”システム”の問題は、”ビジネス”の問題の「縮図」。ならば解決法も「縮図」か? — 沢渡あまね「システムの問題地図」(技術評論社)

「職場」「仕事」「働く人」「働き方」ととりあげてきた「問題地図」シリーズの分析なのであるが、とうとう、仕事をする上で必須のものでありながら、暗闇の中に隠れていた問題、「システム」について到達しましたね。

構成は

はじめに
〜どうして生まれる1?「使えない」「使われない」残念な情報システム
1丁目「だれのため?」「何のため?」のシステム
2丁目 無駄にハイスペック
3丁目 「とりあえず作っとけ」
4丁目 「抜け」「漏れ」だらけ
5丁目 「俺らITシロウトだから!」
6丁目 必ず火を吹く
7丁目 「仕様ですから」「言われてませんから」
8丁目 システムの仕事にいい人材が集まらない
おわりに

となっていて、今回は、筆者自体が、システムの開発とシステムの発注という、両方の立場の職にいたこともあって、今までよりも現場経験が色濃くにじみ出たものとなっている。

システムはビジネスの「問題地図」の集約

考えてみれば、我々の仕事を支える基盤であるにもかかわらず、システムをつくろうとすれば文句頻出、つくったらつくったで運用すればトラブル頻出、というのが「業務システム」の常なんであるが、本書を読めば、その根底には、ビジネスの「問題地図」の集約があるということがわかる。

たとえば

もはやだれも使っていない、ゾンビのようなシステムを生みやすい3大部門は・・「経営企画部」「社長室」「〇〇推進室」・・この3大部門の共通点は・・ライン業務(定常業務)を持たないこと・・名のとおり、・・短期ミッション完遂の支援を目的とする部隊・よってどうしても近視眼的になりがちです(P45)

のあたりには、システム構築だけでなく、会社の新経営戦略、業務改革が社内に示された時におこる現象でも共通していることであり、

無駄&無用のシステムを生む原因
①現行業務/現行仕様に固執しすぎ
②はてしなき要件追加
③意識高すぎ/低すぎ
(P60)

この手のベテラン職人、自分の仕事を言語化するのがとにかく苦手。後になって、抜け漏れが発覚。それではシステム化した意味がありません。(P62)

といったところは、「仕事の問題地図」でも出てきた、属人化をはじめ、仕事を滞らせる原因とも共通しているな、と思い当たるのである。

システムの問題の解決手法は応用範囲が広い?

当然こうなると、その解決手法も、ビジネス全般に応用できるものであって、
システムをつくる際の「抜け、漏れの原因」とされる

①隠れたステークホルダーを洗い出しきれていない/ほんとうのステークホルダーに聞いていない
②要件を言語化しきれていない
③後送り体質&運用マル投げ
④有識者がいない
⑤「火吹き」の経験が生かされていない
⑥IT屋のプレゼンスが低い(P115)

は、大概のビジネス場面でも共通で、その対処法は、営業や新企画開発にも応用できるに違いない。とりわけ

大トラブル発生の時は、現場に細かなトラブル報告を求めない。
メンバーは、現場で必死。報告をつくる時間も、本社に移動する時間すらも惜しい。そんな時間を使わせるぐらいだったら、現場で汗をかかせてあげてください(P211)

(トラブル発生の時は)プロジェクトリーダーは、現場に来てくれたユーザーの責任者に状況を説明しやすいよう、「ホワイトボードに付箋」レベルでもかまわないもで、現状を見える化、説明できる化しておくといいでしょう(P212)

というところには、自社でおきた出来事を思い浮かべて、思わず膝を打つ人が多いのではないだろうか。
まあ、トラブル時に頻繁に報告を求めたり、現地がてんやわんやの時に現地視察に行こうとする上層部の方でも、情報不足で自分が何をしたらいいのかわからない、という焦燥感があるのは間違いないのだが、上層部の役目は

人は、情報を与えられないと疎外感を感じる生き物です。戦時中、海の向こうの大陸や孤島で奮闘していた兵隊たちは、大本営からの情報がなくて孤独感と疎外感を感じたといいます。やがて、自国に対して反感を持つ兵隊も少なくなかったとか。情報の共有不足は、メンバーの帰属意識や一体感を削ぐ」それは、歴史が証明しています。
プロジェクトの重要情報はなるべくフラットかつスピーディーに共有。多重請負構造の、マルチベンダー組織だからこそ意識したいものです(P102)

といった風に、現場が動きやすい体制を整えることが役目で、けして現場にとって替わって指揮をとるのが目的ではないことを認識すべきでしょうね。

まとめ

さて、「システム」が我々の仕事だけでなく生活の隅々まで入り込み、その問題点は、仕事・生活すべての問題でもあり、解決の糸口でもあことは、本書の

「ITの世界であたりまえとされている考え方やマネジメントフレームワークは、IT以外の分野でも役に立つ」
考えてみれば、IT/非ITに関わらず、あらゆるビジネスは、いいえ、私たちの生活そのものも、いまやITの利用が前提です。その”あたりまえ”を支えている、IT業界のやり方。すばらしくないワケがない(P265)

といったところでも熱く語られている。大概の場合、杓子定規で、融通がきかない、あるいは長時間労働とクレームの集結点としてブラック職場扱いされる「IT部門」。自分とは関係のないところと捉えずに、自分の仕事のトラブル解決の糸口が転がっているところと再認識してみてはいかがでありましょうか。

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