に嫁ぐということはあったのだが、さすがに兄弟5人に嫁いで、しかも全てが若死にするというのは、いくら衛生状態が悪く危険も多い、19世紀の中央アジアとはいえ、運のよいほうではないな。

話としては、市場長の差配で、馬を取り戻したスミスが、タラスのお礼の気持ちから、彼女のテントへ宿泊させてもらうことで、今回の恋愛譚が進展。一人残されて老人の世話をさせられているタムルの身を案じた義母が、スミスに彼女を嫁にもらってくれ、といいはじめ、彼女も・・・、といった展開。もっとも、森薫さんのマンガなので、くれぐれも◯◯い場面は想像しないように。

ネタバレ的に言っておくと、結ばれない恋なのは間違いない。
タミルの想いを感じながら、彼女のもとを離れ旅を続行しようとするスミスが、カラザの街でスパイの疑いで、牢に入れられたり、その噂を聞いた「タミル」が駆けつけたり、といった恋の成就へ向かって盛り上がっていくのだが、まあ、最後のところは・・・、という展開。
といっても、沈かに沈潜させておいて、どこかで、といった含みは残っているので、すこし期待しておこうか。

◯「パリヤさん」に新展開?

主筋は、スミスとタリスの恋愛譚なのだが、実は、もう一つの恋愛譚が、裏筋に隠されていて、それが「パリヤ」の話。

スミスが街の守備兵に軟禁されているところに、カルルクとアミル夫婦が救出に向かうのだが、それに彼女も同行する。そして、カラザの街の市場で、一同、盛大な昼食をとるのだが、その際に同席した街の商人に同じ年頃の男性がいて、といった接待が忍び込まされている。
今巻では、大きな進展はまだまだなのだが、先行き楽しみなのを暗示していますね

【まとめ】

舞台が強国ロシアを含め列強の思惑が交錯する地とはいえ、どちらかというと辺境である「中央アジア」なので、物語の展開が血湧き肉躍る戦乱サスペンスみたいなものにはならないのだが、「エマ」で「古き良き英国」を舞台に典雅な物語を紡いだ森薫氏の作品らしく、若夫婦の情愛や、悲恋物語を散りばめながらの物語がだんだんと円熟してきた感がある。

ここで、意外な伏兵となりそうなのが、「パリヤ」の存在で、これからコミカルな味を加えてくれそうな予感がして楽しみなところですね。

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