IoT時代の新ビジネスモデルとは? ー 野口悠紀雄「「産業革命以前」の未来へ」

ここで問題。
「ユニコーン」、「フィンテック」、「ブロクチェーン」。
この意味をちゃんと答えられる人は大丈夫。この新書を読む必要はない。
一つでも、説明できないものがあったあなたは、この本を読んでおかないと後々後悔することになると思う。
 
なんて、脅しめいたことを述べたが、それぐらい、ビジネスに限らず我々の生活の周辺で、AIをはじめとした新しい科学技術、それも今までのハードウェアではなくソフトウェア中心の技術用語が蔓延していて、しかも、それがこれからの生活に密接に影響してきそうなのが、なんともシャクである。
 
そういうトレンドについて、わかりやすく概説してくれるのが、本書『野口悠紀雄「「産業革命以前」の未来へービジネスモデルの大転換が始まる」(NHK出版新書)』である。
 

【構成は】

 
第1章 ビジネスモデルの「先祖返り」が始まった
 1 なぜ大航海時代を振り返るのか
 2 官僚帝国だった中国の末路
 3 イギリスはなぜスペインを追い抜けたか
 4 日本は世界から国を閉じた
第2章 産業革命は何を変えたのか
 1 産業革命で経済モデルが大きく変わった
 2 アメリカ「金ぴか時代」の大金持ちたち
 3 巨大組織の時代になった
第3章 IT革命がフロンティアを生み出した
 1 通信・情報という新しいフロンティア
 2 電信、電話、ラジオ、コンピュータ
 3 再びビジネスモデルが転換する
第4章 GAFAという勝者たち
 1 GAFAとは
 2 GAFAを創業した人々
 3 新しい技術をどう収益化するか
 4 技術のジャイアントは続くのか
第5章 ユニコーン企業は次の勝者になれるか
 1 ユニコーン企業とは
 2 シェアリングエコノミーでのユニコーン
 3 フィンテックでのユニコーン
 4 ユニコーン企業は社会構造をどう変えるか
第6章 未来を拓くAIとブロックチェーン
 1 AIは何を可能とするか
 2 ブロックチェーンは何を可能とするか
 3 AIとブロックチェーンで人間の働き方はどう変わるか
第7章 中国ではすべての変化が起こっている
 1 長い停滞から目覚めた中国
 2 産業革命型企業と水平分業企業の共存
 3 GAFAの中国版である「BAT」
 4 中国でのフィンテックやブロックチェーンの急成長
 5 中国は数百年の遅れを飛び越えようとしている
第8章 では日本はどうすべきか
 1 日本にフロンテイアはなくなったのか
 2 企業が生まれ変わるためには
 3 新しい働き方をどのように実現させるか
 
と、大航海時代から産業革命時代、そして現代に至るまでの歴史やビジネスモデルについて第1章から第3章のあたりでとりあげ、第4章以後は、新しい技術に導かれるビジネスモデルや社会変化についてとりあげる、といった構成になっている。
これは、冒頭のところで
 
産業革命によって垂直統合化、集権化、組織化が進展したが、新しい経済の最先端は、それ以前の時代の分権的ビジネスモデルへと先祖返りしつつある(P5)
 
といったことを踏まえてのことであろう。
 

【注目ポイント】

 
もともとは、最新のソフトウェアを中心とした科学技術を中心にすえて、産業革命以前の歴史を参照しながら、新しいビジネスモデルを概説しようという本であるので、そう堅苦しく読む必要はない。
むしろ、難解になりがちな話題を、ざっくりと俯瞰する用な感じで読めばよいのではないかと思う。
 
ではあるのだが、いくつかの気になるフレーズは次々でてくるもので、例えば
 
GAFAのような先端企業における働き方は、従来の大企業とは違う。
ここでの働き方は、産業革命以降の大規模な工場における工場労働者の働き方ではない。こうした職場で重要なのは、「統制のとれた軍隊的な組織が、 一糸乱れずに行動すること」ではないのである。
むしろ「自由な雰囲気の中で、個人の創造的な能力を発揮させること」が重視される。これは、産業革命以前の独立自営業の雰囲気だ。
そして、規制のない自由な市場の中で経済が発展する。
組織から個人へ、画一性から多様性へという変化が生じているのだ。(P119)
 
といったところには、「時間外縮減」あるいは「生産性向上)という名目の人件費圧縮の議論に矮小化してしまった、「働き方改革」議論への皮肉な一文である。「働き方改革」の議論は、どうも労働問題とか労働法制といった文系的な文脈で語られるのが常なのだが、
 
今後は、AIやブロックチェーンなどの新しい技術が、情報処理の能力をさらに高め、これまでになかった新しい可能性を切り拓いていくことは間違いない。
また、それらが実現する事業体は、従来のように従業員と経営者からなる企業とは性格が大きく異なるものになる可能性がある。(P130)
 
といった理系的な文脈で議論しないと全く時代遅れの議論になってしまうのでは、と危惧するのである。
 
また、AIが仕事を奪うと不安をかきたてているところはあるのだが、不安を抱いているのは、労働者ばかりで経営者ではない。ところが
 
AIと同様にブロックチェーンも多くの仕事を奪う。では、ブロックチェーンは、どのような職を奪うのか?
ブロックチェーンは、労働ではなく、管理・経営を代替する。管理者が行っている仕事のかなりは、ルーチンワークだ。だから、そのかなりのものは、スマートコントラクトの形にしてブロツクチェーンで自動的に運営することができる(P186)
 
といった風に、およそあらゆる「職業」が、新テクノロジーによって、消滅の危機にあるといってよく、こういった危機感は、今までの議論ではでてこなかったものであろう。これに対して筆者は
 
いま必要なのは、人間にしかできない価値のある仕事がなんであるかを考え、それを追求することだ。自分にしかできない価値をいかに生み出すかが、これからますます問われてくる。(P189)
 
と言うのだが、なかなかハードルは高そうであるな。
 
さらに、このへんには「日本人特有」の課題も潜んでいるようで、理系的なアプローチであればよいのかというとそうでもないようで、
 
新しい時代を切り拓く基本的な力は、人材だ。
日本の製造業は、ものづくりに集中している。
例えば自動車の自動運転に関しても、本来はソフトウェアが重要であるにもかかわらず、ハードウェアの側面に関心を持つ。
あるいは、IoTについては、センサーの製造という問題に関心を持つ。
日本のエンジエアは、ハードウェアの分野に偏っており、コンピュータサイエンスなどの先端分野の専門家が著しく不足している。
日本だけが、相も変わらず、産業革命から継続する路線を歩んでいる。
こうした状況を変えるには、企業の人材をシフトさせる必要がある
 
といったところには、「ものづくり大国」といって威張ってきて、その思考形態や価値基準が、「こと」ではなく「もの」を中心としてきたことがかえって足枷になってきている状況に、ちょっと暗澹としてくる。
当方は、公務系の仕事をしているのだが、国も地方政府も、未だに「ものづくり」信仰は根強く、むしろ思考パターンの中心であるんですよね。
 

【レビュアーから一言】

 
さて、新テクノロジーの只中での今の日本の状況を表すと
 
「波が高い上に、羅針盤は壊れた」。
 
と言った感じがしていて、これまでの集団主義がどうもうまく機能しないのは明らかである。
 
そして、その処方箋というと、筆者は最後のほうで、「そうした変化を進めるものは、結局は一人ひとりの変化だ。」とするのだが、どうやら、一人ひとりが自分の適性や得意技などを踏まえて、独行するしかないようでありますね。
 

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