「スペシャリスト」ではない生き方も魅力的だ ー エミリー・ワプニック「マルチ・ポテンシャライト 好きなことを次々と仕事にして、一生食っていく方法」(PHP)

もしあなたが、次の2つの項目

①「一筋の道」とか「専門家」とか、とかく世の中のワークスタイルについてのアドバイスは、特定の分野を永年にわたって掘り下げる人を推奨することが多くて、あちこち興味が移る人にとっては、とても冷たいことが多い。

②日本社会の「職人崇拝」の影響のせいか、企業社会においても「スペシャリスト」よりも「ゼネラリスト」は「冷遇」されててしまうことが多いような気がする。

について賛同できて、さらに自分自身が「興味が多方面にあるために冷や飯を食わされている」と思っていたら、あなたは、本書にいう「マルチ・ポテンシャライト」なのかもしれない。

そんな移り気といわれる「マルチ・ポテンシャライト」がとても魅力的な性向で、「スペシャリスト」では実現できない、様々な成功の可能性を秘めていることを教えてくれるのが、本書『エミリー・ワプニック「マルチ・ポテンシャライト 好きなことを次々と仕事にして、一生食っていく方法」(PHP)』である。

【構成は】

PART1 あなたが「なりたいものすべてのもの」になる方法
     ようこそ、「マルチ・ポテンシャライト」の世界へ

 第1章 マルチ・ポテンシャライト
  ー世間にしばられず、複数の天職を追求する人たち
 第2章 マルチ・ポテンシャライトのスーパーパワー
 第3章 マルチ・ポテンシャライトが幸せに生きる秘訣

PART2 マルチ・ポテンシャライトの4つの働き方 十人十色

 第4章 グループハグ・アプローチ
 第5章 スラッシュ・アプローチ
 第6章 アインシュタイン・アプローチ
 第7章 フェニックス・アプローチ

PART3 マルチ・ポテンシャライトたちの課題
     ”ドラゴン”の倒し方を教えよう

 第8章 自分に合う「生産性システム」のつくり方
 第9章 マルチ・ポテンシャライトが抱く「不安」に対処する

となっていて、PART1が、「マルチ・ポテンシャライト」が決して劣った性向ではないという評価、PART2が、「マルチ・ポテンシャライト」の類型分析と、それぞれの特徴とワークスタイルの処方箋、PART3が、「マルチ・ポテンシャライト」全てに向けて、彼らの仕事のスタイルや仕事をする上で、彼ら特有の悩みへのアドバイスである。

 

【注目ポイント】

◯「マルチ・ポテンシャライト」とは

本書によれば、「マルチ・ポテンシャライト」とは、「さまざまなことに興味を持ち、多くのことをクリエイティブに探求する人」ということなんであるが、これは言葉を変えれば「何でも屋」「専門家でない人」「気分屋」という言葉で今まで避難されてきたことも多く、このタイプに属する人は不満を抱えたり、周囲から警戒されたりすることも多かったはずである。

ところが本書では、そんな「マルチ・ポテンシャライト」について「スペシャリストは一つの分野に 秀でているが、マルチ・ポテンシャライトはいくつかの分野を融合させ、それが交わる場所で活動している」として、一つの分野の「掘り下げ」ではなく、複数の分野の「融合」とか「共通分野の抽出」とかにその才能が発揮される可能性を見出している。

これは、「タコ壺」に陥っているときや、時流に取り残されそうな時とか、「危機」にある時に貴重な才能といえる。今までのルーティン化したり、コモディティ化した「専門家」ではできない発想が、こういう危機を打ち破るキモでもあるので、事業の再構築や新分野進出の際は、むしろこういうタイプが必要なんであろうな。

◯「マルチ・ポテンシャライト」のワークモデル

ただ、ひと言で「マルチ・ポテンシャライト」といっても、その「移り気」具合でいくつかに分かれるようで、本書では、「グループハグ・アプローチ」
「スラッシュ・アプローチ」「アインシュタイン・アプローチ」「フェニックス・アプローチ」の4つに分類している。

