アミル、親父との永遠の別れ。でも親父の死は自業自得と思う ー 森 薫「乙嫁語り 6」

アラル海の近くの漁村の婿取り・嫁取り騒動で、騒々しいが楽しい話が続いていたのだが、晴れる日はそう長くは続かないのが世の習いである。
カルルクとアミルの住む町に、再び、アミルの実家の一族・ハルガルが襲撃し、再び抗争になるのが本書『森 薫「乙嫁語り 6」(ビームコミックス)』

【収録は】

第二十八話 背くらべ
第二十九話 放牧地
第三十話 バダンとの会談
第三十一話 砲撃
第三十二話 騎馬の襲撃
第三十三話 アゼルの攻勢
第三十四話 後ろ盾
第三十五話 報い

となっていて、第二十八話以外は、アミルの実家一族とカルルクの住む街の人々との抗争にあてられている。

【あらすじ】

アミルの奪還に失敗した、ハルガルの一族が、有力部族に牧草地を奪われ、落魄してしまったのが、そもそもの再度の襲撃の原因。

奪われた牧草地の代わりに、手っ取り早くカルルクの住む街の一帯を手に入れようとするのだが、バダンの一族に助力を頼む所から、話が込みいってくる。
というのも、このバダンの一族、ロシアから武器の供与を受けていて、それを使って、あちこちの土地を我が物にしようと狙っているのである。

ただ、「欲」とアミルが奪還出来なかった「恨み」に頭に血が上っているアミルの親父はまったく気が付かずに、まんまとバダンに利用される、という「戦国モノ」によくある筋書きである。

ただ、通常の筋書きと違うのは、ハルガル・バダン連合軍に責め立てられる、カルルクの街の面々が意外に「強い」ということ。銃を始めとして、大砲も持っていて、こういう武装した「街」があちこちにあるとしたら、侵略の手を伸ばそうとするロシアもかなり苦戦したのであろうな、と推測する。バダンの一族のように欲にかられたところに武器供与して、仲間割れさせるのが、もっとも効率的な手法であっただろうな、とは思うのだが、現在でも、多くの強国が使う手法であることを考えると、このやり口は「人間の業」みたいなもんであるかもしれんですね。

まあ、抗争の行方と、アクションの数々は、原書で確認いただくとして、やはり、最後の決め引きをつけるのは、カルルクのお祖母さま、なのだが、その時の

「相応の報いってもんはな。  時にはあるものさ」

というのは、単純な勧善懲悪ものではない底の深さを感じますね。

【レビュアーから一言】

やけに明るい双子の巻き起こす害のない騒動にわはわはと浮かれていたら、突然の大戦闘シーンの連続である。さらに本質のところは、理不尽な「親」を子供が成敗する話なので、もっと陰惨になるかもしれない筋立てたのだが、中央アジアという異国の風情が中和しているせいか、そこまで陰鬱にならないのが、このシリーズのよいところではある。
さらには、この抗争を通じて、カルルクとアミルの仲も一層固まってきていて、夫婦にとってはよいことかもしれない。
もっとも、それも、アミルの「健気さ」があってのことですね、と彼女を誉めたい気持ちになったのでありました。

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