公家あがりの剣豪旗本、再び江戸の闇を晴らすため登場 ー 佐々木裕一「公家武者 信平 消えた狐丸」(講談社文庫)

徳川家光の御台所の実の弟で、公家の名門・鷹司家から幕臣となった、松平信平の活躍を描いたシリーズの第二シリーズの始まりである。

前シリーズで、江戸の闇に潜む悪党を、その剣技によって次々退治し、徳川家光、徳川家綱の覚えめでたく旗本に昇進したのもつかの間、幕府からの命で幕府転覆を狙う豊臣の残党・神宮寺翔の討伐に乗り出し、愛妻が命を落としかけたというのがが、前シリーズの最後のところであった。
なんとか、神宮寺を倒したものの、愛妻・松姫は恐怖によって精神を病んでしまい、神宮寺の残党から彼女を守るのと看病のために隠棲をしていた「信平」であったのだが、彼女の病もなんとか回復したところで、再び江戸や京都の平安を守るために再登場といった設定である。

【収録と注目ポイント】

収録は

第一話 消えた狐丸
第二話 友情の剣
第三話 長い一日
第四話 信平と放蕩大名

の四話で、今巻は「再登場編」とあって、信平の身の上には大きな変化はなく、江戸の闇を晴らすリハビリ活動中といった具合である。

第一話の「消えた狐丸」は、信平の再登場の話。三年ぶりに表舞台に登場とう設定でもあり、また第一シリーズが二見書房から出版されていたのが、今回は講談社文庫から、ということで、奥方・松姫と義父の紀州藩主・徳川頼宣、附家老的に幕府から家臣となった葉山善衛門や、安倍老中の配下で信平の監視役の忍び・お初などなど、キャストのおさらいからスタートするあたりは新シリーズの開幕らしい。
事件のほうは、江戸市中に出没しているという、剣客ばかりを狙った辻斬りの探索なのだが、いつの間にか家伝の宝刀「狐丸」が失くなってしまう、というところで次話に続く。

第二話の「友情の剣」は前述の「辻斬り」事件の解決編。第一話の最後で、捜査にあたっていた「先手組」をものともしなかった辻斬りに「自分を倒せるのは、若狭彦之介しかしない」と言われた、その若狭が、町道場の二代目ながら剣の腕はからっきし、ということがわかる。どうやら、辻斬りの犯人は、この道場の元師範代らしく、剣の腕に劣る二代目への復習らしく・・・、といった展開で、信平が退治に乗り出す、という筋立て。奉行所与力になった「五味」が、生死をかけた活躍をして、やっと「お初」の気をきいたらしきところが次話以降の二人の仲の進展を暗示しているような、していないような。

第三話の「長い一日」は、米屋の跡取り息子が、旗本の三男坊に斬りかかるという事件に、信平が出くわすところからスタート。「旗本の三男坊」というのは、多くの時代小説で、「手癖の悪い乱暴者」というのがお決まりなのだが、この話でも、その定番をはずさないところがステレオタイプながら、皆が安心する設定である。そして、彼がそうなった原因が、どんなに努力しても家を嗣ぐことのできない冷や飯食いの生活のためで、信平たちは彼を改心させようとするが・・・、といった展開なのだが、通常の話と違うのは、ここの彼の兄が登場して、弟のせいで家が危うくなることを恐れるあまり信平たちへ刃をむけて、といった方向へ進んでしまうあたり。

第四話の「信平と放蕩大名」は、丹波能勢藩主・青野秀里という大名が、信平のもとへ転がり込んでくる話の裏に隠された事情を、信平が解き明かしていく話。この大名、実は「放蕩」で有名で、国元の妾腹の兄と比べられ、藩内では、秀里では国が危うい、という話もでている。どうやら、彼の兄もそんな気になったらしく、先ごろ、秀里の毒殺未遂事件もおこったようだ。
そして、とうとう、その兄が国元から江戸へやってくるという知らせが届き・・・、といった展開。国を思う大名兄弟の心根はおいといて、彼らの周囲の家臣たちを巻き込むと面倒くさくなるようで、この話の後の藩の行く末がちょっと気になるところ。

【レビュアーから一言】

実在の人物を主人公とした時代物というのは、最近珍しくなったように思うのだが、妾腹ながら公家の名門から旗本・大名になった人物であることを活かした、一風変わった「水戸黄門」的なしつらえは日本人の感性に妙にマッチするものがあるから不思議である。

善右衛門、お初、五味といったおなじみのキャストも前シリーズと変わらない持ち味と活躍をしてくれて、シリーズ再開にふさわしい始まりを告げていますね。

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