「不倫」は”文化”じゃなくて、”脳科学的”な現象です ー 中野信子「不倫」

筆者である脳科学者の中野信子氏は「サイコパス」や「シャーデンフロイデ」などの著作で、
人間の「思いやり」とか「妬み」とかの心理について、「脳内物質」というキーワードをもとに、これらの感情の問題を、理想論や思想的に捉えることの危うさと、むしろ、生物学的にとらえたほうがすっきりと腑に落ちることを教えてくれていた。
今回は、最近、有名タレントをはじめ、世の中の至るところで、大っぴらに出くわすようなった「不倫」をとりあげて、不倫が生まれる、脳科学的な原因と、それに起因する社会的要因を明らかにしたのが本書『中野信子「不倫」(文春新書)』である。

【構成は】

はじめに なぜ「不倫」はなくならないのか
第1章 人類に一夫一婦制は向いていない
第2章 不倫遺伝子
第3章 あなたの恋愛体質を診断する
第4章 不倫はなぜ叩かれるのか? 社会的排除のしくみ
第5章 不倫をやめられないあなたへ

となっていて、第1章は、不倫の国家事情というか、どういう社会で不倫が批判されやすいか、といった「不倫の社会学的分析」ってな感じ。第2章と第3章は、個人に着目して、なぜ不倫しやすい、浮気しやすい人と「貞淑」といわれる人に分かれるのか、といった脳科学による「ヒト」の「不倫因子」の分析。
第4章では、不倫はなぜ避難の的になるのか、といったところを倫理的な視点ではなく、これまた脳科学に基づいた「社会学」的な分析を試みる。
第5章は、「不倫」や「浮気」についてのまとめ的なもので、いくら非難されても、浮気がやまない向きは読んでおくと少しは気が晴れるかもしれない。

 

【注目ポイント】

まずは結婚生活の基礎ともいえる「一夫一婦制」について、もともとヒトは「向いていないんでは」といったところが軽いショック性のある提言から始まる。
本書によれば、日本は不倫へのバッシングは強いが、実は不倫率もそこそこ高いらしい。そして生物学的に

一緒に過ごした時間が短いカップルほど、次のセックスの時には男性の精子が多く放出されていたのです。これは、カップルが離れていた時間に女性が別の男性とセックスをした可能性を無意識に考慮し、精子間競争に勝つために男性側が多数の精子を送り込もうとするシステムが働いているためだと考えられます。

とし、さらに

よくよく考えれば、現在の日本をはじめとする先進国の社会制度は、本当の意味での一夫一婦制を前提としてはいません。現在結婚している人が別の誰かと恋愛すれば、「不倫」となります。しかし、伴侶をなくしたり離婚をしたりした場合、「時間差」があれば、再婚は許されています

として、「一夫一婦制」の聖域化を揺さぶり、「一夫一婦制がその生物にとって一般的な戦略となるのは、乱婚であるよりも、1対1の夫婦関係を保った方が、たくさんの子どもを残せる場合です」と身も蓋もないあたりにたどり着いてしまうのが、本書を読む魅力の一つでありますね。

ただ、かといって「不倫バンザイ」や「不倫は新しい文化だ」と不倫行動を擁護したり、賛美したりしているわけではなく、

じつは最新の研究によって、ある特定の遺伝子の特殊な変異体(バリエーション)を持つ人は、それを持たない人に比べて、不倫率や離婚率、未婚率が高いことがわかっています。また、その遺伝子を持つ人は、性的な行動だけでなく一般的な行動においても違いがあり、たとえば「他者に対する親切な行動」の頻度が低いこともわかっています。
(略)
そして、その人たちの遺伝子を調べると、とくに女性に「特定の遺伝子」を持つ割合が、母集団平均より多かったそうです。この特定の遺伝子が、どうやら不倫をつかさどる「不倫遺伝子」である可能性が浮上してきました。

といったことを次のところでは出してきて、不倫ってのは「生物学的な性向」に過ぎないのか、と人間の行動になにかしら理念とか理想ととかを見出したくなる意識に冷水を浴びせてくるのである。
もっとも、妙な世界観を語られるより、こうした「生物学的」あるいは「即物的」に人間心理をさばいてくれるあたりは、むしろあっさりしていて小気味いい。
このへんは「D2受容体が不活性な人間は、特定の人間と愛着形成がしにくい──結果として、一夫一婦制になじまない性行動を取るだろう──という推測」をしたり、「たとえば脳の中の「眼窩前頭皮質」や「内側前頭前皮質」といった脳の機能が生まれつき低い人は、性的にアクティブになりやすいと言えます」として

ある人の振る舞いが一夫一婦制に合致するかどうかは、本人の意志や努力ではなく、遺伝子や脳の仕組みによって決まっている部分も大いにあるのです

といった結論にいたるあたりは、夏のピーカンの青空の下に突然出てきたかのような一種の「爽快感」がありますね。

とはいいつつも、「不倫をする人間は社会集団の中での「フリーライダー」とみなされることが多いからです」とし、

共同体の構成員は、フリーライダーを放置しておくと、自分にとって将来的に大きな損害となる可能性があります。
そこで、共同体の崩壊を避けるためにフリーライダーを罰して「きちんとコストを払え」と強制するか、共同体から追放しなければなりません。また、「抜け駆けするやつは罰せられる」と見せしめにし、規律を維持する必要があります。

とし、サンクション(制裁行動)がとられることが多い、と忠告している。
特に日本人は、セロトニンを減少させやすく、不安に陥りやすい傾向があるセロトニントランスサポーターの遺伝子の型が多いらしく、この場合、セロトニンの代償にオキシトシンを利用する現象が起き、このオキシトシンは、排外感情を高める内集団バイアスや外集団同質化バイアスを高める傾向があるとのこと。
バッシングもおきやすく、またキツくなりやすい傾向があるらしいので、「浮気性の人」「不倫しやすい人」は、日本国内で不倫したりする時は気をつけてくださいね。

【レビュアーから一言】

とかく「倫理観」とか「文化論」や「信条」の面で説教されたり、称賛されたりする「不倫」という行為も、本書のように、「脳科学」的、「生物学」的にまな板の上でさばいてもらうと、なぜか安心するというか、すっきりするのは当方だけであろうか。
何事も、目くじら立てて非難する前に、こういった「科学的」な話を読んで、クールダウンすることが大事なのかもしれないですね。

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