田舎の警察署の珍事件は、ますます絶好調 ー 滝田務雄「田舎の刑事の闘病記」(東京創元社)

片田舎にある警察署の刑事課を舞台に、黒川鈴木巡査部長をメインキャストに、その部下、白石、赤木、そして黒川の奥さんをサブキャストにして繰り広げられる、ドタバタかつ支離滅裂なミステリー「田舎の刑事」シリーズの第2弾である。
奥さんの一言で精神崩壊していく黒川刑事のトホホさはますます快調であるし、世間の常識から何万光年も遠いところにある「白石巡査」の奇怪な思考回路と行動もまたスゴさを増してきているので、常識的なミステリーファンは警戒して読まないといけないですね。

【収録と注目ポイント】

収録は
「田舎の刑事の夏休みの絵日記」
「田舎の刑事の昆虫記」
「田舎の刑事の台湾旅行記」
「田舎の刑事の闘病記」
「田舎の刑事の動物記」
「田舎の刑事の冬休みの絵日記」
の六話。

第一話の「田舎の刑事の夏休みの絵日記」でおきるのは、自称フリージャーナリストで強請りの常習犯の男が殺害されて、ブルーシートに包まれて河川敷に遺棄されていた事件。

ただ、このシリーズの只者ではないのが、この死体は、署内で子供用のプールで水浴びしていた白石を黒川が追いかけていた最中に発見されたというあたり。さらには、このビニールプールの提供者が黒川の奥さんというおまけつきである。
この事件には産廃業者の不法投棄事件を捜査していた、他の署の狛沢犬彦・猿比古という双子の刑事が絡んでくるのだが、なぜ突然、管轄外の刑事が・・、てのが謎解きのヒントですな。

ただまあ、謎解きの重要な鍵が、昼食代が浮いため、というのがこのシリーズを象徴しているところである。

第二話の「田舎の刑事の昆虫記」は、田舎にある警察署らしく「ミツバチの巣箱の盗難事件」。巣箱と言っても、鳥の巣箱と違い、中身が詰まった状態で一つ20kgもある重さ。犯人として蜂の世話をしていた「針谷」という大学院生が逮捕されるが、彼が巣箱を持ち出した方法と動機があやふやなままである。果たして真犯人は・・・、という事件。

ネタバレをちょっとすると、黒谷は、どういう推理か巣箱が盗まれたことの第一発見者の蟻塚を疑うのだが、彼は腕を骨折していて重いものは運べそうにないのだが・・、といった展開である。ネタバレはここまで。真相は、原署で確認してくださいね。

第三話の「田舎の刑事の台湾旅行記」は、このシリーズ初の海外編。奥さんとの海外旅行中の「黒川巡査部長」が、アメリカのジャーナリストの息子でジミーくんという外国人少年の失踪事件を解決するもの。ただ、彼は極度の外国コンプレックスとあって、捜査も旅行も思ったように進まないのが、このシリーズのよいところ。

謎解きは、この少年が、監禁されている場所の近くに「日本にようこそ」と書いてある看板があるらしいのだが、そういう類の店名の店はない。果たして、どこ?・・、というもの。

ヒントは空港の入国ゲートの案内看板なのだが、うまいトリックですね。

第四話の「田舎の刑事の闘病記」は、神経性胃炎で入院した黒川刑事が、入院患者の部屋荒らし事件の謎を解くもの。入院している患者は、演技も浮気も有名な俳優、空きを見て部屋から逃亡する老婆、検査入院の患者、といった人たち。もちろん、ターゲットは「俳優」なのだが、他の人の部屋まで忍び込む理由と、この病院のセキュリティは厳しくて、専用のカードがないと入り込めないのだが・・・、といった謎をどう解き明かすか、というところで、この黒川巡査部長、推理の面ではかなり優秀なのである。

第五話の「田舎の刑事の動物記」は、この町に被害をもたらしている「サル」の集団のボスが変死する事件の犯人探し。このサルの群れのリーダーは、虎縞模様のある「ヌエ」というサルで、この話に登場する「日吉申太郎」という動物学の教授によれば、「天才のサル」らしい。

で、事件のほうは、このヌエがスーパーの屋上に入り込むのだが、警察が着いた時には、教授に抱かれて変死していた、というもの。

てっきり、教授が犯人だろうと疑われるが、一方で、警察が回収したヌエの死体が、「メス」の死体であることが判明する。本当に死んだサルは?、そして死因は?、というあたりに、黒川刑事の推理が冴えますね。

第六話の「田舎の刑事の冬休みの絵日記」は、第一話の延長戦。第一話で狛沢刑事たちにs方刺されていた産廃業者が不法投棄していたものの中に「硫酸ピッチ」がみつかる。

硫酸ピッチは、不正軽油を作る時にでてくる副産物で、これがもとで、不正軽油を流通させている組織の黒幕が障害事件で検挙される。これ幸いと不正軽油の件も取調を始めた矢先、証拠となる不正軽油を運搬していたミニローリーが集められていた廃車置場で爆発事故が起き、証拠の車が焼失してしまう。さて犯人は?、そしてその黒幕の犯罪を暴くことができるのか?といった謎解きである。

【レビュアーから一言】

このシリーズの探偵役である「黒川鈴木」は推理のほうはキレ者なのだが、奥さんにいじめられて涙すること日常茶飯事という人物で、このあたりのギャップがなかなか楽しい。

そして、この黒川刑事の奥さんというのが、またスゴイ人で、第一話では冷房の効かない警察署の近くにビニールプールとアイスキャンデー屋を出して小金を儲けたり、第四話では、黒川刑事の部下・白石に、誤った入館カードを渡して、彼を不法侵入者としての捕まるよう仕掛けたり、といったことをチャラっとやってのける、大したタマなんである。白石巡査の、常識はずれの奇行と一緒に楽しんでくださいな。

なお、単行本では「闘病記」となっていたが、文庫本では「動物記」となっている。間違ってダブルで買っても、当方は責任とれないのであしからず。

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