栞子と彼女の母の因果な関係が浮上するのだ ー 三上 延「ビブリア古書堂の事件手帖 2〜栞子さんと謎めく日常」(メディアワークス文庫)

前作の最後の方で、食品会社の職がきまりそうであった、五浦大輔なんであるが、案の定というか、シリーズ物のおきまりで、あっさりと面接不合格ということで、ビブリア古書堂のアルバイトに復帰。
第二作は、登場人物も、設定も、ひとまずの落ち着きを見せたところで、新たな謎の始まりである。

【構成は】

プロローグ 坂口三千代「クラクラ日記」(文藝春秋)
第一話 アントニイ・バージェス「時計じかけのオレンジ」(ハヤカワ文庫NV)
第二話 福田定一「名言随筆 サラリーマン」(六月社)
第三話 足塚不二雄「UTOPIA 最後の世界大戦」(鶴書房)
エピローグ 坂口三千代「クラクラ日記」(文藝春秋)Ⅱ

となっていて、プロローグとエピローグの「クラクラ日記」は、栞子の母親が失踪する前に彼女に残していった本なのであるが、本書から、彼女の「母親」の存在が大きな影を落としてきそうな感じでありますね。

【あらすじと注目ポイント】

第一話は、前作の第二話「小山浩「落穂拾ひ・聖アンデルセン」(新潮文庫)」で登場した小菅奈緒の妹が主演。彼女が書いた「時計じかけのオレンジ」の感想文が波紋を巻き起こす話。表題作の「時計じかけのオレンジ」の暴力表現への感想などへ、中学生らしからぬ「感想文」への小菅の両親や教師が心配や懸念を抱く、彼らと小菅に妹のトラブルなのだが、彼女の感想文自体がパクリでは、という疑惑が、バージェスの原作の最終章の経緯とともに明らかになるもの。もっとも、ネタバレすれすれでいうと、一番懸念すべきは、「栞子」の若かりし頃であったのですね。

第二話は、大輔の元彼女・高坂晶穂の最近亡くなった父親の大量の本を買い取る話。
元彼女・高坂の家に栞子と大輔が連れ立って、古書買い取りに行く場面に、今後の展開を期待してしまうのだが、今回の話の主題は、厳格な父親の娘への愛情と、折り合いが悪いと思っていた姉の意外な一面。
ただ、当方が思うに、今回は「栞子」の推理のおかげで無駄足にならなかったが、形見分けが不発になってしまう可能性はとても高かったのだが、と高坂の父親の度を越した深謀遠慮をかえって危惧してしまいますね。
なお、第一話で、大輔が落ち込む原因と鳴る、古書を探しているという電話の主が、その父親なのだが、そこにも仕掛けがあるので要注意である。
ちなみに、表題作の「名言随筆 サラリーマン」は文春新書で2年前の刊行された「ビジネスエリートの新論語」とはものが違うんですかね、誰かわかったら教えてくださいな。

第三話は、これからいろいろと問題になりそうな「栞子」さんの母親にまつわる話。彼女の母親は、栞子以上に古書の知識があって、なおかつ頭の切れる、しかも、この話でも半分だまし討のように、マンガの稀覯本を手に入れるとこともみると、道義心のほうは、かなり薄いという、なんとも厄介な人物であるらしい。今回の話の中心は、彼女の母親が昔関わった、古書マンガの売買の後始末的な話であるのだが、栞子と母親の確執は次話以降も後をひきそうでありますね。

【レビュアーから一言】

登場人物の役どころも収まりが良くなったところで、今巻は古書のそのもののウンチクが満載の仕上がりとなっている。当方は電子書籍・自炊派の方で、「本そのもの」を慈しむ傾向はほとんどないのだが、「愛書家」のこだわりや嗜好は、筋金入りの「マニアの極み」のようなところがあって、読み物として興味深いですな。

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