病棟に潜む「サイコパス」と対決。「エンマ様」あやうし ー 佐藤青南「行動心理捜査官・楯岡絵麻 インサイド・フェイス」(宝島社文庫)

美貌で少々「S」系の美貌の警察官・楯岡絵麻をメインキャストにした「行動心理捜査官)シリーズの第3巻。
犯行を認めようとしなかったり、真相を覆い隠そうとしている容疑者たちを、「マイクロジェスチャー」や嘘をつく際の心理的負担を軽減しようとする「なだめ行動」とか行動心理学の手法を使って、ぽろぽろと落としていく「エンマ様」こと楯岡絵麻の話術はますます冴えを増してきていて、「尖塔」のポーズのあたりは、刑事コロンボや名探偵コナンの定番のセリフの風合いを出してきていますね。

【収録は】

第一話 目は口よりもモノをいう
第二話 狂おしいほどEYEしてる
第三話 ペテン師のポリフォニー
第四話 火のないところに煙を立てろ

となっていて、それぞれの話の初出は2014年から2015年で、モチーフとなった事件があれこれと浮かぶのだが、そこは「エンマ様」流にアレンジされている。実事件を養分に新趣向のミステリーに変換させているあたりは、作者の腕の冴えでありますね。

【あらすじと注目ポイント】

第一話の「目は口よりもモノをいう」は、いわゆる「後妻業」的な事件。
容疑者の女性・晴美の30歳以上離れた亭主が放火殺人で死亡する。彼には晴美と結婚後、多額の保険がかけられとり、彼女と結婚後、金遣いの荒い晴美とその弟によって財産が浪費され破産寸前という状態であった。
晴美の前夫も多額の保険金をかけられて変死しており、当然、二人の犯行が疑われるのだが、弟を取り調べた絵麻の前で、彼の「大脳辺縁系」は、やましいことをやったことはやったが、殺していない、という反応を示している。なぜ?・・、という展開。ネタバレ的には保険金の詐取と殺人はイコールではないですよね、というところか。

第二話の「狂おしいほどEYEしてる」は、元夫によるストーカ殺人未遂事件。看護師を勤める、「細川めぐみ」という女性が、元夫で元外科医師の三嶋裕貴によって、東京都世田谷区の路上で刃物で切りつけられる。この二人は三年前に発生した女子小学生の誘拐・バラバラ殺人事件『狛江市少女殺害死体遺棄事件』の両親という設定。
犯人の三嶋は、取り調べ中が「政府によって盗聴されている」と主張して筆談を要求し、さらには、三年前の娘の殺人事件の犯人だと言い出す。その理由は娘の体の中から「爆弾」を取り出そうとしたのだと主張する。当然、精神障害が疑われるのだが・・・、という展開。
迷宮入りの事件を自力で解決しようという姿が泣かせますね。

第三話の「ペテン師のポリフォニー」は、前話で出てきた『狛江市少女殺害死体遺棄事件』の真犯人探しをプロローグにもってきてはいるが、本筋は、有名作曲家のゴーストライター疑惑をスクープしようとしていたフリーライターの殺人事件の犯人捜し。
容疑者の作曲家は、児童福祉施設出身に脚が悪く車椅子生活の女子大生が企画するコンサートで会場入りしており、抜け出して犯行現場に行くには、その風貌が目立ちすぎて見つかるはず。会場を抜け出し、犯行後戻ったトリックは・・というのが大筋のところ

トリックは

人は意外なほど他人の顔を見ていない。・・・・アーチフェクトー心理学用語で身体や衣服を飾るアクセサリーのことだけど、そのアーチフェクトに個性が強く表れている場合には、目鼻口や輪郭といった本来の顔立ちなどは、ほとんど覚えていない

という「アーチフェクト効果」が謎解きのキーになっているのだが、その作曲家がゴーストライターは認めるが、耳が聞こえるのは頑強に否定する、というところで、「エンマ様」によって真犯人がぞろりと引き出される。
アーチフェクトは、アクセサリーだけでなく、もっと大きなモノも含まれるよね、というところと殺されたフリーライターはゴーストライター疑惑だけをスクープしようとしていたのか、といったところが「鍵」なのだが、一体何を信じりゃいいんだという思いにかられますね。

最終話の「火のないところに煙を立てろ」は『狛江市少女殺害死体遺棄事件』の真犯人らしい人物の「真相」を暴くため、精神医療研究センターの「医療観察法病棟」に捜査のメスを入れる話。発端は、この病棟に勤務する看護師から、「タスケテ」と書かれたメッセージを密かに託されたことがキッカケ。
捜査しているうち、この病棟の職員はほぼ全員、共同生活をおくっていること、そして、病棟全体が、何者かによって支配されている構図が見えてくるのだが、その「支配者」とは誰なのか?というのが、今回の筋立て。
その支配者は、病棟に関係した人物で、サイコパスに違いない、と絵麻と西野は病棟に潜入し、そのサイコパスと対峙するが、騒動は病棟全体を巻き込み・・・、という展開で、このシリーズには珍しく「アクション」ものである。拉致されたようにみせかけて、自分のテリトリーに誘導していく「エンマ様」の手管はすばらしいですな。

【レビュアーから一言】

今巻の全体を通じての底流となっているのは第二話ででてくる『狛江市少女殺害死体遺棄事件』で、実は、第一話でも西野が合コンする予定でうまくいかなかったナースというのが、最終話の舞台となる病院に勤務する「近藤美咲」であることが最後にわかるなど、何の関係もなさそうなピースが最後にぱちっとはまるような演出はうまいですな。
シリーズを続けて読んでいくと、「エンマ様」の「大脳辺縁系と大脳新皮質」の話とか。「尖塔」ポーズもおなじみになってきたのだが、ここにきて、相棒の西野の「キャバクラ」フリークが新しい味付けになってきましたね。

また、おなじみの行動心理学のウンチクも健在で、

危機に瀕した動物は、その危険度に応じて三段階の行動を踏むといわれているの。
まずは硬直 ー フリーズ、次に逃走 ー フライト、最後が戦闘 ー ファイト、という3つのF

というあたりは今度何かのおりに使ってみようかと思ってます。

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