「エンマ様」に行動心理学を知り尽くした”強敵”が出現 ー 佐藤青南「行動心理捜査官 楯岡絵麻 ヴィジュアル・クリフ」(宝島社文庫)

行動心理捜査官 楯岡絵麻」シリーズは、今まで短編ばかりであったのだが、この6巻目に至って初めての長編である。

しかも、「エンマ様」こと楯岡絵麻の「尖塔」のポーズを合図に繰り出される、行動心理学に基づいて、被疑者を「落とす」技は、今まで無敵であったのだが、今巻では、彼女の大学時代の恩師で、日本の行動心理学の権威でもあった「占部亮寛」という人物が、最大の強敵として登場する。

というのも、彼は、絵麻の捜査の重要参考人となるのだが、行動心理学の権威だけあって、絵麻が得意とする「マイクロ・ジェスチャー」や「なだめ行為」を出現させない方法も熟知しているので、絵麻たちの捜査も、今までの(行動心理学の)素人相手のようなわけにはいかない、という難局に直面し、捜査が撹乱される上に進まない、という事態に見舞われるのである。

【あらすじと注目ポイント】

今巻で起きる事件は、「ご長寿研究会」というチェーン店の葛飾立石店の店長・斉藤が、縛られた上、鈍器で何度も殴打されて死亡していたのが発見される、というもの。
「ご長寿・・」というところで胡散臭さを感じられた方も多いように、このチェーン店は、パンの無料配布などを誘い水に、最後は高額な健康器具や健康食品を買わせる、いわゆるSF商法(催眠商法)の店でである。
ちなみに「SF商法」の名称の謂れは、本書によると、この商法を最初に行ったとされる団体が「新製品普及会」というところで、その新製品の「S」、普及の「F」をとった命名とのことだが、真偽の程は別途調べてくださいな。

さて、本筋のほうは、この店長が殺された時間帯に、他の事件で指名手配されている凶悪犯を見かけたという目撃情報が相次ぎ、その線で捜査が始まるが、不審を抱いた絵麻が、その目撃情報が巧みに「操作」されて、記憶を塗り替えられてものと見抜くところからスタートする。

で、この情報操作に関わっていそうなのが、絵麻の師匠の「占部亮寛」という設定。
ただ、この占部元教授は、妻が自殺したのをきっかけに「行動心理学と縁を切る」といって大学も退官し、今は行動心理学と無縁の暮らしをしている上に、「ご長寿研究所」に入れあげて、そこの商品を大量に購入している状況。かつては「SF商法」を忌み嫌っていたはずの人が、一体どうして・・、といったのが、一つ目の謎。

そして、占部元教授は、この葛飾立石店に勤めている「敷島花音」という女性の紹介でしか商品を買おうとしておらず、しかも、SF商法の店は、店舗を次々と移転するのだが、店長の斎藤と敷島たち従業員が、前の店で営業しているときから続いている、というのが二つ目の謎。

このあたりの謎解きの「鍵」は、占部元教授が行動心理学をなぜ嫌悪するにいたり、妻の自殺でどんな精神状況になってしまったのか、というところにあるのだが、詳細のところは原書で確認してくださいな。

少しだけネタバレすると、行動心理学ってのは、どうやら人をあまり幸福にしないし、人の気記憶というもの確かさと信頼性をボロボロに崩してしまうよね、というところ。

本書でも

人間の記憶は三十分後には四割、一時間後には六割、一ヶ月後には八割が失われているといわれます。自分では覚えている、と思っていても、実際にはほとんど忘れているんです。その失った部分を脳が適当に補っているから、先ほどはなしたような以前訪れた場所の印象が違うといったことが起こるんです。この原理を利用して、失われた部分に事実とは異なる記憶を植え付けることができます。心理学では『埋め込み法』と呼ばれる手法です。

とされていて、記憶ってのつくろうと思えばつくれる、というところが怖いところですね。

【レビュアーから一言】

今回の捜査で、なかなかの「働き」をするのが、絵麻の相棒の「西野」の「趣味」で、彼がぞっこんで、自分に惚れていると思っている「ジャスミンちゃん」の協力を得て、占部元教授の偽記憶を崩そうとするあたりは、「キャバクラ好き」も結構役に立つんでは、と思わせるのだが、最後の決めては、やはり、「エンマ様」の策略でありましたな。
占部元教授が、マイクロ・ジェスチャーを封じの手段として使っていた「抗うつ剤」の服薬の効果をどう消したか、ってなあたりは見事ですな。

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