1日7万食、配食するメガ「弁当屋」企業から組織づくり・人づくりの秘訣を盗め ー 菅原勇一郎「東京大田区・弁当屋のすごい経営 (扶桑社)

都内15区と神奈川県の一部をエリアに、会社向けに配達する税込450円の日替わり弁当だけを扱って、1日7万食を配達している、大田区の宅配弁当会社・玉子屋の二代目社長による「経営本」である。

本書によると3000食/日扱えば、弁当業界では大手といわれるそうなので、7万食/日で、年商90億円の「玉子屋」は弁当業界の「メガ企業」には間違いない。
ただ、スタンフォード大学のMBAコースの「ケーススタディ」に選ばれたのは、その「メガさ」というよりは、そのサプライチェーンのユニークさなど、経営のユニークさにあるらしい。

【構成と注目ポイント】

構成は

1章 中小記号の事業承継は先代が元気なうちに
2章 数字で語る玉子屋
3章 嫌いだった弁当屋を継いだ理由
4章 社員の心に火を灯せ
5章 玉子屋の未来

となっていて、本書の読み方としては、二代目社長への事業承継のノウハウや、二代目社長からみた創業企業の継ぎ方、といった視点か、一日7万食を配食する秘訣とか、それを支える社員育成の視点で読むか、といったところなのだが、当方は二代目社長の身の上でもないので、後者の視点に近い所で読んでみた。

まず、その7万食の配食方法なのだが、素人目で考えると、弁当というのは注文を受けてから盛り付けして配達、といったことが常識と思ってしまいのだが、都内と神奈川県内の広い範囲に、大量の配食となると、発想を変えないといけないようで、

要は遠距離、中距離、近距離と配達エリアを分けて、配達車同士が連携することで配送効率を高めています。
まずは遠距離エリアの配達車は受注を待たずに、朝8時の段階で「見込み数」の弁当を積み込んで出発。中距離エリアの配達車はそれよう遅れて出発します。遠距離部隊の弁当が余ったり、不足する見込みとなった場合は、遠距離エリアの配達車と中距離エリアの配達車が連絡を取り合って、弁当を補給したり、逆に余った弁当を積み替えます。同じように中距離エリアの不足分や余剰分は、大田区周辺の近距離エリアの配達車に積み替えて調整していく。
(P38)

という配送方法で、このあたりは、遠隔地でビジネスをしたいのだが、兵站線が細い場合に応用ができそうなのだが、

サービススタッフは胚質コースごとに20の班があって、各班に班長がいる。班長を中心に約200人のスタッフが配達・営業活動を進めています。
彼らはただ弁当の配達と容器の回収をするだけではなく、営業も仕事です。(P160)

20班からなるサービススタッフの班体制は、単に胚質エリアを振り分けて効率よく弁当を配達するための仕掛けではありません。
私は班それぞれが一つの会社というイメージを持っています(P163)

といったような「独立性」の高い、「細胞」組織が元気に活動していることと、

ビジネスには決まった答えがあるわけではありません。特に玉子屋は刻一刻と注文状況が変わるので、その日の朝に決まったことを数時間後に変更するなど日常茶飯事です。弁当の配達にしても、配る弁当の数やルートが1日のうちに何回も変更されます。
そうした状況下で、機転を利かせてテキパキと動けるのが、「天然もの」の悪ガキ社員なのです。「養殖もの」は指示通うにやらなければと考え過ぎるから、何か変更があると動揺したうフリーズして、的確な判断が下せないことが多い。
顧客志向という点においても、「悪ガキ」社員のほうがしっかりお客様に向き合おうとする傾向が強いように思います。(P147)

といった職員の採用と育成方針のユニークさがあってのもので、スタンフォード大学のMBAの生徒が、この企業のケーススタディに興味を抱いたものの一つが

なぜ特別に優秀ではないスタッフを揃えて使っているのかということ。
あらゆる業種においてナンバーフンの企業はいかに優秀な人材を揃えて、いかに業務効率を高めるかを追求している。優秀ではない人材ばかり集めて、どうしてナンバーフンになれたのか。「悪ガキ?・Whats?」と。(P196)

といったところであったのも納得であるが、機動的で、効率的な組織づくりをプランニングする場合は押さえておいたほうがよいポイントですな。

さらに、弁当容器の回収の際に、「食べたい弁当」のアンケートなどをやってみるそうなのだが、

我々の場合、まず担当者レベルでたとえば「もうちょっとヘルシーなメニューにして欲しいという声が多いんです。『揚げ物を減らして』とか。そうすれば注文がもっと増えると思います」という声が返ってきます。
しかし、実際にアンケートを取ってみると、一番入れて欲しいメニューは「ハンバーグ」で、 一番入れて欲しくないメニューも「ハンバーグ」という結果が出たりする。
さらに回収した弁当を調査すると、揚げ物やハンバーグの日は食べ残しがほとんどなくて、かえって和食の日は食べ残しが多かったり、食数が減ったりする
つまり、担当者の声とアンケート結果と食べ残し調査の結果が全然違うのです。
これはどういうことかといえば、人間の心理特性で、こうありたいと思うことと違う行動を取る場合が多い。(P85)

といったあたりは、「マーケティング調査の限界」を、この業界でも示していて、以前にレレビューした水野学さんの本で「自分のリアルな感覚で判断できないと、人はデータに頼るようになりますが、注意が必要です。あらゆる調査は統計的な処理がなされたとたん、細部にかくされていたヒントがこぼれ落ちてしまうのです。」と言われていたのと符合しているような気がしますね。

【レビュアーから一言】

 
一企業の「経営の秘訣」とかについて書かれた本は、企業の業績とセットで見られるところがあって、時代の変遷や景気の上がり下がりで、その評価も上下するものなのだが、短い時期でも隆盛を極めた企業の経営実話には、すくいとるべき「真理」「鉄則」が隠れていることは間違いない。
本書は、メガ「弁当屋」企業の、二代目社長の著作なので、すべての企業にここの事例がピタッとはまるものではないが、すいくとるべきエッセンスは豊富にある。食わず嫌いせずに、読んで見れば、有益なものがたくさん隠れているのに驚かされると思いますよ。
 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です