カルルクは弓の修行に頑張る。スミスには春が来たか? ー 森 薫「乙嫁語り 10」

前巻で、「強くなりたい」と、アミルから弓を習い始めた、カルルクが、彼女に格好良い所を見せたい、という欲望に忠実になって、彼女のもとからしばし離れて、修行を始めるのが『森 薫「乙嫁語り 10」(ビームコミックス)』。
 

【収録は】

 
第六十二話 狩猟肉
第六十三話 イヌワシ
第六十四話 母親
第六十五話 騎馬鷹狩猟
第六十六話 馬を見に
第六十七話 国境いの村
第六十八話 山道にて
第六十九話 再会
 
となっていて、弓を習うためにアミルの兄・アゼルたちのテントに泊まってカルルクが修行するのが前半。民俗学者のスミスの旅行記が後半、というつくりになっている。
 

【注目ポイント】

 

◯カルルクの弓修行

 
カルルクの弓修行の発端は、アミルやアゼルの部族・ハルガルがカルルクの街を襲ったことなのだが、その襲撃の際のアゼルの強さが印象に残ったのか、あえてかつての敵の掌中に飛び込むというも、無鉄砲といえば無鉄砲ではあるが、それを、気にする気配もないのが「草原の民」というものか。
 
もっとも弓に修行ばかりでなく、鷹狩の練習のため、一羽のイヌワシをカルルクに預けてくれるところを見ると、カルルクもハルガルの縁戚と正式に認知されたということでもあるのだろう。
 
「鷹狩」はもともと中央アジアないしはモンゴルのあたりが起源といわれているので、チュルク人である、アミルの兄・アゼルあたりは、遊牧民の教養として身につけているのであろうが、カルルクあたりの街の住民は、弓の技量と一緒に忘れ去った古技なんであろう。古くからの技が廃れるのは、どこの国も同じでありますね。
 
まあ、この「弓修行」でカルルクとアミルの仲がまた深くなるという効果もあるようで、たまには夫婦は離れて過ごしたほうがよいときもあるらしい。
 
Otyome 10 Amiru
 

◯スミスの恋再び

 
妙な行き違いから、なくなく「タミル」と別れたスミスであったのだが、アンカラに着いたところで、再び恋が再燃する。
 
この「スミス」氏というのは、実在の人物ではないらしく、当時、中央アジアを旅行したり、調査したりしていたヨーロッパ人をモデルにした架空の人物とのことであるのだが、おそらくは現地の女性と結婚して、この土地に住み着いてしまった人は多くいただろうな、と推測する。
 
もう一つ、印象深いのは、山岳地帯で出会う「血の復讐」から逃れている男の姿。「血の復讐」というのは「ある一族の人が殺されれば、殺したア相手の一族の男性を復讐として殺せる」とした風習で、殺人を犯した当人だけでなく、「一族の男」とであるのが、陰惨さを増しますね。
2016年のものなのだが、アルバニアの一部にはその風習が残っているという記事(「血の復讐」におびえる子どもたち アルバニア 中世の慣習 今も」)もあるぐらいだから、19世紀の頃はもっと強固な慣習であったろうな、と推測したのであった。
 

【レビュアーから一言】

 
カルルクもだんだんと逞しくなっってきているし、スミス氏にも幸福な伴侶がやってきたようで、今巻は、めでたしめでたしといったところである。
ただ、あちこちの描写で、ロシアの南下の兆しが激しくなっているようで、次巻以降はそんな民族紛争に巻き込まれる主人公たち、といった展開になるやもしれんですね。となると、カルルクが、弓を習い、戦闘力をつけるのも良かったのか悪かったのか微妙な感じがしますね。

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