「昭和型のライフスタイル」からの転換のススメ ー 佐々木俊尚「広く弱く つながって生きる」(幻冬舎新書)

一言で言うと、本書『佐々木俊尚「広く弱く つながって生きる」(幻冬舎新書)』は「新しい」人間関係の結び方の提案の書である。そこのところは、本書の冒頭の「はじめに」のところで

「技術が進歩しているのに、私達の日々はそんなに楽になった感じがしない。それどころか、だんだん行く苦しくなっている感じさえします。どうしてでしょう。
私は、それは人間関係にせいじゃないかと考えています。これだけいろいろ変わっているのに、なぜか人間関係だけは昭和の頃のまま。

という書き出しで始まることでも明らかなのだが、本書が脱却を目指す「昭和の頃」の人間関係へのアンチテーゼが、「平成」が終わろうとする頃に出るって言うのも面白いところではある。

【構成は】

第1章 大切なものは「弱いつながり」
第2章 「弱いつながり」を育てるコツ
第3章 「弱いつながり」を仕事に落としこむ
第4章 多拠点生活で再認識した人との出会いの大切さ
第5章 ゴールなき人生を楽しむ

となっていて、本書の提案する「弱いつながり」について、その意義からはじまって、つながりの作り方、仕事や生活面での「弱いつながり」について言及する、という構成になっている。

【注目ポイント】

◯「弱いつながり」は、今、なぜ大事なのか

本書でいう「弱いつながり」というのは、マーク・グラノヴェッターのいう「弱い紐帯の強み」の理論(家族や親友といった強いつながりよりも、弱いつながりをたくさん持つことのほうが、多くの情報を得られるという利点から重要であるとする理論)の応用形で、「上下関係ではなく、横に、フラットにつながった人の関係」と当方は理解した。

で、なんでそれが大事なのというところは、強い組織的なヒエラルキー構造や、マウンティングに基礎をおいた「昭和的な人間関係」が、現在に流れる「閉塞感」の原因ではないかと、と筆者は推論しているところにある。その「濃厚さ」「強さ」ゆえに、無駄な儀式や忙しさや気遣いを産んで、そこが、人間関係の重さにつながり、「閉塞感」を産んでいるのでは、というのである。

このあたり、その「閉塞感」の一つの原因でもあるだろうな、と思いつつも、これに加えて、そうした「強いつながり」の効果が、今風の課題にきちっと対応できず、神通力を失いつつあることも一因であるように思う。「組織」に忠誠を尽くしていても、組織からリストラされたり、組織自体が潰れてしまう状態が多発すれば、心の中に「澱」のような不満感が蓄積してくる。その固まったものが、今の「閉塞感」では、と思う次第である。

とはいうものの、「弱いつながり」が最終解なのかというと、これは今後の検証が必要なものであるのは間違いないが、一つの「有効な解」であることは間違いないように思いますね。

◯「場所」も「弱いつながり」に変化させる

こうした「弱いつながり」が我々にもたらす影響で一番大きなのは、「場所」、特に「働く場所」「住む場所」の相対化、多拠点化に結びつくということであろう。

もともと、「強いつながり」の発端は

歴史的に見ると、日本人が本当に強いつながりが好きかどうかは微妙です。強いつながりが築かれたのは、せいぜい江戸時代以降なのです
(P53)

であるにしても、400年間の歴史をもっているのは間違いなく、「居住の固定化」「働く場所の固定化」というのは、幕藩時代以降、染み付いた習性であるには間違いなく、このあたりを変えることは、結構、大きなことでもある。ただ、

現在も濡れ落ち葉になる可能性は十分あります。そうならないようにするには、例えば1ケ所に住んで固定的な関係の中で生きるよりも、移動生活により居場所をあちこちに作るという発想が大事だということです(P27)

と言ったことを考えると、「強いつながり」による「澱」を抱えながら生活するよりも、

浅く広く生きるには、どこかに帰属しないことも重要でしょう。会社に属していないと不安を感じるかもしれませんが、会社という大きな箱の中にいまくても、細いセーフティネットのような網がたくさんあれば、とりあえず居場所はあります(P112)

と、気楽に構えていたほうが、精神衛生上良いのかもしれない。

◯生き方を「弱いつながり」でコーディネートする

当然、こうした「弱いつながり」にシフトするということは、前述の「住居」ばかりでなく、生活の大きな部分を、「軽く」していくことでもある。そして、それは、

いろいろな仕事を少しづつやり、それぞれの場面で違う人たちとつながりながら生きていく、何かの収入がとだえても、他の仕事があるからなんとかなるという方法が当たり前になりつつあるのです(P115)

であったり、

現代の日本には、まれびと的な人物が非常にマッチしていると思います。・・・特定のコミュニティにどっぷりはまるのではなく、何かの役割を果たして去っていく。ときどきは様子を見にくるものの、またどこかに行ってしまう。(P122)

ということでもあって、単独の根っこ(収入源も人間関係も)で生きていくのではなく、たくさんの方向に根を伸ばして、たくさんのところから養分を吸収していくという、着生植物のような形を模索していくことである。それは、ネットワーク型、ノマド型の生活形態への転換でもある。

【レビュアーから一言】

本書の提案する「弱いつながり」の行動形態は、一見、非常に不安定なものように感じるが、反面、一つのものに依存しない形式であるがゆえの、大儲けはしないが、損もしない「安定性」を持っているといえなくはない。

とりわけ

歳をとるというのはネガティブに捉えられがちですが、さまざまな年代の人たちと広く弱くつながり、困難があっても、「きっと誰かが少しだけ助けてくれる」という安心感を強くもつことができれば、人生はそんなに悪くない。そういう心持ちで、これからの長い人生を生きていけばいいんじゃないかと思います(P197)

といったように、セカンドライフの道標としては、定年起業を薦られるより、当方にとっては馴染みやすいものに感じた。

転職しようか悩んでいたり、定年によりライフステージがガラッと変わろうとする時には、おさえておきたい本であります。

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