シェークスピアの古書を巡る母娘のバトル勃発 ー 三上 延「ビブリア古書堂の事件手帖 7〜栞子さんと果てない舞台」(メディアワークス文庫)

本の読めない古書店員・五浦大輔と人見知りの激しい「本」オタクの美人古書店主・篠川栞子を主人公にしてきたビブリア古書堂のシリーズもいよいよ、ひと区切り。
とはいっても、この後も外伝的なものは出版されているので、「栞子と智恵子」編が終結というべきかな。

【構成は】

プロローグ
第一章 「歓び以外の思いは」
第二章 「わたしはわたしえはない」
第三章 「覚悟がすべて」
エピローグ

となっていて、今回とりあげられるのは、洋書、しかも17世紀に刊行されたシェークスピアの作品集という大物である。正式には「ファースト・フォリオ」というものであるらしいのだが、その貴重さとか、詳しくは本書内で栞子の語る「うんちく」で確認あれ。
そして、今巻は、栞子の母親・智恵子がまだ若い頃、前作で登場した欲しい古書を手に入れるためには非道な手段をとることも頓着しない、悪辣な古書店主・久我山尚大が、彼女を後継に指名しようとするシーンがプロローグとして挿入。
この後継指名を断ったあたりから、彼女の失踪事件の原因も仕込まれているらしく、このシリーズ自体の発端といえるのでしょうね。

【あらすじと注目ポイント】

物語の本編は、久我山書店の創業者の妻・真里と孫の寛子から、太宰の「晩年」のアンカット版を守るため、栞子に怪我をさせた犯人・田中敏雄と交わした契約(田中の祖父・田中嘉雄の持っていた太宰の「晩年」の初版本を探し出して彼に渡すこと)を履行するため、少々怪しげな古物商・舞砂道具店の店主・吉原喜市と、その「晩年」の初版本の取引をするところからスタート。
この初版本に吉原がつけた値段が、べらぼうに高くて、ビブリア古書堂は経営が苦しくなる上に、妹の文香の大学進学費用も危うくなり、という経営難に陥るのだが、これが、吉原の奸計であった、という筋立て。

彼の奸計はこれにとどまらず、篠川智恵子の母親水城英子から、シェークスビアの古い作品集のファースト・フォリオの複製本をだまし取り、さらにはそれを高く買い戻させたりするのだが、彼の目的は、栞子や大輔たちではなく、昔、久我山尚大の後継指名を断った、篠川智恵子の評判を地に墜とすことにある。

で、彼は、栞子たちが取り戻したファースト・フォリオの複製本の3つの色違い本を持っているのだが、この複製本を競りにかけるので栞子たちも参加しては、と誘ってくる。この複製本の周辺を調べてみると、3つのうちのどれかが未だ発見されていないシェークスピアのファースト・フォリオの可能性が濃厚で、もしこれを競り落とすことができれば、ビブリア古書堂の経営も改善どころか一気に大逆転というところなのだが、案の定、栞子の母親・智恵子もこの競りに参加してくる。因縁のある母娘が、古書を巡って大バトルを繰り広げるのだが・・・、といった展開で、ここから先はネタバレが過ぎるので、原書で読んでくださいな。

少し踏込むと、吉原の悪巧みは根深く仕込んであって、この栞子たちもあやうく犠牲になるところなんであるが、やはり「正義は勝つ」「愛は強い」っていうのが最後の決め、でありますね。

【レビュアーから一言】

全七巻に渡って繰り広げられてきた古書をめぐるミステリーと、古書を偏愛する母娘の確執の物語もひとまずはここで大団円。
この巻の最初のほうで、栞子の才能の邪魔をするなとばかりに、篠川智恵子から軽く扱われていた大輔も、最後の方で体力だけでなく、一応面目を保ったというところでめでたしめでたし。
もっとも、篠川智恵子は、パートナーとして栞子を諦めていないようであるので、これからも彼女の魔の手は伸びてくるんでありましょうが。

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