「家に帰ると妻が死んだフリをしています」を作画したichoda氏による「家に帰ると妻が」シリーズのアナザー・ストーリーが本書『ichida「家に帰ると妻がカフェをやりたがっています。」(PHP)』。といっても、「死んだふり」の夫婦と関連があるわけではなく、都会に暮らす「多く」の若い夫婦たちのそれぞれのショートストーリー。
【収録は】
下町夫婦
ルームランナー夫婦
カフェ夫婦 1
カフェ夫婦 2
カフェ夫婦 3
仕立て屋夫婦
どうでもない絵の夫婦
妻はイラストレーター
の6作。
あらすじといっても、短い物語ばかりなので、詳しいレビューなんぞをした日には、本書を読んでもらい邪魔になるだけなので、簡単な設定紹介を少しばかりと当方の感想を。
◯下町夫婦
下町に暮らす夫婦が、街を散歩する中で見つけた、小洒落たカフェを舞台にした物語。カフェに女主人と妻のかけあいが中心であるのだが、人の話にすんなりと入っていけない妻の姿に、地方から状況してそのまま東京に住んでしまった、「地方人」の不器用さを感じますね。話の舞台は「下町」といっても、浅草とか葛飾とか、「下町そのもの」のところではないな。当方的には下町というより、高円寺とか中野とかのあたりを思い浮かべながら読みましたな。
◯ルームランナー夫婦
夫が知人からルームランナーをもらってくるあたりからスタートするのだが、けして、ダイエットものではない。ルームランナーを媒介にしながら、夫婦の老いた姿へとつながる展開が、ちょっとシュール。
◯カフェ夫婦
みかんのゼリーを作ったのがきっかけにスイーツ屋を開こうと事業計画をねったり、あちこちの不動産屋を巡ったり、さらには起業するといって、人の話をただ聞く「話聞き屋」を始めたり、カフェの学校に体験入学したり、といった、「妻」の「起業ごっこ」と、それにつきあわされる夫の日々を描いたもの。ドラマがあるようでないのだが、不思議な味わいですな。
◯仕立て屋夫婦
年老いた、町の仕立て屋夫婦の夫婦喧嘩の話なのだが、夫の妄想と、妻への謝り方が怖い。日常に狂気が忍び込んでくる、といったホラーな感じがしわしわと漂いますね。
◯どうでもない絵の夫婦
新居に越してきた夫婦の日常なのだが、この奥さん、なんとなく「妄想癖」があるようで、これからの将来について描くものが、結構「暗鬱」。これからの予言というわけではなく、二人で新しい生活を始める「漠然とした不安」の現れであろうか。ただ、思ったことは叶う、という説もある。良くない未来は、リアルに想像しないほうがよいかも。
◯妻はイラストレーター
イラストレーターをしている妻と会社員の夫婦の、まあ、いちゃいちゃした日常。なんか展開があるんか、と読み進めると、最後の種明かしにひっくりかえりますな。それにしても、「イラストレーター」というのが謎の存在であるのは、当方だけではなかのだ、というのが収穫の一つではある。
【まとめ】
「家に帰ると妻が死んだふりをしています」ほどのシュールさはないが、どの夫婦も、結構「奇妙な味」を醸し出しているのは間違いない。
どこにでもありがちで、実はそうではない夫婦像ばかりなのであるが、案外にどこの夫婦もこういう奇妙なところを隠し持っているのかもしれんですね、と思わせる短編集であります。
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