「仕組み」で、個人とチームの仕事の質をハイレベルに持続する ー 泉正人「最新 仕組み仕事術 自分のチームと生産性を最大化する」

もともとは、2008年に「仕事に「仕組み」を取り入れることで仕事量と労働時間を減らしつつも、安定した成果を上げることを提唱」した前著を、10年経過して、ビジネスを取り巻くデジタル環境も大幅に変化し、なおかつ「働き方改革」といったことも世間をあげて提唱させるようになったことを踏まえて、リニューアルしたのが本書『泉正人「最新 仕組み仕事術 自分のチームと生産性を最大化する」(Discover)』である。

こうした「時短本」「効率本」というのは、絶えず時間や技術の進歩の波に洗われているもので、現在のように特にITの分野のサービスやガジェットの変化が激しい時には、こういうバージョンアップやリニューアルがないと、基本のテクニカルなところは普遍でも、なんとなく古びた印象がついてしまうものなので、こうした改訂は良心的であるとともに、基本のところがしっかりしている証でもある。

【構成と注目ポイント】

構成は

序章 なぜ仕事に「仕組み」が必要なのか
第1章 時間をつくるための「仕組み」
第2章 ミスをなくすための「仕組み」
第3章 人に仕事を任せるための「仕組み」
第4章 最少の労力で最大に成果を出すための「仕組み」
第5章 成長し続けるための「仕組み」

となっていて、「仕組み」とは「誰がいつ、なんどやっても同じ成果が出るシステム」で、例えると、自転車に乗ったことのないひとでも、すぐに、点灯することなく自転車が「乗りこなせるようになる「補助輪」のようなもの、とのこと。

なので、すべての仕事のすべての場面に万能というわけではなくて、例えば、本書によると「思考系の仕事」や「言語化がしにくい領域」では「誰がいつやっても同じような成果が出る」というのは難しい、と正直に告白されている。
しかし「言語化がしにくい分野」の最たるものである「デザイン」の分野でも、その分野の第一人者である水野学さんによると、デザインというものも「努力すれば身につけられるもの」で、デザインのセンスとは「集積した知識をもとに最適化する能力である」で、水野氏の著書『センスは知識から始まる』によれば「最終的なアウトプットとは、土台となる知識がいかに優れているか、いかに豊富かで、かなりの部分が決まってくると思うのです。」ということであるようなので、応用レベルの違いはあっても、すべての仕事に「仕組み」が応用されて役に立つと思っていいだろう。

で、その具体的な「仕組む」は、ということについては、筆者が「仕組み」を導入することによって得られるメリットである
①時間が得られる
②ミスがなくなる
③人に仕事を任せられる
④最小の労力で最大の成果が出せる
⑤自分とチームが成長し続けられる
の項目に沿って、そのテクニカルなところも含めた詳しく紹介がされている。

例えば、「時間」の項目については、紙書類のPDF化や、電子ファイルの管理で「フォルダはざっくり分類する」「ファイル名の表記に統一性を持たせる」「タグをつける」といったルールづくりに加えて、メール処理スピードアップの手法として、Gmailを使うことを推奨し、さらには
・ショートカットキーの登録
・メールは1回しか読まない
・即答できるものはその場で行う
・メールはタブレットやスマホの画面で読むことを前提に「20行」に収める
といったルールに加えて、Gmailの「振り分け機能」を使って自動分類して、複数の受信トレイを使ったり、メールの入力はスマホなどからの「音声入力」を基本にする、といったところは、Webメールを使うのが普通となり、さらにはデバイスもPCからスマホに移行しつつある「今」にマッチングしたものになっている。

さらには、「人に任せる」という側面では、「マニュアル」という昔ながらの手法の応用として
①口頭で説明しなくても伝わる内容とする
②スキルや経験のない人でもミスが起きない内容にする
③ミスが起きなくなるまで、改善を繰り返す
ということを基本にした「チェックシート」という方式を、10年前の前著の頃から使っているそうなのだが、その趣旨は

詳細なチェックシートがあれば、担当するスタッフの経験値や判断が入り込む隙がなくなります。
(略)
ミスを防ぐことは当然重要ですが、実は「過分な仕事」にも目を向けて、未然に防がなくてはいけません。

であったり、

チェックシートを徹底的につくり込むと、新入社員などのスタッフがメモを取る必要もなくなります。むしろ、チェックシートがあるのに補足でメモを取らないといけないんもであれば、それはチェックシートが不完全な証だと思うようにしましょう。
(略)
新入社員の「才能に頼る」のは避けるべきで、どんな新入社員でも「ミスなく業務ができる仕組みづくり」に視点を向けるべき

といったあたりは、10年前から変化しない「セオリー」であるのだろうが、終身雇用制が揺らぎ、グローバル化も進展する現在の職場環境にあって、メンバーが変わっても、変わらないレベルのパフォーマンスを維持するという面で、極めて現代的なアドバイスである。

このほか、「ミスがなくなる」「最小の労力で最大の成果が出せる」「自分とチームが成長し続けられる」といったところでも、「使えるテクニック」が豊富にレクチャーされているので、かなりおトクな本に仕上がっている。

【レビュアーから一言】

ITも含めた働く環境や、一緒に働くメンバーといったものが変化する度合いが大きければ大きいほど、その変化を包み込んで、一定レベルの仕事のパフォマーンスを実現する、本書で提唱されている「仕組み」の考え方は、これからますます重要になってくる。
その意味で、本書で紹介されている「技術論」的なところは、それぞれの職場の環境に応じて使ってみるとして、最も大事なところは「仕組みというものの考え方」の芯のところを掴んでそれぞれが「応用を利かす」というところであろう。
仕事の効率化を、個人のレベルだけでなく「チーム」のレベルで実現したいと願うビジネスマンは読んでおいたほうがよいですね。

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