日本人女性人事ウーマンのグローバル企業奮闘記 ー 増田弥生・金井壽宏「リーダーは自然体 ー 無理せず、飾らず、ありのまま」

本書の主役・増田弥生さんは、リコーの「ふつうのOL」として庶務や秘書業務をやったあと、海外営業、日米合弁企業の立ち上げと店仕舞、そして、リーバイス、ナイキで「人事」のエキスパートとして業績を上げた、企業社会の勝ち組のウーパーウーマン。
そういう女性と経営学者の金井壽宏の、対談のようなやりとりを収録したのが本書『増田弥生・金井壽宏「リーダーは自然体ー無理せず、飾らず、ありのまま」(光文社新書)』。

【構成は】

第一章 リーダーは自分の中にいる
第二章 新人でも「社長目線」で取り組む
  ーお気楽OLのリーダーシップ入門時代
第三章 どこでも通用するプロになる
  ー転身、専門性を磨いた時代
第四章 自分自身のリーダーシップを磨く
  ー再び渡米、「筋肉」を鍛える旅へ
第五章 グローバル時代のリーダーシップ
第六章 リーダーとしてより良く成長する
終章 リーダーシップのベース:「自己理解」と「自己受容」

となっていて、第二章が国内のリコー時代、第三章がリーバイス、第四章がナイキ時代の回想。第五章からがこれらを踏まえてのリーダーシップ論となっている。

【注目ポイント】

本書には二通りの読み方があると思っていて、まず1つは、リーバイスやナイキというグローバル企業で実績を残してきた女性人事マンの語る「人事」「HR(ヒューマン・リレーション)」で学んだ「リーダーシップ論」にふれることで、それは例えば

リーダーシップは役職や肩書がないと発揮できないものではありません。ある人が組織全体にとって必要とされることを見極め、自らイニシアティブをとって行動し、その行動が組織に価値をもたらしたときに、リーダーシップは発揮されたと言えます(P34)

というように、リーダーシップを特別なもの、あるいは部下上司関係で捉えようとする考え方へのやんわりとした批判にはっとしたり、

洋の東西を問わず、人事部門の役割の中心は一般人事、すなわち日常的な事務処理だと思いこんでいる人はたくさんいます。けれども極論すれば、採用や給与の仕事はアウトソースできます。本来、人事部門が果たすべき最大の役割は、ビジネス部門の戦略パートナーとなって組織能力を高め、ビジネスの成果を生み出すことです(P155)

といったように、企業や公務に勤務する「人事担当者」に対する、その職務に対する「フツー」の理解を覆す提案に、自分の会社の「人事担当」が驚く顔を想像して溜飲をさげてもいい。

さらには、

リーダーには、フォロワーに対する認知(リコグニション)が常に求められます。それは「ほめる」とは違います。フォロワーがやったことをちゃんと見ていて、それについて自分がどう感じたのかをフォロワーにちゃんと伝えるのが認知です(P105)

私は、HRはC-3PO型からヨーダ型に変わっていきましょうと訴えかけました。頼まれたことは何でも献身的にこなすけれど、自発的に何かをすることのないC-3POのようなHRの人は、自らリーダーシップを発揮するのを遠慮しがちですが、そのままでは組織にプラスの効果をもたらせません。これに対し、ヨーダ型のHRは、あまり動き回らず、一見のんびりしているように見えますが。人々に勇気を奮い起こさせ、可能性を思い出させるような形でリーダーシップを発揮します(P160)

といった、新鮮とも思える「リーダーシップ論」にふむふむと頷く読み方である。

そして、もうひとつは、グローバル企業バリバリのところでの、彼女が出会ったエピソードやサクセスストーリーで、例えば「リーバイス」での

リーバイスの本社でファシリテーションをしていてだんだんわかってきたのは、表向きは熱くて絶え間ないやりとりを繰り広げている欧米人も、心の中では「誰か止めてくれ」と思っているということです(P93)

といったあたりには、アジアも欧米も人の本質的なところは共通しているのかな、と気づかせてくれるし、「ナイキ」での

ナイキ本社にはネルソン・ファリスという「最古参の社員」がいます。肩書は社員教育のデイレクターで、ナイキの歴史や文化については誰よりも知っている語り部、社員みんなから尊敬され、愛されている人です。
私は面接のときにもネルソンには会っており、入社翌日、改めて挨拶に行きました。すると、前回会ったときはとても気さくで楽しい印象だった彼が怖い顔をして、「Yayoi,Noke was fine without you.Nike will be fine without you.(ヤヨイ、ナイキは君がいなくてもやってこられた。これからだってそうだよ」と言い、黙ってじっと私を見つめました。(P143)

といったところには、グローバル企業で実績をあげていく女性が階段を駆け上がっていくこれからの物語を想像し、かけあがるためのトレーニングシーンに流れる「ロッキーのテーマ」を思い浮かべてしまいますな。

【レビュアーから一言】

本書の本質は、大きな実績を残してきた人事ウーマンが語る「リーダーシップ論」なんであるが、彼女のリーバイスやナイキでのグローバル企業の奮戦記としても十分面白い。多様な読み方ができる「リーダーシップ」の本というのは、そうザラにはない。特にあらゆる企業の「頑張る人事担当者」にオススメですね。

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