「栞子」のまわりには古書がらみの事件が相次ぐ ー 三上 延「ビブリア古書堂の事件手帖 3〜栞子さんと消えない絆」(メディアワークス文庫)

第二巻のあたりから、「栞子」と「文香」の姉妹の母親・智恵子の存在が物語の展開に大きな影響を及ぼしてきているのだが、彼女のことは、古書に関するとてつもない量の知識を優しているとともに、目的のためには手段を選ばないといったところしか明らかになっていない。
本巻は、それぞれの単話の謎解きのほか、その「智恵子」の若い頃のエピソードが、かつての知り合いのもとから集まり始めるというのが特徴の一つなのだが、次巻以降の展開の「幕開け」といった位置関係であろうか。

【構成は】

プロローグ 「王様のみみはロバのみみ」(ポプラ社)Ⅰ
第一話 ロバート・F・ヤング「たんぽぽ娘」(集英社文庫)
第二話 「タヌキとワニと犬が出てくる、絵本みたいなの」
第三話 宮沢賢治「春と修羅」(関根書店)
エピローグ 「王様のみみはロバのみみ」(ポプラ社)Ⅱ

【あらすじと注目ポイント】

「プロローグ」と「エピローグ」は、「智恵子」が栞子たちの近況をどういう訳か知っている、という謎の提供と解決。もっとも、情報の提供者が明らかになったところで、「智恵子」がその知識をもちながら、栞子の前に姿を見せない原因はエピローグの後の不明のままで、この謎は次巻以降に、というところであろう。

第一話は、アマゾンのあらすじによれば、「甘く美しい永遠の名」というヤングの「たんぽぽ娘」が展開をリードする。
筋立ては、ひさびさに出店した古書市場の取引で、篠川母娘を快く思わない藤沢の古書店「ヒトリ書店」の書店主から、栞子たちが、自分が競り落とした、この「たんぽぽ娘」の文庫稀覯本を盗んだという疑惑をかけられるもの。もちろん濡れ衣なのだが、この事件の陰に、いつの間にか隙間風が入り込み、最後は離婚する本好きの夫婦が絡んでいるのが、古書ミステリーらしい。
ちなみに、作中では創元推理文庫版もコバルト文庫版も「絶版」となっている「たんぽぽ娘」なのだが、河出文庫から出版されている。Kindle版もあるので、当分絶版はないでしょうね。

第二話は、第一巻で登場した服役歴があって、視力が衰えていることをなかなか妻に言えなかった坂口を支えている妻の「しのぶ」の実家が舞台。
発端は、本をほとんど読まない彼女が子供の頃読んで、唯一、面白かった本で「題名に片仮名の名前が入っていて」、「タヌキとワニと犬が出てくる、絵本みたいなの」という本を実家に探しにいくのがスタート。
この実家の母親と「しのぶ」とは中学生時代から仲が悪い。坂口と結婚した後も、坂口に服役歴のあったことを知って坂口にひどいことを言う母親とあわやとっくみあいという喧嘩をしたという筋金入りに仲の悪い母娘なんである。「栞子」のところといい、「「しのぶ」のところといい、中野悪い母娘がやけに多いな、と思わないでもない。
話の展開は、しのぶが家を出ても、子供の頃飼っていた犬の犬小屋がまだ残されていたり、しのぶの本や部屋がそのまま残されている理由を解きほぐすというものだが、母と子のつながりがさらにつながっていくところにもっていく展開は、筆者の腕の冴えですね。

第三話では、栞子の母親・智恵子の同級生・玉岡聡子が、父親の蔵書を売りたいと持ちかけてくる話からスタート。もちろん、単に蔵書の処分という単純なものではなくて、その条件に、父親の書斎から盗まれたらしい宮沢賢治の稀覯本を見つけ出すことが条件である。
同級生・玉岡聡子は、犯人は、事業がおもわしくなく資金に困っている兄の一郎夫婦に違いない、と主張するため、兄の家に捜査に赴くが・・・、といった展開である。
犯人と手口はちょっと後出し感であるのだが、実は、依頼者の側にも、古書マニアそのものの隠し事があって、というところで、最後まで余談を許なさないので念の為。

【レビュアーから一言】

今巻の収穫は、第二巻では詐欺まがいの手口で、マンガの稀覯本を安価に手に入れたということで、悪辣なイメージしかなかった、「篠川智恵子」のイメージが度を越した「本好き」であるがゆえの「仕業」では、と思えてきたこと。もっとも犯罪(窃盗ぐらいにことだけどね)に加担したり、相手の弱みにつけこんで自分の思うように動かす、といったところは変わっていないので、この辺は、中野信子さんの「サイコパス」あたりで、こういう輩に対する免疫ができているせいかもしれんですね。特に

第三話で母親の同級生の兄が

美人で賢くて心優しい、いかにも文学少女って感じの人でしたよ。同じ本好きでも聡子なんかとは全然違う。・・・こんな子が自分の妹だっtらといつも思ってました。

と述懐するところと第三話の謎を解いた栞子に対して

智恵子さんとは別の意味で、あなたは他人に容赦がないのね。・・・あの人なら、こういうことにな目をつぶってくれたと思うけれど。それなりの謝礼を払えば

という玉岡聡子の発言のところに「サイコパス」そのものの匂いがだんだんしてきますね。次巻以降、どんな形で栞子と大輔の前に登場してくるのか楽しみでありますね。

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