「善助」の死の真相はいかに。そして只次郎は家出してどこへ行く ー 坂井希久子「あったかけんちん汁 居酒屋ぜんや」(時代小説文庫)

前巻までで、お妙の元亭主・善助の死が自己ではなく、殺しではなかったのか、しかも、彼の元同僚で今は材木問屋にまで成り上がっている「近江屋」が関係しているのでは、という疑惑が膨らみながらの、「ぜん屋シリーズ」の第6弾である。

【収録と注目ポイント】

収録は

「口切り」
「歩く魚」
「鬼打ち豆」
「表と裏」
「初午」

の五話。

まず第一話の「口切り」は、ぜん屋の馴染客の太物問屋・菱屋の隠居のところでの「お茶会」で、お妙が路開きの懐石料理を披露する話。とはいうものの、お妙の料理の腕が良いので、料理を頼んだわけではなく、人目をはばからず、ぜん屋の常連たちが集まって、近江屋に関する情報を交換する会を催したというわけ。この情報交換の中で、以前に打ち壊しの煽動者・草間某と近江屋が関係していた、ということが明らかになる。草間某といえば、ぜん屋の用心棒・重蔵と同一人物の疑いがあるのだが・・・、という展開。

第二話の「歩く魚」は、旗本の次男ながら鶯稼業を営んでいる林只次郎の実家での騒動。
只次郎の兄・重正が受けた「学問吟味」が無効となって、意気消沈する「林家」で、子どもたちの「帯解」の祝が催される。しかし、試験が無効になって、鬱憤のもっていきようのない重政によって、只次郎の「ぜん屋」通いも禁止され、さらには、重政の家督相続と、只次郎の婿入りの話が持ち上がる。父や兄から、実家から追い出そうとする意思を感じた只次郎は、これをチャンスに・・・、という展開。

第三話の「鬼打ち豆」は、節分の夜におきた事件。節分の夜は、氏神詣でや挨拶まわりなどで多くの人手賑わうのだが、その人達を店へ呼び込もうと「けんちん汁」を出す。その客で賑わう店で、うっかりした客から用心棒の重蔵が酒を浴びせられてしまう。重蔵は極度の下戸のため、これだけで酔っ払って寝込んでしまうのだが、その夜、彼の命を狙って、賊が襲ってくるという事態がおきるのである。
これがきっかけで、重蔵は、善助の死と自分との関わりを告白するのだが・・、といった筋立てである。これに続き、第四話の「表と裏」で、重蔵の身の上や近江屋との関わりなどが明らかになる。

最終話の「初午」は、重蔵の素性が明らかになったのを受けて、いよいよ「近江屋」との対決である。といっても、通常の手段では、白状しそうもない「近江屋」の口を割るのであるから、仕掛けが必要で、使われるのは「蝦蛄」である。というのも、蝦蛄は犬と、己の身を溶かす毒を出すらしく、その毒をもった蝦蛄を、たくさん食った近江屋は、突然の激しい腹痛に襲われる。近江屋に解毒剤と引き換えに、善助殺しの秘密をしゃべるよう脅しをかけるのだが・・・、といった展開である。
悪党であっても命がおしい近江屋が自白するのだが、「藪をつついたら蛇が出た」の諺通りの展開に、さて一同どうする・・、という筋立てである。
この巻では、大きな騒ぎになっていないのだが、次巻以降の波乱が予測される結末でありますね。

【レビュアーから一言】

お妙の亭主の「善助」殺しの真相の解明に向かって、とんとんと筋男が展開していく本巻なのであるが、それとあわせて注目すべきは、もちろんお妙のつくる料理の数々で、例えば、第一話の茶席に提供される料理の

一汁三菜のうち、煮物椀は湯葉の擂り流しに海老しん薯、茹でた菊菜を添えておく。
しん薯は芝海老の擂り身にぶつ切りにした車海老を混ぜ、ふわりとした食感の中にも歯ごたえを残した。生湯葉を擂り鉢であたり、鰹出汁で延ばした汁を椀に張ってある。
海老の甘さと湯葉の滑らかな口あたり、菊菜の青みがきゅっと味を引き締める。
焼き物jは真鯛の幽庵焼き、醤油、味醂、酒に柚子の輪切りを入れた漬け汁で、下味をつけてから焼いたもの。それに柚子の皮の千切りを散らした。

といったあたりを代表格に、旨そうな料理が本巻でも数々でてくる。謎解きとあわせて、そのあたりもお楽しみください。

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