「最近の若いもんは」という前に「オッサン」「古いもん」こそ読むべし ー 山口周「劣化するオッサン社会の処方箋 なぜ一流は三流に牛耳られるのか」(光文社新書)

「最近の古いもんはいったいどうなっているのか」という書き出しで始まるので、当方のような定年間際の年齢となった者としては、最近の大学のスポーツ部の暴行指示事件や、情報改ざん事件などなど、思わずうなだれてしまうことが多い。

もちろん、本書でいう「オッサンの定義」は

1 古い価値観に凝り固まり、新しい価値観を拒否する
2 過去の成功体験に執着し、既得権益を手放さない
3 階層序列の意識が高く、目上の者に媚び、目下の者を軽く見る
4 よそ者や異質なものに不寛容で排他的

という行動様式・思考様式をもった人物像で、年代と性別と追う人口動態的な要素ではない(P9)

ということで、けして全ての中高年の男性を批判しているわけではないのだが、残念ながら、当方も上記の項目に思いあたる節が多々あるのは間違いない。

じゃあ「若いもん」から「古いもの」への弾劾書を読んでやろうか、というところだったのだが、本書は、「批判」一辺倒ではなく、「若いもん」と対立するのではなく、むしろ「若いもん」を助ける。「古いもん」の「現代の長老的」な新しい生き方の提案書として読めるな、というのが読後の印象である。

【構成と注目ポイント】

構成は

はじめにー本書におけるオッサンの定義
第1章 なぜおっさんは劣化したのかー失われた「大きなモノガタリ」
第2章 劣化は必然
第3章 中堅・若手がオッサンに対抗する武器
第4章 実は優しくない日本企業ー人生100年時代を幸福に生きるために
第5章 なぜ年長者は敬われるようになったのか
第6章 サーバントリーダーシップー「支配型リーダーシップ」からの脱却
第7章 学び続ける上で重要なのは「経験の質」
第8章 セカンドステージでの挑戦と失敗の重要性
最終章 本書のまとめ

となっていて、まずは、今になって数々の問題を起こす「オッサン」が大量発生したのか、というところなのだが、それは

2018年時点で五十代・六十代となっているオッサンたちは、70年代に絶滅した「教養世代」と、90年台以降に勃興した「実学世代」のはざまに発生した「知的真空世代」に若手時代を過ごしてしまった、という点です(P23)

という現代史的な背景のもとに

現在の社会について確認してみれば、60年代に学生生活を送った「教養世代」はすでにほとんどが引退し、社会システムの上層部では「知的真空世代」が重職を独占し、その下を「実学世代」が固めるという構造になっています(P31)

という社会構造のなかで「「アート」にも「サイエンス」にも弱いオッサンたちが、社会や会社の上層部で実権を握るに至っている」といった分析がされている。
そして、その構造は「組織のリーダーは構造的・宿命的に経年劣化する(P38)」「二流の人間が社会的な権力を手に入れると、周辺にいる一流の人間を抹殺しようとします(P41)」」という力が働き、その劣化をますます進めている、といったところであるらしい。

で、こういう状況下で、「若いもん」はどうしたらいいんだ、というところになると

もっともシンプルなのは、組織をハンマーでぶっ壊して新しい組織・構造につく直してしまう、つまり革命ということになります。
実際に日本でこれが行われたのが、明治維新であり太平洋戦争の終戦だっと考えればわかりやすい。両者のあいだにはおよそ80年の開きがありますが、この80年という時間には、それなりの必然性があったように思います。
つまり、80年というのは、一度ガラガラポンしてリーダーシップの刷新を行った組織や社会が、再び先述したロジックによって劣化するのに十分な時間だということです(P51)

であったり、

社会で実験を握っている権力者に圧力をかけるとき、そのやり方には大きく「オピニオン」とエグジット」の二つがあります。
オピニオンというのは、おかしいと思うことについてはおかしいと意見するということであり、エグジットというのは、権力者の影響下から脱出するということです(P56)

といったことが提案されていて、この提案に単純に従うと「古いもん」は、排斥されるか、批判されるか、無視されるかのどっちかの目にあわされることとなるのだが、このあたり、若い人による暴力的な排斥が日常茶飯時になっている未来社会で、最後には老年者、中年者と次々抹殺されていき、最後は少年たちが幼少の者たちに襲われる結末となった小松左京か筒井康隆のショートストーリーを思い出した。
革命は、反革命を生み、反革命は反々革命を生み、反々革命は反々々革命を生み、と際限がなくなるのだがな、と思ったところで、

年長者が尊重され、大事にされる社会やコミュニティであればこそ、若者も中年もまた、将来は社会やコミュニティが尊重し、大事にしてくれると感じ、安心して働いて税金を収めていたのではないでしょうか(P115)

と「サーバント・リーダーシップ」であったり、「学び直しによる自らのパラダイムシフトの転換」といった、「古いもん」の新たな生き方の方向性が示されているのが、本書の優しいところなのだが、具体のところは原書で確認ください。

【レビュアーから一言】

本書の最後のほうに、本書の主要なメッセージとして

1.組織のトップは世代交代を経るごとに劣化する
2.オッサンは尊重すべきだという幻想を捨てよう
3.オピニオンとエグジットを活用してオッサンに圧力をかけよう
4.美意識と知的戦闘力を高めてモビリティを獲得しよう(P196)

とある。現代社会のさまざまな問題や軋轢が生み出されてきた責任は、「若いもん」ではなく、「オッサン」を含む「古いもん」が多く負わなければならないのは間違いない。

「若いもん」の圧力をきちんと受け止めながら、「古いもん」は

年をとっただけで「老いる」ということではありません。つまり「オッサン」というのは、好奇心を失い、謙虚さも失い、驚きながら学び続けるという姿勢を失ってしまった人たちのことを言うのです。・・・最もシンプルかつ重要な処方箋は、私たちの一人ひとりが、謙虚な気持ちで新しいモノゴトを積極的に学び続ける、ということになると思います(P208)

という言葉を胸において、若いもんと一緒に「世の中をなんとかしていきましょうよ」ということなんでしょうな。

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