「ひより」の父親の失踪事件の陰には桜田門の「闇」が控えていた ー 加藤実秋「メゾン・ド・ポリス 2 退職刑事とエリート警視」(角川文庫)

新米女性刑事が、警察官OB向けのシェアハウス「メゾン・ド・ポリス」に暮らる、一癖も二癖もある面々とともに、警察の捜査と並行して、勝手に捜査をはじめ、ミスリードしたり、迷宮入りしそうな事件をパキパキと解決していく「メゾン・ド・ポリス」シリーズの第2弾。
今回は、「ひより」の父親の失踪事件の真相も明らかになってきて、このシリーズの第一幕の完結編といったところでありましょうか。

【収録と注目ポイント】

収録は

第一話 血痕が導き出す死者の声
第二話 錯綜する資産家女性殺人事件!
第三話 VS. 連続窃盗犯!おじさん軍団の長い夜
第四話 ハイテク工場の闇 遂にクライマックスへ!

の四話。

第一話は、幹線道路の歩道橋で、転落死したらしい男性の死体が発見される。近くの自動車部品製造工場の社員である。彼の死因は、違法な残業続きで極度の過労状態から、朦朧として転落したものとして片付けられそうになるのだが、普通に歩道橋から転落した場合には、ありえないところと形で、血液の飛沫が飛んでいるところをメゾン・ド・ポリスのチームの一員「藤堂」が発見する。不審に思った「ひより」たちが再捜査のため、工場を訪れると、仲の良い工場のはずが微妙な空気になっている。そして、この工場は元請けからの受注が大量に増えて、生産がアップアップになっていることがわかってくるのだが・・・、といった展開。
最近流行の「働き方改革」の「陰」のところが事件の鍵になっている。そういえば、NHKニュースでも、中小企業の「働き方改革」の悲哀についてとりあげていましたな。
この話から、40歳代ぐらいで敏腕で美人の鑑識課の「杉岡沙耶」という女性が登場。

細いだけでなく、手脚が長いモデル体型。顔は彫りの深いくっきりとした顔立ちで、ほぼすっぴんと思われるが目立ったシミやシワはなかった。ダークブランにカラーリングした長い紙は、ひより同様に後ろで無造作に束ねられているが、艷やかでさらさらだ

といった出で立ちであるので、気の強い女性LOVEの人向けであるな。この女性、なんと鑑識オタクの「藤堂」の二番目の奥さんである。

第二話は、手広く展開しているスーパーマーケット「大浦屋」の先代の奥さんの老女が華道の剪定ばさみで刺殺される事件。実は、最初のほうで、その犯行についてのおおよそが語られてしまうので、犯人は誰、ってなところは読者には明らかになっている。なので、「メゾン・ド・ポリス」チームが、その謎をどうやって解くかを愉しめばいいのだな、と思っていると足元をすくわれる。実は、彼女の殺人と合わせて、家の2階にある花器が数点盗み出されれいるのだが、最初に明らかになる犯人は、花器の価値なんてわかりそうなタマではなく、しかも売り払う才覚もなさそうな人物。さらには、一番高価な花器は残されたままになっていて、というのが、この話の謎解きの主筋。

この話でも、「藤堂」のオタクぶり(今回は「鑑識」ではなく、「古着」)が謎解きに大きく寄与するのだが、これとは別に、「ひより」の父親の行方探しと行方をくらました真相をつきとめる動きが始まりますね。

第三話は「メゾン・ド・ポリス」の近くの「さくら町商店街」の店で次々起こる窃盗事件の犯人探し。この商店街は、個人商店が立ち並ぶ、昔ながらの商店街という設定で、良い品質のものを、安価で買える「メゾン・ド・ポリス」の食材の貴重な調達先でもある。

事件のほうはこの商店街のクリーニング店、時計店、豆腐屋に日をあけて、次々と空き巣が入ってレジの売上金を盗んでいくというもの。盗まれた金額は、一軒あたり3万〜5万程度なのだが、零細商店にとっては痛い金額。なにより気味がわるくて商売に身が入らなくなっている商店主がでているのが一番の痛手であろう。

捜査のほうは、八百屋に盗みに入ったときに、店主ともみ合って落としていった「黒のニット帽」を「メゾン・ド・ポリス」の大家の「伊達」の飼い犬で、警察犬OBの「バロン」が臭いをもとに犯人をつきとめていくという活躍が今回のハイライトである。

もうひとつのヤマ場は、父親の行方探しに、「ひより」が決心するところで、その失踪には「警察上層部」が絡んでいるらしく、彼女の行動を阻もうとする、叩き上げあがりで今は本庁のエリート警視・間宮とのやりとりのところでは、彼女を後ろから支えたやりたくなりますね。

第四話は、いよいよ「ひより」の父親の失踪事件の真相が明らかになる、第一巻、第二巻の一番のクライマックス。
今回の舞台は、群馬県の山間部にある、大メーカーの半導体の製造工場に隠された謎。この教場は稼働してから十年以上経ち、工場立地の時も地元からの反対はなく、何も問題がないようにみえるのだが、実は、立地された時の、排水データは・・・、といったのが、少々ネタバレに近い、今回の展開。で、その謎に、大メーカーと警察のエライさんが集団で絡んでいる組織的な〇〇なので、「ひより」と「メゾン・ド・ポリス」のメンバーによる捜査には、露骨な圧力がかかってくる、という筋立てである。

唐突に「ひより」の父親が登場するところは不意をつかれるのだが、まあ、いいとしようか。

可愛そうなのは「メゾン・ド・ポリス」の面々の捜査によって、上のほうからの命令を果たせなかった「間宮」の運命で、「サラリーマン」はここらへんは他山の石とすべきであろうな。

【レビュアーから一言】

「ひより」の父親の失踪事件と彼の同僚の事故死の真相は解決したのだが、トカゲの尻尾切りの状態で終わっていて、最後のほうで「藤堂」が「そんなのは氷山の一角。つくづく、桜田門の闇は深いよ」というあたりは、第三巻以降の伏線であろうか。

なのはともあれ、「ひより」の父親も十数年ぶりに家族のもとに帰還するし、「ひより」と「メゾン・ド・ポリス」の面々は、性懲りもなく自己捜査に乗り出すし、といったハッピーエンドに満足しておきましょう。

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