アラル海の漁村のウエディング・ストーリー ー 森 薫「乙嫁語り 4・5」

19世紀の中央アジアを舞台に、カルルクとアミルという若い夫婦を中心に据えて、町の人々の暮らしや、闘争などを描いた本シリーズであるが、ちょっと脇道に入ったウェディング・ストーリーとなっているのが『森 薫「乙嫁語り 4・5」(ビームコミックス)』。

【収録は】

第4巻は

第十八話 訪れ
第十九話 アラル海のふたり
第二十話 狙うは大物
第二十一話 ふたりの相手
第二十二話 短期集中花嫁修行
番外編 馬市場

第5巻は

第二十三話 祝宴(前編)
第二十四話 祝宴(中編)
第二十五話 祝宴(後編)
第二十六話 日暮歌
 番外編 岩山の女王
第二十七話 手負いの鷹

となっていて、今回は、アミルとカルルクの話はちょっと脇役。
主筋は、民俗学者のスミスがアンカラへ向かう途中の漁村で出くわす、嫁取り・婿取り話である。

【あらすじ】

◯襲撃後のそれぞれの秋

第十八話は、アミルを取り戻すために、カルルクの町を襲撃したのだが、町人たちに撃退された、アミルの兄・アゼルたち、カルルクとアミルの暮らしが軽いタッチで描かれる。
相変わらずなのは、パミルさんで、お婿さんになりそうなカラザの町で知り合った男の子ウマルに相変わらずのツンデレ対応がなんとも不器用でありますね。

このほか、カルルクの祖母の勇姿がみられる「岩山の女王」とか、草原で怪我をしていたのを拾った鷹を飼育する「手負いの鷹」とかの掌編は、味のある仕上がりになてますな。

◯アラル海の双子のやんちゃ娘のお婿さん探し

第十九話から第二十二話は、アラル海近くの「ムナク」という漁村に暮らす双子の女の子の、求婚活動の顛末を描いたもの。
ただ、この双子、一人でも、かなりのやんちゃで喧しい娘なのが、相乗効果をあげているので、騒々しいことこの上ない。
で、この二人が勝手に、見た目が良くてお金持ちな「お婿さん」探しを始めるのだから騒動にならないほうが不思議で、橋の上を通る裕福そうな商人を昏倒させたり、父親が運んでいる魚を道端に散乱させたり、と大騒ぎである。

まあ、このお婿さん騒動は、結局のところ、近場で調達と言うか、割れ鍋に綴じ蓋というか、よくある幼馴染と、という展開なんで、展開的にはさほどの新しみはない。ただ、相手も、双子ではないが歳の近い兄弟で、彼らと双子がどんなところに注目して相手を選ぶのか、といったところはちょっと注目。
さらには、それぞれが「自分の方が良い相手を選んだ」と思うあたりは、世の中納まる所に納まるのだな、と納得する。

最後の「短期集中花嫁修行」は、母親による双子の料理とか裁縫とかの大特訓なのだが、嫁に行ってしまう娘たちへの母親の想いに、ちょっとウルウルしてしまいますね。

◯結婚式はどこも盛大

第二十三話から第二十五話は、表題通り、双子と幼馴染の漁師の兄弟との結婚式。
圧巻なのは、お婿さんの家で、大量の羊を買い付け、結婚式の料理のために次から次へと屠っていくところ。この地方の結婚式は1週間ぐらいは続いて、しかも誰が参列してもよいらしいので、料理もとんでもなくたくさん用意しないと「ケチ」だと悪評が立つのだろうな、と花婿と花嫁の親に少々同情してしまう。
もっとも、最近は「地味婚」で誰もなんとも言わないのだが、ほんの20〜30年前は日本の結婚式もド派手であったのだから、あまり悪くはいえなないな。
もちろん、双子娘が結婚式の間、おとなしく新婦の席に座っていようはずもなく、彼女たちに翻弄される花婿たちの姿は、日本の嬶天下と一緒であるな、と思う次第。

【レビュアーから一言】

今回は、主な舞台がアラル海の周辺で、しかも漁村というアミルたちの住む町とは、ちょっと風習も変わっている地の話であるので、異国情緒もちょっと嵩増しになっている。
そんな地における求婚活動や結婚式の様子がふんだんにでてくるので、旅行好きには堪らない設定であろう。話の展開を追うのと同時に、そのあたりをお楽しみあれ。ただし、19世紀の話なので、今もそんな風情が残っているどうかは保障できないところでありますが・・・。

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