栞子に限らず「古書」愛好家の怖さが伝わってくる ー 三上 延「ビブリア古書堂の事件手帖 6〜栞子さんと巡るさだめ」(メディアワークス文庫)

本の読めない古書店員・五浦大輔と人見知りの激しい「本」オタクの美人古書店主・篠川栞子を主人公にしてきたビブリア古書堂のシリーズなんであるが、二人の仲も接近する一方で、栞子の母・篠川智恵子の干渉も強くなってきて、シリーズも終盤のクライマックスに近づいているようだ。
本巻は、第一巻で栞子を襲った田中敏雄が再登場して、再び太宰の古書をめぐる謎解きが開始されるのだが、大輔の祖母の秘密も含めた、第一巻で残った謎の解決編といった位置関係である。

【構成は】

プロローグ
第一章 「走れメロス」
第二章 「駈込み訴へ」
第三章 「晩年」
エプローグ

となっていて、病院に入院している五浦大輔のもとに、篠川智恵子が訪ねてきて、彼が怪我をするに至るまでの10日間の出来事を聞く、という設定である。
中心として取り上げられる古書は、第一巻の第一作と同じように「太宰治」のもので、さらには第一巻で、栞子を石段から突き落とした、田中敏雄が再登場である。

【あらすじと注目ポイント】

物語は、ビブリア古書堂に、前作の最後で栞子の晩年すり替えのことを知っていると、田中敏雄からの手紙が投げ込まれたため、その真相を探るため、大輔が田中に接触するところからスタート。ところが、その手紙を出していないと田中敏雄中は主張、そのかわり、祖父の持っていた稀覯本の捜索を依頼されるという形で物語がスタートする。

捜索のため、大輔と栞子は、田中の祖父で、大輔の、おそらくは祖父でもある田中嘉雄の若い頃を調べることになるが、そこで、彼ら当時、田中嘉雄が、古書店・虚貝堂の若旦那・杉尾、大学の研究や・富沢、映画撮影所勤務の小川ら4人で太宰の熱狂的ファンのグループを組織していたが、富沢の書斎で太宰の稀覯本の盗難事件が起きたことを知る。

田中嘉雄はその所蔵本「晩年」を、富沢に見せて話し込んでいたことがあるらしく、その行方を捜すには、この富沢家の盗難事件の謎を解かないといけない事態となる。
しかも、田中たちのグループが大輔の祖母のやっていたごうら食堂の、常連であったことや、も判明し、この事件、祖母と田中嘉雄の秘密にも関係しているようだ。

さらに、調べていくうちに、盗まれた本が栞子の祖父によって富沢のもとに返ってきたことや、祖父がビブリア古書堂を開く前に修行していた「久我山書房」の娘・鶴代と、富沢の娘・紀子が親友であったことも明らかになるのだが・・・と展開していくのである。

で、富沢家での盗難事件のキモは、久我山書房の初代店主・久我山尚大で、彼の所業が田中嘉雄の所蔵していた「晩年」の行方や、今巻で起きる事件に密接に関連してくるので、彼のエピソードが出たら注意して読んだほうがよいですね。

この久我山書房の初代店主・久我山尚大の孫娘(鶴代の娘)の「久我山寛子」という娘は、

門をくぐってドアの前に立った時、紫陽花の生い茂った庭から人影が現れた。ミニスカートと黄色いパーカーを着た若い女性だった。ストレートロングの髪はどことなく栞子さんを思わせる。
「こんばんは、栞子さん。時間ぴったり」
ポケットに手を入れたまま笑いかけてくる。歯切れのいい口調だ。頭の大きさのわりに目と口が大きく、夕闇の中でも白い歯がくっきり光った。個性的な顔立ちだが美人ではある。

といった感じで、古書には詳しいが結構面倒くさい「栞子」の性格と好対照のようで一見、好ましい印象を与えるのだが、古書に関係する女性というのは、一筋縄ではいかないので要注意である。

【レビュアーから一言】

古書の収集家は言うにおよばず、古本を手にして「本の中身にも、これを持っていた太宰自身にも、その後手に入れた人々にも、それぞれの物語がある、それらがすべてこの一冊に詰まっている。(P293)」という感慨を覚える古書好きの読書家の「業」の深さを感じてしまうのが、今巻である。そして、その業の深さゆえに、物語にも深みと恐ろしさが増している。
唐突ではあるが、古書を古書であるがゆえに尊重できるかどうかが、電子書籍に馴染めるかどうかの分かれ目であるように思えますね。

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