美星バリスタの周辺の謎のアラカルトをどうぞ ー 岡崎琢磨「珈琲店タレーランの事件簿4 ブレイクは五種類のフレーバーで」(宝島社)

京都の純喫茶「珈琲店タレーラン」を舞台にして、童顔ながら美人のバリスタ「切間美星」が、お客さんが悩む様々な事件を解決する、珈琲店ミステリーの第4弾である。
第一巻から第三巻までは、単話仕立ての感じを出しつつも、基本的には長編構成であったのだが、第四巻は、短編集の仕立てになっていて、美星バリスタの推理は共通するものの、様々な語り手による物語が語られる、アラカルト、といった仕立てである。

【収録と注目ポイント】

収録は

「午後三時までの退屈な風景」
「パリエッタの恋」
「消えたプレゼント・ダーツ」
「可視化するアール・ブリュット」
「純喫茶タレーランの庭で」
「リリース/リリーフ」

の六話。

まず「午後三時までの退屈な風景」は、喫茶タレーランの家猫である「シャルル」の目撃した事件。金持ちらしい男性とみすぼらしいみなりをした女性のカップルと男の子と母親の二組の客の話なのだが、母親が小さな男の子が飲みたいというコーヒーを甘くするために砂糖を大量に使い、さらに隣のテーブルのシュガーポットと交換した理由や、男性がカバンの中身を取っ散らかして、指輪のケースを転がしてしまった時に女性が取った行動の陰に、なんとも欲にまみれた行動を美星バリスタが明らかにするもの

第二話の「パリエッタの恋」は、理学療法士の専門学校に通う女性の「恋物語」。彼女は同じ学校に通う、昔からよく知っている男の子に自分のアパートで夕食をご馳走するような仲であるのだか、その学校の教師から個別指導を受けるうちに好意を抱きあい、といったお決まりの流れ。当然、学校内でも先生と生徒ということで問題になるのだが、実は彼女は・・・、といった展開。「専門学校に通う女性」と言う表現だけで先入観を持ってしまった当方が迂闊でした。

第三話の「消えたプレゼント・ダーツ」はアオヤマくんが、美星バリスタからプレゼントされた「ダーツ」をダーツバーで盗まれてしまうのだが、その犯人探し。彼に絡んでくるダーツの得意な男性の嫌味なところに惑わされないように注意して推理しないといけないですね。

第四話の「可視化するアール・ブリュット」は第二巻で失踪騒ぎを起こした凛ちゃんの話。アール・ブリュットの絵画を見に行って、スランプに陥った彼女に起きた不思議な出来事で、彼女がスケッチブックを学校の棚のいれて帰った翌日、そのスケッチブックに描いていた奥多摩の渓流のデッサンの上に、彼女が描いた覚えのない小人が描かれていたという出来事。学校の棚には鍵をかけていたので、いったい誰がどうやって描いたのか、という、どっちかというと他愛もない謎。ただまあ、この謎解きで彼女がすスランプを脱出するのと、自分を想ってくれる男性の姿を再確認するので、まあ怪我の功名かな。

第五話の「純喫茶タレーランの庭で」は、美星バリスタが第一話で出てきた事件の後遺症で、人嫌いになり閉じこもっていた時に、タレーランの初代の経営者の藻川の奥さんによって立ち直りの機会をつかむ話。立ち直りのネタに使われるのは庭に植わっている「檸檬」の木の実と、梶井基次郎の「檸檬」。梶井基次郎の作品のように、美星がとってきた「檸檬」が爆発音を発する。当然、奥さんのいたずらなのだが、美星が適当に収穫してきた檸檬になぜいたずらを仕込むことができたのか、という謎を解いてくださいな。

第六話の「リリース/リリーフ」は、シャルルが拾われてきた時の話。ある時、若い女性がタレーランを訪れるが、第一巻でシャルルの命を救った男の子によると、彼女がシャルルを捨てた犯人だというのだが・・・、といった話の解決。本当は猫好きの彼女の疑惑を美星バリスタが晴らす話なのだが、そう推理したもとは「だって、仔猫を捨てるような人に、この子(シャルル)がなつくはずありませんから」とは、またなんとも人の好い推理でありますね。

【レビュアーから一言】

喫茶店というところは、訪れる人の年齢も種類もバラバラで、なおかつ抱えている「悪意」や「邪心」の度合いもまちまちなので、そこで起きる事件も、他愛もないものから、悪意の強いものまでまちまちなことを今巻は教えてくれる。
ではあるのだが、いくつかの苦難からの立ち直りを経て、美星バリスタが立派に凛々しい探偵役を務めているのが、なんとも嬉しくなってしまいますね。

コメント

タイトルとURLをコピーしました