「エンマ様」の懸案の事件は、苦味とともに解決する ー 佐藤青南「行動心理捜査官・楯岡絵麻 ブラックコール」(宝島社文庫)

行動心理学を駆使して、口を割らない犯人の大脳辺縁系から真実を聞き出して、事件を解決していく美貌の女刑事・楯岡絵麻とその取調室の相棒・西野巡査部長の活躍を描く「行動心理捜査官」シリーズの第二作である。

【収録は】

第一話 イヤよイヤよも隙のうち
第二話 トロイの木馬
第三話 アブナい十代
第四話 エンマ様の敗北

となっていて、もちろん、それぞれの話が単話として楽しめるのだが、今巻の底流にあるのは、楯岡絵麻が刑事になったきっかけとなる「小平市女性教強姦殺人事件」である。グレていた楯岡を立ち直らせた、高校の恩師・栗原裕子が事件の犠牲になったものなのだが、時効を迎えた、この事件の解決に至るまでが、今巻を全体の隠しテーマとなっている。

【あらすじと注目ポイント】

第一話の「イヤよイヤよも隙のうち」は中学生の時に誘拐され、8年間監禁されていた女性・久我春奈が、犯人・木谷透の一瞬の隙をついて脱走する。彼女は脱出に成功するが、交差点でトラックにはねられ死亡する。彼女が死亡したことをいいことに、木谷は、彼女が自分の意思で家にやってきて泊まっていた、と監禁の意図を否定する。われらが「エンマ様」は、この男の嘘をどう突き崩すのか・・、といった筋立て。
犯人の「嘘」を崩す手腕はいつもの手練なんであるが、この話でも、ほかのものと同じで、取り調べのうちに、隠されていた別の真実がぼろり、と出てくる。今回は、この犯人・木谷の素性なのだが、詳細は原書で。

第二話の「トロイの木馬」は、他人のPCを遠隔操作し、ネット上の掲示板に航空機爆破予告や幼稚園、イベントでの大量殺人予告を書き込んだ、という事件の解決。当初、多くの逮捕者が出ていたのだが、一人のSE・高山が真犯人として検挙される。彼は、以前、一流IT企業に勤めていたのだが、ネットの掲示板に犯行予告を書き込んだことで逮捕され、実刑を受けている。警察や検察に恨みを抱いている上に、腕っこきのSEで、しかも、アメリカのサーバーに、そのプログラムを保存までしている。
高山が犯人に間違いないはずなのだが、彼は否認を続ける。そこに、取り調べの可視化を主張する人権派弁護士の松尾が彼の弁護についたため、取り調べは遅々として進まず・・・、といった筋立て。弁護士の邪魔を、「エンマ様」はどう退けるか、といったところに注意が集中するのだが、意外な真犯人がボロっと出てきて、不意打ちを受けるのので要注意である。
ネタバレのヒントは、文系だからといってPCオタクはいるよ、といったところか。

第三話の「アブナい十代」は、私立学校で起きた手製爆弾事件。体育祭の途中で爆発し、警戒中の警察官をはじめ十数人の負傷者を出したものだのだが、その事件の陰に、学校のバレーボール部の男子部員の自殺が絡んでいるのでは、という疑いが持ち上がる。この自殺は、学校の理事長たちによってもみ消された、という証言を、学校に勤める教師から証言を得る。
そんな中、近くのホームセンターで、爆弾の材料となった圧力鍋を買った、その学校の男子中学生が逮捕される。彼は犯行を素直に認めるのだが、彼が取り調べを適当にはぐらかしているうちに、実は爆弾はもう一つあることが判明する。彼は誰を狙おうとしているのか、爆発の時刻が刻々と迫るが・・、といった展開。

「楽しい時間はあという間に過ぎるのに、嫌なことや退屈な時間は長く感じる」という感覚を利用して、自白させる「技」はさすが「エンマ様」であります。
犯行の原因はお決まりの「恋愛」絡みなのだが、これがなぜ男子生徒の自殺と絡むのかは原書で確認してくださいな。

最後の第四話「エンマ様の敗北」は、「小平市女性教強姦殺人事件」の解決編。第一話から第三話のあちこちに、この事件の犯人の述懐や、犯人の共犯者が警察内部にいる、といった話が散りばめられいて、最終話までの緊張感を煽ってますな。

筋立ては、警察内部の共犯者を「エンマ様」があぶり出していき、最後に、犯人との直接対決があるのだが、この犯人が「サイコパス」の殺人狂そのもので、しかも「二人組」であるらしいような描写もあって、やたらとこちらを惑わしてくるのでご注意を。結末は「刑法第39条」の「心神喪失」の規定による邪魔立てを排除しようとしての結果で、後味が良いやら悪いやら、という感じである。

【レビュアーから一言】

第二作ともなって、楯岡・西野コンビの呼吸もあってきている上に、筒井・綿貫という敵役コンビのレベルも上がってきていて、物語の円熟度も増してきた。

楯岡絵麻が犯人のサンプリングを終わって、逆転に転じる時の尖塔のポーズも健在であるし、第四話の犯人が警察の共犯者に近づくために「繰り返し接触するアイレには好意が高まる『単純接触効果』を使った」といった行動心理学の「ウンチク」ネタを散りばめられているので、「エンマ様」の「落とし」のテクニックとともに楽しんでくださいな。

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