菜の花食堂の謎解きはますます快調。優希ちゃんも元気に活躍です ー 碧野圭「菜の花食堂のささやかな事件簿 きゅうりには絶好の日」

東京郊外にある一軒家を店とする小さなレストラン「菜の花食堂」を経営する「靖子先生」、彼女の主宰する料理教室を、派遣の事務職のかたわら、アシスタントとして手伝っている「優希ちゃん」をメインキャストとする、ほんわかミステリーの第二弾が本書『碧野圭「菜の花食堂のささやかな事件簿 きゅうりには絶好の日」(だいわ文庫)』である。

シリーズも第二弾となると、メインキャストの性格やら立ち居振る舞いも練れてきて、こちらのほうも、シリーズの世界に安心してひたれるようになってくる。さらにこのシリーズは、謎解きを持ちかけてくるのが、料理教室の生徒たちで、それぞれの境遇や性格もまちまちなので飽きさせないつくりとなっている。

収録は

「きゅうりには絶好の日」
「ズッキーニは思い出す」
「カレーは訴える」
「偽りのウド」
「ピクルスの絆」

の五編。

【あらすじや注目ポイント】

まず第一話の「きゅうりには絶好の日」は、教室の生徒の一人、瀬川桃子さんがもちこんできた、赤い自転車に関する謎。

謎というのは、駅前の駐輪場にいつも停められている「赤い自転車」がある。置きっぱなしというわけではなく、自転車に結ばれているバンダナの結び方が変わっていたりしているので、誰か触れている気配はある。そして、その自転車がおばあさんを転ばせるところを見かけるのだが、自転車はいつものように駐輪場に停められたままの気配である。さて、誰がこの自転車に乗っているのか・・、というもの。

謎解きの糸口は、自転車はシェアできるよね、ということと、若い丈夫な子は、老人も同じように丈夫だと勘違いしてしまうよね、といったところ。

第二話の「ズッキーニは思い出す」は、「牧麻美」さんという二十代後半の理知的美人の生徒さんの叔母さんが持ち込んでくる話。

彼女は父子家庭で育ち、母親の手料理の味を知らなくて、手料理というと、彼女の叔母さんの味という境遇。例えば、その叔母さんは運動会などの行事の時には、豪華な「お弁当」をいつもつくってくれたり、彼女をとても可愛がってくれて、寂しい思いをしなかった、ということで、その叔母さんを母親代わりのように慕っている。

そんな折、その叔母さんが優希ちゃんに、麻美さんの実の母親が乳がんを患っているのだが、牧さんは会おうともしないし、その母親も娘に迷惑をかけたので、もう手術して延命したくないと言っている。なんとか、麻美さんを説得して、母親の面会と手術を受けることを説得させてみらえないか、と相談する。さて、どうしたらいいのか・・・、というもの。

解決のヒントは、麻美さんが感謝していた子供の頃のお弁当なのだが、ここから先は原書で。

第三話の「カレーは訴える」は、地元のマルシェイベントに出店した菜の花食堂のメニューに関する話。

話というのは、地元で評判のいい「野川マルシェ」の関係者に勧められて、出店した菜の花食堂の出したメニューは、特製ドライカレーと焼きプリンなのだが、ドライカレーの素だけを買うお客さんがかなり多い。最初にカレーの素だけを買っていった女子高生が宣伝しているのかな、と思ったのだが、実は、彼女がカレーの素を大量に使用する別の理由があることを、靖子先生が推理する、という筋立て。

いくら美味しいからといって、無断店頭は厳禁というのは。隣国も含め国際的な共通スールでありますね。

第四話の「偽りのウド」は、地元の栽培農家の「ウド」を使った、ウドと人参と油揚げの炊き込みご飯、ウドの味噌汁、ウドと大葉とちー↓うの春巻き、ウドと豚肉の味噌炒め、ウドの皮のキンピラ、といっ菜の花食堂渾身のレシピの盗用問題。

話というのは、このレシピが結構人気のある主婦ブロガーのお料理ブログに無断で掲載されていたというもの。このブログでは、靖子先生が苦心したメニューが、あたかも自分が考案したかのように記事が書かれたいる。このレシピは料理教室の関係者・生徒にしか教えてないはず。このブロガーの正体は、料理教室の生徒なのか?、といった筋立て。

問題は解決するのだが、ちょっと寂しい幕切れですね。出来心といったところだったんでしょうがね。

最終話の「ピクルスの絆」は、通常版の料理教室ではなく、異業種交流会の人の要請によって臨時に開催した料理教室で、そこの参加者のひとりが持ち込んでくる話。

話というのはとある資産家の当主の老人が以前に作った遺言書を突然書き換えたいと言い出す。新しい遺言書はその老人が入院している部屋のある手提げ金庫に収められるのだが、彼の死後、金庫をあけてみるとなくなっている。防犯カメラを確認しても、その当主と長男以外出入りした者はいない。さてはその長男が・・・、といった謎を解いてくれ、と靖子先生が依頼を受けるといった筋立て。

この謎の解決は解決として、本筋は、靖子先生の身の上にかかわる話が後出しででてくるので、謎が解決しても安心しないように注意してくださいな。

【レビュアーから一言】

それぞれの話の謎を、第一巻とおなじように、ほんの些細なところに目をつけて、ずるずると
解決に導いていく靖子先生のお手並みは見事である上に、犯人への暖かい配慮は、このミステリー全体の読後感をほんわかとしたものに仕上げていますね。

さらに最終話では、香奈さんの靖子先生のところへの弟子入り志願で、心乱れる優希ちゃんであるとか、菜の花食堂の拡張話であるとか次巻につながっていく大事な伏線がはられていくので、謎解きばかりでなく、シリーズの新展開が期待される結末が用意されているので、最後までお読みください。

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