弾正爆死から中国攻めへ。そして、ケンが「本能寺」を防ぐ鍵は? ー 梶川卓郎「信長のシェフ 23」

現代社会から戦国時代末期にタイムスリップした、フランス料理のシェフ・ケンが、織田信長の専属シェフとなって、料理だけでなく、信長の命を受けて、彼の天下統一に協力していく「信長のシェフ」シリーズの第23弾。
今回は、第22巻で、松永弾正から、助命と引き換えに「平蜘蛛」を受け取りに、信貴山城に単身乗り込む場面の続きから始まる。

【構成と注目ポイント】

構成は

第190話 信貴山城燃ゆ
第191話 ケンの処罰
第192話 信長の土産
第193話 彼方へ
第194話 光秀の仕事
第195話 招かれざる訪問者
第196話 康長の故郷
第197話 混沌の先

となっていて、天正五年十月の松永弾正の爆死から、上杉謙信の死去と秀吉が但馬を制覇し、次の三木城攻めにとりかかるところと荒木村重の謀反前夜の天正六年の早春までが本巻。
なので、今巻は大規模な戦闘らしい戦闘はなく、中国攻めの本格化により毛利の本体との激突と荒木村重の謀反までの、しばらくの間の「ため」の期間なのだが、主人公の「ケン」的には、天正十年六月の本能寺の変をなんとか食い止めようとして、一緒にタイムスリップした現代人を探し出そうとして、霧の中を彷徨っているような期間である。

最初に注目すべきは、やはり、稀代の曲者・松永弾正の爆死のところで、彼が自分の家紋は蔦紋」だと言った上で
蔦は、他の草木に絡みつき、それを頼りによじ登る
そして葉を茂らせ、元の草木を覆い尽くすと
元の草木を枯らせてしまう

Nobunaga shee 23 1

というあたりが、ある意味、戦国時代が生んだ「梟雄」の典型の凄みを感じさせますね。

さらには、今まで、信長の密命で暗躍してきた「ケン」の動きが目立たないはずはなく、ケンが、彼と一緒にタイムスリップした料理人の一人「望月」の消息をつかむため、三好康長に接触しようとするが、毛利水軍一万を海に沈めたり、武田軍と上杉軍の間を自由に行き来する凄腕の、信長配下の「台所衆」が隠密と疑われて追い返されそうになる、といったところは妙な副産物である。

ネットで調べると、徳川幕府の「台所衆」「台所物」といったのがヒットするのので、偉い人の食事を預かる料理人の役職を現す言葉としてはあったようだが、「隠密」っぽくされているのは、本書の創作であろうか。もっとも、庭の世話をする庭師の集団が「御庭番」として隠密も兼ねていてのだから、君主の側近くいて、客への食事の接待を担う彼らが「隠密」的性格をもってもおかしくはないね。

三つ目の注目ポイントは「本能寺の変」の遠因ともいえる。光秀の所領の取り上げは、信長の大きな野望を実現するために中心となる家臣に光秀を据えるため、としているところで

Nobunaga sheff 23 2

と言った風な解釈がされている上に、光秀もこれを光栄に感じている描写があるので、これからどう始末をつけていくのかは興味津々でありますね。

信長が一番頼りにしていたのは、秀吉でも勝家でもなく、「光秀」であったという説もあるわけなのだが、それを肯定した上で、なお、本能寺の変を光秀がおこした理由は・・、といったところがこれからの展開で描かれていくんでしょうね。

【レビュアーから一言】

本能寺の変もだんだんと近づいてきて、これから時変ものにいくのか、あるいはタイムスリップした現代人の苦悩といった方向にいくのかはちょっと見えないが、戦国ドラマの見せ場が近づいているのは間違いない。
荒木村重というクセのありそうな人物もでてきて、次巻以降は、また「ケン」が揉め事に巻き込まれそうな気がする展開であります。

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