美貌の古書店主「栞子」さん登場 ー 三上 延「ビブリア古書堂の事件手帖 1〜栞子さんと奇妙な客人たち」(メディアワークス文庫)

「ビブリア古書堂の事件手帖」は、2013年の1月14日から3月25日のほぼ2ヶ月間だけ剛力彩芽主演でテレビドラマ化されたのだが、原作との「溝」ゆえか高評価を博したとはいえなかったのだが、今回、黒木華さんと野村周平さんの主演で映画化された。
映画の評判は今後に任せるのだが、当方の感覚として、今回の主演の黒木華さんは、TV版より原作の「栞子」のイメージにあうので、記念に原作をレビューしておこう。

【構成は】

プロローグ
第一話 夏目漱石「漱石全集・新書版」(岩波書店)
第二話 小山浩「落穂拾ひ・聖アンデルセン」(新潮文庫)
第三話 ヴィノグラードフ・クジミン「論理学入門」(青木文庫)
第四話 太宰治「晩年」(砂子屋書房)
エピローグ

となっていて、本が読めないビブリア古書店のアルバイト「五浦大輔」、それにビブリア古書堂の店主の妹・文香とか、せどりを商いにしている「志田」たちがでくわす、本がもとの事件の数々を、古書店の美人店主「篠川栞子」が、本に関する知識を披瀝しながら、解き明かしていくミステリーである。

【あらすじと注目ポイント】

第一話は、五浦大輔がビブリア古書堂のアルバイトとして雇われる、いわば、このシリーズの導入部。きっかけは彼の祖母の残した本を処分するため、古書堂を訪れるところからスタート。
彼が売ろうとしている本「漱石全集」は、その第八巻の「それから」に「夏目漱石 田中嘉雄様へ_という署名がある。もし、本物なら高く売れることが期待できるのだが、入院中の古書店の美人店主の判定は、といった感じで展開していく。
ただ、この全集は、彼が幼少期に、祖母の部屋で装丁箱から出して遊んでいると、祖母からとんでもない勢いで叱られ、大輔が本が読めなくなった原因となったいわくつきのもので、しかも、この「署名」、どうやら偽物らしい。誰が何の目的で、書いたのか、さらには、祖母が激怒した理由は・・・といったところで、漱石の「それから」のストーリーが暗示する結末である。

第二話は、古書堂に出入りしている「せどり」を生業にしているホームレスの「志田」が主演。彼が鎌倉の寺でぶつかった女子高生に、本を盗まれたという訴えを、まだ入院中の「栞子」が解き明かす話。
キャンキャンと突っかかってくる女子高生の小菅奈緒の「恋バナ」の結末が切ないですな。まあ、これがこの娘と志田の師弟関係が生まれるきっかけでもあり、この後、二人はこのシリーズの重要な登場人物となるので、結構、大事な話であります。
ついでにいうと、いまでは、けっこう一般的になっている「せどり」というものを、当方がはじめて知ったのは、この話でありましたな。

第三話は、少々奇妙な「夫婦愛」の話。発端は、愛蔵している本を旦那のほうが売りに来ることからはじまる。なぜ、夫が本を売ろうとしているのか、その理由を知りたい妻の疑問に、栞子の謎解きがあざやかでありますな。この奥さん、かなり頼りないタイプなのだが、夫への情愛の深さは泣かせます。

第四話は、「栞子」が怪我をして入院した原因と、その犯人が明らかにされる話。彼女は、雨の日に坂の上の石段から突き落とされ、怪我をしたのだが、その陰に、彼女が所有する太宰治の署名入りのアンカット本を是が非でも手に入れようとする、古書マニアとのトラブルがあった。
その古書マニアは、どんな犠牲を払ってでも、その本を手に入れようとしていて、古書堂の近辺では、放火などの怪しい事件もおきる。
栞子は、彼女とその本を囮に、その古書マニアをおびき出そうとするのだが、その犯人の正体は意外にも・・・、といった展開である。

注目ポイントは、とんでもなく人見知りで、気分がのると「すー、すすー、す−」という口笛らしくない口笛が癖で

きっと読書の最中にうたた寝してしまったのだろう。膝の上で開いたままの本に、太いフレームの眼鏡が置かれていた。長い睫毛の下にすっと通った鼻筋。薄い唇が軽く開いている。柔らかい感じの美貌には見覚えがあった

という「栞子」さんの「可愛らしさ」と古書についてのウンチクの数々とが、妙にアンバランスで、「良い味」を出しているところであろう。おまけに、古書のウンチクは読むと、なんとなく賢くなったような気がするのが不思議でありますな。

【レビュアーから一言】

本書は、主人公の栞子が、足を怪我して入院中であったりしていて、いわゆるアームチェア・ディクティティブものなのだが、大輔や志田といった周囲の登場人物がかなりがちゃがちゃと動くし、第四話では、足が不自由ながらも栞子自体が、アクションを繰り広げるので、テンポよく読める、ライト・ミステリー。
休日の昼下がりや、平日の夕食後、まったりとしながら読むに、オススメでありますね。

【関連記事】

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