アイデアは「新たに生み出す」のではなく、「くっつける」もの ー 水野学「アイデアの接着剤 」

ここのところ、「デザイン」や「アイデア出し」といったところや、そのための「センスアップ」についての本を読んだり、レビューしているわけなのだが、こういった関係についtねお究極のところの万人の悩みは、「どうしたら、斬新なアイデアが、ばんばん出せるようになるの?」というところであろう。

もちろん、「デザイン」や「センスアップ」が、特定の人たちの特殊な能力ではないことは、水野学氏の「センスは知識から始まる」や「「売る」から、「売れる」へ 水野学のブランディング講義」などの著作ではっきりと言われているのだが、それでも、なにか、斬新な「アイデア出し」の秘訣はないものか、とすがってみたのが本書『水野学「アイデアの接着剤」(朝日文庫)』である。

【構成と注目ポイント】

構成は

Prologue アイデアの接着剤
第一章 人と人
 接着剤 その1 コミュニケーション
 接着剤 その2 客観性と主観性のザッピング
 接着剤 その3 「大義」をもって仕事をする
第二章 知識と知識
 接着剤 その4 「知識+知識」のイノベーション
 接着剤 その5 「洞察力」を研げば「切り口」が変わる
第三章 ヒットのつくり方
 接着剤 その6 インプットの質を高める
 接着剤 その7 時代の「シズル」を嗅ぎ分ける
Epilogue 価値観を変えてくれるのは、いつも「人」

となっていて、まず最初に目を引くのは、最初のほうの

ところで、僕は一度たりとも「アイデアを生み出した」ことがありません。
これから先も、「アイデアを生む」なんてことは、おそらくないと思っています。
僕の仕事は、世界に無数に転がっている、アイデアのかけらとかけらを拾い集め、ぴったり合うものを、くつつけることだから。(P5)

といったところで、アイデアを出す時に、とにかく誰も考えつかないものを、とかいった発想に陥りがちなのだが、そのへんは根底から考えなおしたほうがよさそうなアドバイスに、まず驚く。

その考え方は、

デザインとは「個人の感性の表現」だと思っている人がいるとしたら、誤解です。
主観性と客観性のバランスが取れたとき、デザインは初めて仕事として成立するものです。(P26)

といったところにも現れていますね。ただ、そうした場合、アイデアを生み出す源泉となるのは、同じ筆者の「センスは知識から始まる」での論説と同じように、多くの知識やアイデアの源となるたくさんのTipsが必要となるわけで、ここらをストレスなく、日常的に集めるという作業は必須になる。そのため、本書によると、筆者の日常は

アイデアのかけらを拾い集める際には、ヴィジュアルは用いません。
ほとんどの場合、言葉を手がかりにしています。
そのメリットは二つ。
一つは、デザイナーの最大の弱点、「紙とペンもしくはパソコンがないと絵が描けない」という物理的な条件にとらわれずにすむこと。
もう一つは、言葉というのは「余自があって、ゆるい」ということ。(P96)

移動中に思いついたことは、すべて言葉として携帯電話に残します。
ツイッターも携帯電話から。飲んでいる最中でも、相手が何かいいことを言ったり、「おつ、これはアイデアのかけらだ!」と感じたら、速攻で携帯にメモします。(P109)

といったようであるので、全てではなくても、「アイデア出し」に悩んでいるビジネスマンは、試して見る価値がありそうだ。

そして、

デザインとは、「個人の感性の表現」だと思っている人がいるとしたら、誤解です。
主観性と客観性tのバランスが崩れたとき、デザインは始めて仕事として成立するものです
(略)
「五一:四九」という前提で考えて、判断していく。
こうすると、二つのメリットがあります。
一つ目のメリットは、柔軟に人とかかわり、楽しく仕事ができるというこ
(略)
二つ目のメリットは、予想外の発想が出てくること。
(略)
五一%とは、現在の事実や常識だったり、過去から来た定説だったりするわけです。
四九%とは、不確かだけれども、未来であり、可能性です。
ここに目を向けることで、次のステージが生まれるのではないかと思います。(P27)

という『「51:49」で物事を見る』という方法論は、しゃにむに目的地を目指してしまいがちな日本のビジネススタイルや「個人の主観」が前へ出て、普通の人の感覚を下に見る「独りよがりのデザイン」への反論でもあり、

新商品をヒットさせようというとき、大切なのはこの商品力です。
しかし、よい商品であることは当たり前で、それだけで売れることはありません。
よい商品が、よい商品であると伝えること。
「ほしい、買いたい」という本能をかき立てること。
それが「シズル」の演出であり、僕たちアートディレクターの仕事です。(P156)

シズルを演出するうえで気をつけていることは、商品に無理をさせないこと。
面白いデザイン、目を引く広告を追求していると、意外性を求めるように感じるかもしれませんが、シズルは王道であるべきだと僕は考えています。
「新鮮さ、面白さ、意外性」の演出は、最後にパラパラ振りかける時代性の役割です。(P158)

といったところでは、デザインの分野や企画の分野において「王道」というものをおさえていくことの大事さをあらためて教えてくれる。
とはいっても、その「王道」をつかむために「マーケティング調査」であるとか「インタビュー調査」といった手法をすぐとりそうになるのだが

マーケティングの恐ろしさは、お金と時間と労力をかけて、グラフや数字を満載した資料をつくったとたん、この「単純なこと」を忘れてしまう点にあります。
自分のリアルな感覚で判断できないと、人はデータに頼るようになりますが、注意が必要です。あらゆる調査は統計的な処理がなされたとたん、細部にかくされていたヒントがこぼれ落ちてしまうのです。
マーケテイングは、自分の仮説にぴたりとはまったときに、それを裏付けるための説得材料として使う。これくらいのスタンスで、ちょうどいいのではないでしようか(P115)

ということなので、真面目で正面から攻めがちなビジネスマンは気をつけたほうがいい。

【レビュアーから一言】

読んでいると、「こんなの俺には無理だ〜」と感じて投げ出してしまいそうな気に襲われそうになるのだが、筆者は最後のほうで

自分がもっている「接着剤」を、よいものにしようと思うなら、 一番確実な方法は、たった一つ。
「くっつけ続けること」、これに尽きます。
評判になろうがなるまいが、アイデアのかけらを拾い続け、くっつけ続ける。(P173)

とも言っていて、自分の「勘」と「思い」を信じて、前に進み続けることの大事さを訴えているようだ。優れた「アイデア」を出すのに、近道はないが、天才や才人だけに許された道でもない、そんな後押しをもらえる一冊である。ちょっと自信をなくしている企画マンは、これを読んで、またリフレッシュしてアイデアを練ってくださいな。

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