定番の「不思議話」の後で、”見初”の隠された秘密が出現する ー 硝子谷玻璃「出雲のあやかしホテルに就職します 3」(双葉文庫)

「出雲のあやかしホテル」シリーズも3巻となって、主人公の「見初」を始め、それぞれのキャラの持ち味や立ち位置も定まってきたところ。
登場人物たちも、物語の設定さえつくっておけば、勝手に動き始める時期なのであるが、次の展開への種を仕込んでおかないと、シリーズそのものがしぼんでいく可能性を持ち始めるときでもある。その意味で、今巻は、なじみの不思議話のほかに、陰陽師の一族の過去の争いを連想させるエピソードも登場させながら、次巻以降の新しい展開につなげるつくりである。

【収録は】

第一話 桜情景
第二話 太陽と月
第三話 人魚の血
第四話 ひととせ様と見初

となっていて、メインは、永遠子と祖母の思い出や天樹の生家にまつわる話など、登場人物の姿を深掘りしていく始めの二話に、八百比丘尼を連想させる「人魚伝説」をモチーフにした第三話といったメニューとなっているのだが、おさえておかないといけないのは、「見初」の能力の秘密が明らかになる第四話である。
今まで、少々行き過ぎではあっても、陰陽師の社会は平穏さが保たれてきているような印象であったのだが、どうやら冬緒の属する「椿木家」を中心にきな臭いものが漂っているようで、次巻以降に備えて、そのあたりをおさらいしておいたほうがいいかもしれんですね。

 

【あらすじと注目ポイント】

第一話の「桜情景」は、ホテルの経営者の櫻葉永遠子が、見初はじめホテルの従業員と一緒に、彼女が毎年こっそり行っている「桜の花見の穴場」へでかけた際での出来事。
そこには、いつも桜の妖精や山の妖怪がいるのだが、今年に限って姿が見えない。どうやら、山に妙な「女神」が住み着いてしまったのだが、この女神・野霧は、山を守る代償として、美しい女性を生贄に差し出すよう、妖精や妖怪に命令をしている。そんな時に山に入ってしまった、美女の永遠子をはじめホテルの面々の運命は・・・、という展開。
永遠子の祖母・悠乃から続く、山の妖精とのつながりが、彼らの危機を救う話でもありますな。

第二話の「太陽と月」は、ホテルのバーテンダー・十塚天樹とその弟・佳月の奇妙な兄弟愛に関する話。
天樹と佳月は、四華の次ぐらいに位する陰陽師の名家・十塚家の出身で、佳月が若くして、その当主の座に就いている。佳月は、毎年、天樹をホテルを辞めさせて、家に連れ帰ろうとやってくるのだが、その時には、いつも、ホテルの周りに悪霊が多数出没する、という厄介なおまけがついてくる。佳月の来訪をホテルの面々は迷惑がっていたのだが、実は、その悪霊を呼んでいたのは・・・、という展開。
明るくて、誰にでも(悪霊にすら)好かれる人ってのは、ある意味、陰気な人よりやっかいかもしれない。

第三話の「人魚の血」はひさびさに、ホテルの宿泊客に関する話。海神の使い魔の蛙に導かれて、「竜胆」という薬師(くすし)と、その若い女性の従者・沙羅が、ホテル櫻葉を訪れる。
「沙羅」はどうやら人魚の化身であるらしい。
彼らがホテルに宿泊しているうちに、海神が病気にかかり、出雲地域を大雨に見舞われることに有る。「竜胆」は海神の治療に行くのだが、海神の病はかなり重く、「竜胆」や「沙羅」の命すら危険にさらされて・・・、という展開。
「人魚の血」の哀しい話と、「見初」の力が出現しはじめるところがこの話の肝かな。

第四話の「ひととせ様と見初」は、第三話で力が発現し始めた「見初」が、高校時代以降、離れて暮らしている家族のもとへ里帰りする話。
シリーズの最初では、単に「幽霊」や「妖怪」が見える性質の女の子としての位置づけでしかなかった彼女が、実は陰陽師の「四華」の上位に位置する「四季神家」の一族で、四季神家の能力を持っているのは、今では「見初」しかいない、という、まあ、「貴種譚」の発動であるのだが、これが次巻以降のシリーズの新展開に結びつきそうな感じがするので、丁寧に読んでおこう。

【レビュアーから一言】

今までは、陰陽師の家系に属する経営者と、陰陽師の家系の従業員たちによって、「妖かし」の聖地でもある「出雲」のホテルで数々の「不思議」な話が繰り広げられる、といったあまり諍いや争いのない展開であったのだが、今巻に至って、見初の能力の源泉が明らかになることで、次巻以降はそういうわけにはいかないのかも・・、といった予感をさせる。
ただまあ、本巻までは、変わらず、ほんわりとした仕上がりになっているので、いつもどおりの「不思議話」をお楽しみくださいな。

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