「平成」の次の時代の日本の未来を、「前を向いて」提案する ー 落合陽一「日本進化論」

落合陽一さんといえば、「日本再興戦略」とか「0才から100才まで学び続けなくてはならない時代を生きる 学ぶ人と育てる人のための教科書」など「デジタルネイチャー」という価値観に基づいて、数多くの研究やメディアアート作品を発表している、当代きっての「若手論客」なのだが、その筆者が、平成の終わりにあたって「日本」の現状を捉え直し、「未来」への一歩を提案するのが本書『落合陽一「日本進化論」(SB新書)』である。

【構成と注目ポイント】

構成は

序 テクノロジーと日本の課題を探る
 ー「現在」から「次の時代」のために
第1章 「働く」ことjへの価値観を変えよう
 ーAI・高齢化時代の「仕事」を考える
第2章 超高齢社会をテクノロジーで解決する
 ー「免許証を取り上げなくて済む」社会のために
第3章 孤立化した子育てから脱却するために
 ー「新しい信頼関係」に基づくコミュニティで子育て問題を解決する
第4章 今の教育は、生きていくために大事なことを教えているか?
 ー「詰め込み教育」と「多様性」を共存させる
第5章 本当に、日本の財源は足りないのか
 ー高齢化でもGDPが増えているデンマークに学べ
第6章 人生100年時代の「スポーツ」の役割とは?
ー「健康」のための運動から「Well-being」へ

となっているのだが、本書を統一して流れるトーンとして

「平成の30年余りの間に日本は衰退した」「今後は斜陽国家として落ちぶれていく」という未来予測をしている人は数多くいます。(P4)

というディトピア的な未来予想に対して

たしかに、平成の間に失われたものや、反省すべき点はたくさんあります。
しかし、そこにとらわれるあまり、現在の日本が抱えている問題の本質や、その解決の糸口が意外なところに潜んでいることに、多くの人は気づいていないのではないでしょうか。(P4)

と予想への疑問を呈したり、再議論の必要性を提唱しているところにまずは注目したい。というのも、前述のディストピア的な予想は、平成はおろか昭和の年代の「論者」が言う場合が多いと思うのだが、これに対して「若い論客」が疑義・異論を唱えたところに、まずは賛意を表したい。

 

さらに、その論調も、中年層を含むシルバー層の「否定」ではなく、例えば、高齢者の運転事故や免許返納については

この問題に対しては、3つのアプローチによって解決スていくべきだと思います。
1つ目は「ドライバー監視技術」、ドライバーの状態を監視し事故を未然に防ぐ方法です。2つ目は「自動運転技術」、自動車の運転そのものを自動化することで解決します。3つ目は「コンパクトシティ化」、そもそも自動車を使わなくても生活できるように都市の携帯を変えるというやり方です。(P102)

というところであったり、今の日本のとてつもなく子育てがしにくい環境の解決のために

これまでは「勤労世代が高齢者を支えなければならない」と言われてきましたが、今後はむしろ「高齢者が勤労世代を支える」という発想が求められるようになるかもしれません。
特に、機械による自動化が難しい子育てにおいては、人口に占める割合の多い高齢層に貢献してもらえる仕組みづくりが重要になるでしよう。(P136)

といったように、特定の世代の排除ではなく、「協働」の方向性を模索していて、このあたりは、むしろ世代対立を煽っている、中高年の「識者」は反省すべきであろうな。

また、その「未来」に対しての「明るい目線」は、”仕事を奪う”といった側面が強調されるAIと労働環境の問題の時にも失われていなくて、

こういった人間の身体機能を補うテクノロジーは、社会の多様性を促進します。
近視や遠視が今日では障がいと呼ばれないように、不自由な身体や感覚機能の不全も、テクノロジーの補助が介在することで、ある種のパラメーターの違いに過ぎないと受け止められる社会が訪れるかもしれません
新しいテクノロジーが進展することで、労働環境は「AI(人工知能)+BI(ベ「シツクインカム)」的な働き方と、「AI+VC(ベンチャーキャピタル)」的な働き方に二分されることになると僕は考えています。(P82)

とした上で、

そういった再分配機能が実現した社会では、多くの人々はAIにより人機一体となったシステムの指示に従い、短時間の簡単な労働を営みながら生活することになると予想されます。
これが、「AI十BI」的な働き方です。短時間の簡単な労働というと、倉庫での軽作業や工場での流れ作業を想像するかもしれませんが、むしろ、スマホアプリのゲームと似たような体験になると考えられます。(P81)

といったあたりは、気分的なものではあるが、当方のような中高年世代も、なんとなく明るい気分になって、若い世代に協力をしたくなってきますな。

【レビュアーから一言】

正直のところ、ディストピア的な未来予測にはあきあきしているのが、当方の本音である。ディストピア的な話を参考にして、何かが解決した経験がある人がいるだろうか?
それよりもむしろ、

一人ひとりが限界費用ゼロ的世界になったことによって新たに解決可能になった課題を見つけ、各々のゴールヘと猛進するライフスタイルを送る。人々が″マタギ″のように課題狩りをし、AIをはじめとするテクノロジーが僕たちの″猟銃”になる社会。
僕なりの言葉でいえば、これからの社会は「マタギドライブ」的な世界観になっていくのです。(P237)

という言葉を信じて、年代を超えた未来へ向けての「協働体制」の構築が大事なような気がしますね。「未来」を信じる人に、オススメです。そして、若い人の未来を信じる「中高年」にはもっとオススメです。

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