栞子さんの母親が、栞子さんを古書の暗黒面へ誘いにくる ー 三上 延「ビブリア古書堂の事件手帖 4〜栞子さんと二つの顔」(メディアワークス文庫)

ビブリア古書堂の店員も板についてきた、本の読めない古書店員・五浦大輔と、本の知識は豊富なのだが、人見知りが激しい、巨乳で楚々とした美人古書店主・篠川栞子のコンビの活躍も数々の事件を解決して、まさに油がのっている状況。
今巻は、シリーズ初の長編で、「江戸川乱歩」の収集家の古書を巡る謎解きである。

【構成は】

プロローグ
第一章 「孤島の鬼」
第二章 「少年探偵団」
第三章 「押絵と旅する男」
エピローグ

となっていて、「江戸川乱歩」と聞いただけで、自らのミステリーの読書経験を熱く思い出す、年配のミステリー・ファンも多いのではなかろうか。
今巻では、第2巻以降、その姿を濃くしてきていた、「栞子」の母親・智恵子がとうとう、リアルに姿を現す。「プロローグ」のところで

影のように黒いコートと同じ色のロングスカートー顔かたちは相応に年を取っているが、遠目にはぞっとするほど栞子さんに似ている。母親というよりは、不吉な分身のようだった。

と描写されていて、このシリーズでの、「智恵子」の役回りがなんとなく想像される出だしである。

【あらすじと注目ポイント】

滑り出しは、母親・智恵子の知り合いを名乗る「来城慶子」の妹の「田辺邦代」という女性が、江戸川乱歩の蔵書コレクションをすべて売りたい、と相談してくるところからスタート。
もちろん、このシリーズの常として単なる、蔵書引取りの相談であるはずもなく、条件は、「江戸川乱歩に縁のある、珍しい品が入っている」らしい、旧日本軍特注の三重金庫を開けること、である。

ただ、三重のロックを解くには、鍵とダイヤルと暗証文字(パスワード)で、ダイヤルの数字はわかっているのだが、パスワードは不明。さらに鍵は、この家の持ち主の故・鹿山明の息子の家にあるらしいのだが、来城慶子は、鹿山明の「隠された」愛人であったため、息子たちから快く思われておらず、協力が得られない、とけっこうハードルの高い代物なんである。

鹿山明という人物も、学校経営をしていた「堅物」で、「江戸川乱歩」のような探偵ものは、息子・鹿山義彦や娘・鹿山直美にも固く禁じていた、という人物なので、彼がなぜ、愛人の家に「江戸川乱歩」の古書を収集していたのか、という謎と、明の娘・直美は、栞子の天敵・ヒトリ書店に勤めている上に、義彦と直美は、ヒトリ書店の店主と幼馴染で、「少年探偵団ごっこ」をしていた仲良し、といった設定になっているので、謎解き自体も、この辺の人間関係が影響して複雑に蛇行して展開していくのが、面倒ながらも、今巻の読みどころのひとつ。

もうひとつは、「人間椅子」をはじめとした乱歩ものを想像させるソファーとか、隠し扉とかのカラクリが、パスワードや鍵探しのところで惜しげもなくでてくるところで、「明智小五郎」シリーズなどを学校の図書館から借りて読んでいたオールド・ミステリー・ファンなら、思わずニンマリしてしまうところである。

もちろん、「栞子」の江戸川乱歩の古書についてにうんちくの数々は、挿話としてもいいアクセントになっているし、古書話としても楽しめる出来である。最後のダメ押しが、乱歩が便所に叩き込んだという「押絵と旅する男」の初稿の行方で、ここのところはワクワクと読み進めてしまいますな。

なお、最初の買い取りの相談の場面で、栞子の古書の知識を試すために「乱歩の著書の(フェルトのカバーのかかった)初版本を、手を触れずに、(外観だけで)署名を答える」というテストがされ、栞子は十秒ぐらい考えた末、正答するのだが、ここが、物語の後半の、母親との技量を比べるキーにもなるので、気を許さないでくださいね。

【レビュアーから一言】

謎解きの経過で、江戸川乱歩趣味を隠して二重生活を送っていた人物の、今までの厳格な一面ゆえに疎まれていた娘に対する愛情が溶け出してくうところには、じんわりとさせられてしまう。
心配なのは、古書の知識への貪欲さゆえに、母親と同じ傾向を示す場面の多い「栞子」の行方である。彼女が「古書」の暗黒面に取り込まれてしまうのかどうか、次巻以降の楽しみでありますね。

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