京の戯作者と美人絵師の恋模様は、彼の過去に復讐されるのか ー 三好昌子「京の絵双紙屋 満天堂 空蝉の夢」(宝島社文庫)

代々、男の子は生まれず、しかも娘は26歳になると突然死する「祟りつき」の家である京都の口入業「縁見屋」の跡継ぎの一人娘・お輪を主人公にした前作「京の縁結び・縁見屋の娘」に続く「京」シリーズの二つ目である。

今巻は「縁見屋」とはちょっと離れて、絵双紙屋・満天堂書林を舞台に、忌まわしい過去を隠し、本名を捨てて、京に暮らす駆け出し戯作者・月乃夜行馬、料亭・若狭屋の娘ながら、これまた秘密を抱えている美人絵師・刈谷冬芽をメインキャストにした物語で、最初は、錦絵づくりを巡っての行馬と冬芽の出会いといった男女の恋愛ものっぽいスタートなのだが、行馬が津山藩にいた当時の仲間が斬殺されはじめるところからにわかにきな臭い展開になってくる。

 

【構成と注目ポイント】

構成は

其の一 幽霊図の事
其の二 満天堂の夢
其の三 冬芽の夢
其の四 八重の夢
其の五 若狭屋の夢
其の六 辰蔵の夢
其の七 嵐山の夢
其の八 般若刀の事
其の九 春次の事
其の十 秘めケ淵の事
其の十一 横田源之丞の事
其の十二 おぶんの事
其の十三 岸田松庵の事
其の十四 紅屋の隠居の事
其の十五 津鷹惣吾郎の事
其の十六 泣き般若の事
其の十七 空蝉の事

となっていて、時代的には、明和七年あたりが設定されている。明和という時代は。宝暦と安永の間で、時の公方様は十代の徳川家治。この人は趣味三昧に生きた将軍であるとともの、田沼意次を登用した人で、あまり誉めた話を聞かないのだが、明和二年に錦絵が誕生したり、明和九年には江戸で明和の大火があったり、と文化爛熟の気配がありつつも災害の多い年代といった感じであろうか。

物語のほうは、満天堂の若主人・吉太郎が、代替わり後の大仕事として、京都の名所案内で人気を博しはじめた。行馬・冬芽コンビを使って、錦絵をいれた「草紙」を出そうとするのがもともとの話。
その草紙をつくるために、江戸から彫師が呼び寄せられたり、といった脇の話はあるのだが、前段部分の読みどころは、義理の兄と深い仲にある気配の絵師・冬芽に惹かれてつつも、故郷に残した元許嫁のことが思いきれない「行馬」と、兄と切れたくても別れられない「冬芽」が、だんだんと近づいていくところなのだが、突然、行馬の武家時代の同僚が斬り殺されるという事件が相次ぎ、話は、彼の武家時代の因縁話のほうへ展開していく。

彼は武家時代、津山藩の藩士だったのだが、急激な藩政改革を進めようとする家老たちによって、反対派や一揆をたくらむ農民たちを制圧する「死手組」のリーダーとして、多くの藩士や領民を殺めた過去をもっている。その後、政変によって彼をとりたてた家老が失脚し、「死手組」の面々は捕らえられ、藩外へ追放されていたのだが、最近、その仲間が次々と帰斬り殺されていく。しかも、斬殺に使われる刀が、「行馬」の愛刀で、いつの間にかすり替えられていた「般若刀」であるらしい。そして、次の標的は、どうやら行馬のようなのだのだが、その犯人はどこで襲ってくるのか?、さらに、刀はいつすり替えられたか?・・・、といった展開である。

もちろん、筋立ては一本道ではなくて、自殺したといわれていた許嫁との再会や、信じていた元の上司の家老や親友の本当の狙い、あるいは津山藩に隠された秘密、といったことがトントンと出されてきて、最後のところで、全部まとめて「解決」といった筋立てなので、流れにまかせて楽しんだほうがよろしいですな。

【レビュアーから一言】

錦絵と草紙づくり、冬芽との仲、さらには行馬の身のまわりの世話をしていた「お文」という娘が行馬が津山藩当時に襲った庄屋の娘であった、などなど場面転換がめまぐるしく変わるので、テンポの速い芝居を見ているような読み心地である。

さらには、錦絵の話であるとか、隕鉄らしいこぼれ話も随所にあるので、興味を引いたら、そのあたりに寄り道っしてみるのもいいかもしれません。

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