菜の花食堂、新たなスタート。そして優希ちゃんも ー 碧野圭「菜の花食堂のささやかな事件簿 金柑はひそやかに香る」

「靖子先生」一人でひそやかに運営してきた菜の花食堂も、押しかけ弟子入り志願の「香菜さん」や、アシスタントの「優希ちゃん」たちによって、ピクルスの瓶詰め販売や、夜間営業と、経営拡大に踏み出し始めるのが、菜の花食堂シリーズの第三弾が本書『碧野圭「菜の花食堂のささやかな事件簿 金柑はひそやかに香る」(だいわ文庫)』である。

この巻で、派遣で不動産会社の事務をしていて、あまり仕事にやりがいを感じていなかった「優希ちゃん」の身の上にも大きな変化を起きるし、恋の予感っぽい話も出てくるので、優希ちゃんは必読ですね。

収録は

「小松菜の誘惑」
「カリフラワーの決意」
「のらぼう菜は試みる」
「金柑はひそやかに香る」
「菜の花は語る」

の五編。

【あらすじと注目ポイント】

第一話の「小松菜の誘惑」は、靖子先生に弟子入りした「香奈さん」の新しい彼氏に関する相談事。彼女はデートの度に手料理のお弁当をつくっていたのだが、彼がこれからはお弁当は不要と言い始めた。名目は香奈さんが食堂の仕事で疲れているのだろうから、と言うのだが、果たして、その理由は・・、というもの。

特に中華やフレンチとかの得意な女性に、ありがちの落とし穴ですね。ちなみに、当方は「香菜」が苦手である、といったところが謎解きのヒント。

小松菜は江戸川区の小松川に由来する伝統小野菜、といったところは本編で仕入れた小ネタですね。

第二話の「カリフラワーの決意」は、靖子先生の父親の遺産で整備した食堂の加工場で製造するピクルスの瓶詰めの初販売となる、マルシェ会場での出来事。

最初のお客となった女性の娘「花蓮ちゃん」が、数時間後、何度もピクルス液をもらいにやってくる。その理由は?、というのが今回の謎。花蓮ちゃんのお母さんはナチュラル志向で、掃除のときも合成洗剤を使わないらしい、といったことがヒントになります。

謎解きは謎解きとして、優希ちゃんの身の上に大変化の兆しが、この話ででてきますね。

第三話の「のらぼう菜は試みる」は、菜の花食堂が野菜を仕入れている農家の「保田さん」の無人野菜販売所の出来事。無人販売所というのは、買い手がお金を入れる方式なので、普通は売上より代金の方が少ないのが通例なのだが、この人の販売所では最近、代金の方が多い時が続いているという、なぜ?、というもの。

のらぼう菜というのは、東京伝統野菜で西多摩と埼玉の一部でしかつくられていない、アブラナ科の野菜であるらしい。作者が執筆当時、東京伝統野菜に凝っているせいか、菜の花食堂の営業時間延長をPRするイベントでも、「金町かぶ」とか「千住一本ねぎ」とかいろいろでてきますね。

ついでに、この謎解きのおかげで、優希ちゃんは、派遣先を退職後のアルバイトを見つけることになる。アルバイトの依頼人であるイケメンの独身男性とこれからどうなるかは、話の展開次第ですね。

第四話の「金柑はひそやかに香る」は、優希ちゃんの住むアパートの隣人の不審な行動に関するもの。彼女部屋の隣人の部屋からは変なニオイが漂ってくる。そして隣人は夜遅くやってきて、誰かと話をしているような声やもバタバタ音をたてると、またどこかに行ってしまう、という怪しげな行動をしている。

不安になった優希ちゃんは菜の花食堂の面々に助けを求める。近くの街では小学生の誘拐殺人事件も起きていて、優希ちゃんの身に危険が迫っているのでは・・、といった展開。

まあ、このシリーズの特徴として、血なまぐさいことは起きないので、安心してハラハラしてください。

最終話の「菜の花は語る」は、菜の花食堂の命名の由来と、優希ちゃんの新しいスタートの話。

名前が「菜の花・・」なのだが、この食堂で「菜の花」の料理が提供されたことはない。聞くと、靖子先生は「菜の花の食感がすきじゃない」し、「料理が面倒だ」と”菜の花”はケチョンケチョンである。それなら、なぜ店の名前に?、といった話の謎解き。

今回、謎解きをするのは、靖子先生に代わって「優希ちゃん」である。会社を辞めて、正式に菜の花食堂のスタッフとなった彼女の推理デビューでありますね。

お店の25周年のパーティーが、「菜の花食堂」の新しいスタートを祝福しているような顛末でもあります。

【レビュアーから一言】

第三巻に至って、今まで劣等感が拭いきれなかった「優希ちゃん」が、おずおずとではあるが、次のステップに踏み出すことになる。

靖子先生の、家族や彼女の生い立ちからくるわだかまりも、優希や香菜たちによってだんだんと溶けてきたようで、菜の花食堂の「これから」が期待できる展開であります。

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