それぞれを概説すると

<グループハグ・アプローチ>

ある一つの多面的な仕事やビジネスに携わることで、職場で多くの役割を担い、いくつもの分野を行き来する

<スラッシュ・アプローチ>

パートタイムの仕事やビジネスを掛け持ちし、精力的にその間を飛び回る

<アインシュタイン・アプローチ>

生活を支えるのに十分な収入を生み出し、ほかの情熱を追求する時間とエネルギーも残してくれる、フルタイムの仕事がビジネスの携わりながら、情熱を注げる取り組みをほかに持つ

<フェニックス・アプローチ>

ある業界で数ヶ月、もしくは数年働いた後、方向転換して、新たな業界で新たなキャリアをスタートさせる

ということであるのだが、本書の面白いところは、これを「タイプ」、「類型」とあえて表現せず、「アプローチ」としていること。

つまりは、「マルチ・ポテンシャライト」をきちっと細分化していくことこそ、「スペシャリスト」志向の弊害であるからで、「タイプ別」に考えるといったことを、そもそもやめないといけない、ということかなと当方は類推した。
「マルチ・ポテンシャライト」は興味が同時に多方面に広がる性向というだけで、その現れた方は状況によって変化するので適したワークスタイルも、その時々で変わると考えておくべきで、4つのアプローチを、そのステージや状況に応じて使い分けするのが最も現実的である、といったところであろう。

◯「マルチ・ポテンシャライト」が機嫌よく人生をおくるコツ

本書では、それぞれのアプローチごとに、オススメのキャリアプランを提案しているのだが、詳細は本書で確認してもらうとして、このレビューでは、「マルチ・ポテンシャライト」すべてに共通の「機嫌よく人生をおくるコツ」をピックアップしておきたい。

まずは、

生産性をめぐるアドバイスのほとんどは、マルチ・ポテンシャライトのことを考えていない。私たちに「多様性」が必要なことを、考えても反映してもいないのだ。スペシャリスト向けの生産性のアドバイスはたいてい、しゃくし定規なシステムに従うことを勧めているが、私たちには柔軟なアプローチが欠かせない

と、世間一般のビジネス書の、効率性を上げるためのアドバイスには従ってはいけない、ということ。これは、世間一般のビジネスアドバイスがあてにできない、ということで自分で途を切り開いていかないといけないってことではあるが、反面、自分の判断で動けるということで、とても自由なものでもある。

そして、このような状況は、多くの「マルチ・ポテンシャライト」にとって

生きている間に実にたくさんのことを経験できる! この世でありとあらゆることをするのと、一つしかしないことの間には、途方もない開きがある。その途方もなく広い空間こそが、マルチ・ポテンシャライトの遊び場なのだ。

というふうに、明るくとらえることができるシチュエーションであろう。
加えて、そうはいっても、ルーティンワークや方向の決まりきった仕事をやらないといけない場面は、ビジネスであれば多々あるのだが、そんなときは

生産性に関する本を読めば、「プロジェクトが1~5個なんて多すぎる」「静かに一つのことに集中し、終わってから別のことに取り組むべきだ」というメッセージを受け取るだろう。そのアドバイスは、スペシャリストの耳にはしっくりくるが、マルチ・ポテンシャライト向きではない! 私たちは常にたくさんの情熱――頭がごちゃごちゃになるような面倒なテーマ、キラキラ輝くもの、新たに心惹かれる何か――を探求させてもらう必要があるのだ。
(略)
だから、両目でひたすら舞台を見つめるのではなく、ちょっぴり目を泳がせておこう。

といった気分で、スペシャリストたちの忠告は話七分にして、そっとよそ見する、ってのが。「マルチ・ポテンシャライト」な人々の精神衛生上はよろしいような気がしますね。

【レビュアーから一言】

すべての面において「マルチ・ポテンシャライト」という「興味が多方面に同時に向いてしまう」性質が100%な人ではないと思うが、「スペシャリスト」偏重の職場にうんざりしたり、閉塞感を抱いている人は、かなりの割合でいるはず。
そんな人は、本書の「マルチ・ポテンシャライト」の生き方やワークスタイルを、ちょっぴりでもいいから取りれてみると、心が軽くなることうけあいである。お試しあれ。

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