美星が、バリスタ・コンペで起きる「混入事件」をすっぱりと推理する ー 岡崎琢磨「珈琲店タレーランの事件簿3 心を乱すブレンドは」(宝島社)

京都の小さな小路にある純喫茶を舞台にして、珈琲にちなんだ事件を解決していく「珈琲店タレーラン」シリーズの第3弾。
第一巻では、アオヤマの助けを借りながら、彼女の優しい行動が仇となって起きた事件のトラウマから脱し、第二巻では、妹・美空が巻き込まれた事件を解決することによって、父親の事故の思い出の残る過去を克服して、ますます推理に冴えが増してきた、美星バリスタが、今巻では、全日本コーヒー協会が定めた「コーヒーの日」にあわせ開かれる「第五回関西バリスタコンペティション」でおきる事件の解決に乗り出すのが、今巻のストーリー。

【構成と注目ポイント】

構成は

プロローグ
第一章 大会へ
第二章 前夜
第三章 一日目
第四章 二日目
第五章 三日目・真相
第六章 後日
エピローグ

となっていて、まずは、タレーランで、シュガーポットの中が塩にすり替えられていた、美星の昔からの知り合いのお客から苦情を言われる出来事からスタート。ただ、ここの場面では、この出来事の謎解きに展開することもなく、「第五回関西バリスタコンペティション」に美星バリスタが「出場する」という方向に進んでしまうので、当然スルーしてしまうのだが、実は最後の謎解きのところで大きな意味をもってくるので、ここは記憶にとどめておいてくださいな。

もちろん、大きな事件は、この「第五回関西バリスタコンペティション」で起きるもので、このコンペに出場者におきる競技の妨害事件の数々である。

このコンペは、美星バリスタの憧れの大会らしいのだが、第4回にはなにかの事件がおきて中止となっていたものが復活して、今回開催されたもので、一日目がエスプレッソ、コーヒーカクテル、二日目の午前がラテアート、二日目の午後がドリップというスケジュールで、バリスタの技術全般を競うものである。

美星バリスタの店は最近、第2巻の事件でちょっと有名になったのと、最近客数が増えたので選ばれたということで、他の出場者、黛冴子、石井春夫、苅田俊行、山村あすかはいずれもま先の大会からの本選出場者、もうひとりの丸底芳人は兄が本線出場者という、ベテランぞろいなのだが、このあたりにも、なんか複雑な因縁がありそうなのを匂わせてますね。

起きる事件のほうは

第一日目のエスプレッソの競技のところで、石井が用意したピーベリーという特別な豆に屑豆が混ぜられていたという事件が最初の事件。しかし、競技の日の前日には、屑豆が混ぜられていないのは、美星たちも確認しており、混入をするとしたら、競技の当日しかない。豆が置かれてた準備室に当日、最後に出入りしたのは「山村あすか」なのだが、彼女がなぜ・・という展開。

そして次の事件はコーヒーカクテルの競技のところで、おなじく石井にしかけられたすり替え事件。今度は、彼がカクテルに使う「塩」に何かが混入されていて、味が変えられたというもの。今回は、準備室の前を「アオヤマ」がしっかりと見張っていて、混入できそうな人物はいない、ということで、彼が犯人と疑われる。しかも、「怪しい」と指摘したのが美星バリスタ、というおまけつきである。

三番目の事件は、ラテアートの競技で、黛冴子におきたもので、彼女が使う「牛乳」に食紅らしいものが混入されて、白い牛乳に赤が混じって毒々しいものにされていたもの。彼女は牛乳を前日から冷蔵庫に入れていたので、これまた混入の時期も見当たらない、という設定で、今回も一番容疑者っぽいのが「アオヤマ」くんである。

で、これらの混入事件の謎を、運営から頼まれた「美星」バリスタが解き明かしていくわけだが、鍵となるのは、伝説のバリスタとして、第1回から第3回まで連続優勝した「千家諒」という人物で、彼のことは、プロローグや挿入話のところで、山村あすかの憧れのバリスタで「心の師匠」のような扱いになっている。そして最初のシュガーポットにシヲが入っていた出来事の「お客」も千家らしいというおまけつきである。

さらには、第4回の大会が中止になったのも、千家が使おうとした豆に「洗剤」がまぶされていて、それを飲んだ千家が昏倒したということがきっかけだったということが明らかになる。ただ、その混入は千家の自作自演ということで決着したらしいというエピソードまででてきて、この大会に何やら不吉な匂いが漂ってくるのであるが、さて、今回の混入の犯人は?、そして、第4回大会の千家の豆の混入事件は本当に自作自演だったのか・・・、という展開である。

事件の真相のほうは、こういう大会にありがちな行き過ぎた功名心というのが原因なにだが、それだけではなく、第4回の事件も単なる混入や自作自演にとどまらずないところが、なんとも人間の業(ごう)を見せてくれる筋立てですな。

【レビュアーから一言】

結局のところ、美星バリスタは、憧れだった、このコンペを捜査のために棄権してしまうことになるのだが、まあ、こうしたどろどろした感情にまみれた大会とは距離を置いたほうが、彼女のためにはいいことだと思いますね。
さて、今巻はコーヒーのコンペということもあって、今までの巻ではところどころに京都の観光案内的なところが多かったのだが、コーヒー・ミステリーの本領を発揮して、例えば

コーヒー豆は通常、コーヒーノキがつける赤い実ひとつにつき二つの種子、すなわち豆が入っており、その豆どうしが接する面が平らに近くなる。
このような豆をフラツトビーンというのに対し、ビーベリーと呼ばれる、丸みを帯びた形のコーヒー豆が存在する。
赤い実にひとつしか豆が入っていないとこのような形になり、その原因ははっきりしないものの、こうした実は枝の先端につくことが多いと言われ、コーヒー豆全体の収穫量のうち三~五パーセント程度を占める
ピーベリーは成分などの面でフラットビーンと差がない一方、焙煎の際に火が均一に通るので、フラットビーンよりも風味がよくなると言われることもあり、収穫量の少なさから希少価値を付与されて取り引きされる場合も多い。

であったり、

アイリッシュコーヒーとは、その名前にもあるように、アイリツシュウイスキーをベースにしたコーヒーカクテルである。
温めたグラスに砂糖を入れ、ホットコーヒーとウイスキーを注いでステアし、表面に生クリームをたつぶり浮かべて完成、というのが基本的なレシピだ。
冬のアイルランドの空港にて、飛行機の給油を待ちながら寒さに耐える乗客たちの体を温めるために考案されたと言われ、いまでも寒い季節を中心に世界じゅうで親しまれている飲み方である。
同じウイスキーでもスコッチを使えばゲーリックコーヒーという名前になるように、アレンジの幅は広い

といったふうにコーヒーのエピソードも随所に出てくる。ミステリーとあわせて、コーヒーのTipsを楽しんでくださいな。

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