ホストクラブ「club indigo」は本日も「客」と「事件」で満員です ー 加藤実秋「チョコレートビースト インディゴの夜」(集英社文庫)

渋谷の古いビルの二階にある「クラブみたいなハコで、DJやダンサーみたいな男の子が接客してくれるホストクラブ」”club indigo”のホストやなじみ客の周辺でおきる事件を、店の共同オーナー兼フリーライターの高原晶をメインキャストにし、indigoのホストたちをアシスタント役にして、ドタバタと解決していく「インディゴの夜」シリーズの第2弾。

醒めていそうで、熱いところも残している三十過ぎの独身女性「高原晶」と、シニカルな共同経営者の「塩谷」、晶の使いっ走り的な使い方をされている、indigoナンバーワンホストで巨大アフロヘアのジョン太、現役キックボクサーで二メートル・百キロの巨体で、武闘派ホストの「アレックス」といった、なんともとりとめのないメンツがメインキャスト。

彼らが事件がおきるとバネじかけのように、びよんびよんと捜査を開始し、犯人を突き止めていくまでが、なんともテンポよく展開していくので、読み始めたら流れに身を任せたほうが良いですね。

【収録と注目ポイント】

収録は

「返報者」

「マイノリティ/マジョリティ」

「チョコレートビースト」

「真夜中のダーリン」

の四話。

第一話の「返報者」は、Club indigoのライバル店・エルドラドのナンバーワン・ホストの「空也」から自店の新人ホストの「樹」という男の子のことを調べてほしいとの「晶」が依頼されるのがはじまり。

空也によると、最近、有名店のホスト二人が続けて、女に刺激性の薬液を浴びせかかけられて負傷する事件が発生しているのだが、この事件に「樹」が関係しているのでは、という疑いがある。それ以外にも「樹」をいじめたり、馬鹿にしたりした客やホストはなにかしら災難にあっているらしい。果たして、「樹」は犯人なのか・・・、という謎解き。

「樹」の贔屓客も怪しいのだが、実はその客は・・、というのがネタバレすれすれのヒント。

第二話の「マイノリティ/マジョリティ」は、club indigoの共同経営者の塩谷の本業である出版社の後輩の「原島」という男の行方探し。彼は、三ヶ月前に女性ファッション誌に移動になったのだが、その取材で沖縄に行った帰り、羽田空港でスタッフと別れた後行方がわからなくなっているという。

彼の編集部の机をこっそり家探ししたところ、その女性ファッション誌の季刊特別版の編集・構成を請け負っている「ドゥ・パブリッシング」という編集プロダクションがカギをにぎっていそうなのだが・・・、という展開。捜索の最後は、この編集プロダクションへの潜入捜査とカーチェイスといった騒動になるのは、このシリーズのお決まりのような流れですね。

第三話の「チョコレートビースト」は、「なぎさママ」の経営する中華ダイニングバーにはいった強盗に拉致された、なぎさママの愛犬「マリン」を捜索する話。「拉致」といっても、なぎさママに柔道技で投げ飛ばされ、あわてて逃げる犯人に晶がマリンの入ったバッグを投げつけたのが原因なので、まあ自分で点けた火の始末をさせられるようなものである。

犯人を探し出す手がかりになるのが「タトゥー」で、あやしげな「刺青師」が登場したりといった世界が垣間見えるのも、このシリーズの楽しみの一つである。

最終話の「真夜中のダーリン」のメインキャストは、club indigoの新人で「吉田吉男」というなんともふざけた源氏名のホスト。彼は心臓病を患っていて薬が手放せない状態なのだが、彼が死ぬ前に「ホスト選手権大会」の全国大会にでたい、と希望し、indigo代表として出場する話。

彼は持ち前の、すべりまくりの話芸と「歯笛」で決戦大会まで勝ち残るのだが、その後、indigoと彼への脅迫が相次ぐ。決戦大会に出場する他の店のホストや店はいやがらせを受けていない。優勝候補でもない彼がなぜ狙われるのか、犯人の目的は、そして犯人は?、というのが、この話の謎解き。

この大会が開催された本当の動機と、吉田吉男の新しい贔屓客というのが謎解きのヒントなのだが、真相は原書で確認を。

大会終了後、自分の人生を投げていた「吉田吉男」が男の子の「意地」的なものを出してくるのが微笑ましいですな。

【レビュアーから一言】

渋谷や新宿を舞台にして事件が展開していくので、大都会の盛り場の「匂い」のようなものが漂ってきて、なんとなく浮ついた気分に浸れて、「ホストクラブ」に行ったことのある人も、ない人も、どちらの方も楽しめること請け合いのミステリーである。

「タトゥー」を含め、少々いかがわしいあたりの雰囲気も、さらにシリーズの味を深くしていますね。

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