跡目争いがもたらす事件を「信平」がスパッと解決 ー 佐々木裕一「公家武者 信平 逃げた名馬」(講談社文庫)

先巻で、江戸の闇を晴らす役回りに再デビューした、公家出身の旗本・松平信平を主人公とした「公家武者」シリーズの第2シリーズの第2弾。

 

【収録と注目ポイント】

収録は

第一話 逃げた名馬
第二話 悪しき思惑
第三話 佐吉を捜せ!
第四話 頼母の初恋
特別収録短編 神宮路との戦いの果てに

の4話+特別編1話。

第一話の「逃げた名馬」は、信平が江戸市中を散策中に出くわした「暴れ馬」に絡んだ、旗本の家のお家騒動。茶会からの帰り道に、信平は大藪為泰という旗本に出会うが、彼は五百両以上の値がつく名馬を売りに行く途中だという。どうやら、弟がこしらえた借金の返済にあてるというのだが、弟に金を貸した荷馬と早馬を扱う木曽屋の陰には弟の企みもあって、ということで、やはり出てくるのは定番の跡目争いということで、一人総取りのシステムってのは争いの元なんですかね。

第二話の「悪しき思惑」も武家ではないのだが、富商の跡目相続に関するもの。今回もに信平が市中散策中に、母親を斬り捨てて、赤ん坊を連れて行こうとする人たちに出くわすところからスタート。主人公が行くところ騒動が待っているのは、多くの物語の常で、仮に主人公が家の中にじっとしていれば世の中平穏なことこの上ないのであろうけどね。
で、この赤ん坊というのが、炭問屋の一人息子で、斬られそうになった女性は、その問屋の主人のお妾さん。この商家には、なんとも派手な色っぽい本妻さんがいて、といった具合で、これだけで面倒くさいことが隠れていそうな気がしますね。まあ、隠れているのはご想像のとおり「情事」なんでありますが、詳しくは本編で。

第三話の「佐吉を捜せ!」は、恩人の病気見舞いに、東大久保にやってきた佐吉が、武士の父親が斬り殺され、その娘も連れ去られそうになるところに出くわし、その娘を助け出すも、佐吉も負傷して、近くの小屋に立て籠もる。当然、侍を斬った相手の一派は大勢でやってくるのだが・・・ということで、今回は佐吉の強さが目立つ展開ですね。
とはいうものの、世の中、跡目争いばかりですな・・・。

第四話の「頼母の初恋」は、信平家中一番の堅物の「千下頼母」のもとへ旗本の名門・須賀家の当主から娘をもらってくれという、逆玉の話が転がり込む話。その娘・初美は「緊張している様子だが、色白で、優しそうな面立ちをしている。白地に薄水色の花びら模様の着物がよく似合っている」といった様子で、こういう話でよくある「気が強くて高慢な・・」といった設定ではない。もちろん、こういう話には隠された理由があって、実は彼女は「念流」の達人の御家人の次男に嫁にしたいと狙われていて、彼女の縁談の相手が二人も殺されているというのだが・・・、という展開。彼女を、凶暴なストーカーから守れ、というわけなのだが、単純なストーカー話ではすまないので念の為。

特別収録短編の「神宮路との戦いの果てに」は、神宮寺翔を倒した後、彼の弟に、信平が兄の仇と狙われる話。なぜ、信平が「狐丸」を封印し、表にでてこなくなったのか、の理由がこれでわかります。

【レビュアーから一言】

世の中が落ち着いてくると、うごめき出すのが「お家騒動」というもので、今巻は、武家も商家も跡目を巡っての不満や陰謀が原因となる話が多い。
さらには「家の継承」が原因となる「階級違いの恋」という悲話ってやつも盛り込まれていて、江戸幕府も、家光も没し、四代目・家綱となって十数年ともなると、国を揺るがす大騒動ってのは遠い話となってしまっているのだが、江戸時代を舞台とした「時代小説」らしい、といえなくもない。
「太平の安泰」が生み出す「闇」に信平が挑む、といった感じでありますかね。

第四話の最後のほうで、高家格に出世して、千石の加増となる。まあ、もともとが妾腹とはいえ鷹司家の出であるのだから儀典とか儀式に携わる「高家」は当然といえば当然なのだが、おそらくは次巻以降の各種の事件に関わることになるふせきでありましょうね。もっともWikipediaでは、信平が高家となった記録は書かれていないので、本書のフィクションかもしれないですね。

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