祭りの「山車庫」移転話が転じて廃工場の秘密が・・ ー 吉永南央「まひるまの星 紅雲町珈琲屋こよみ」

紅雲町の「和食器と珈琲小売り」の店・小蔵屋の女主人・杉本草の亡き母親が、仲違いしてしまった旧友に遺した形見の着物をなんとかして、その旧友に届けて、今更ではあるが仲直りさせようとしたことと、小蔵屋の敷地内に、祭りの「山車庫」を移転するという話が出るのだが、小蔵屋の将来はどうなるのか、といったごく私的なことが発端で始まる話。

ところが、この小さな転がりが、大きくなって、とんでもないものを引きずり出してくるのだが、それは・・といった展開の「紅雲町珈琲屋こよみ」シリーズの第五弾である。

【収録と注目ポイント】

収録は

第一話 母の着物
第二話 探しもの
第三話 冷や麦
第四話 夏祭り
第五話 まひるまの星

の五話で、今巻は、とても仲がよかったのに、突然仲違いしてしまったお草さんの母親「お瑞(たま)」と鰻屋「うなぎの小川」の女将・清子の仲違いの理由(わけ)を突き止めてしまう話。

第一話の「母の着物」では、小蔵屋に祭りの「山車」を置く「山車庫」の移転話がもちこまれる。もともと小蔵屋の拡張地を買った時の契約で、いずれ「山車庫」を移す約束であったのだが、売り主・山上が株で大損をしたので、今「山車庫」のある土地を売りたい、ということである。山上は実の息子が株で大損して息子と絶縁状態になっていて、「株取引」は大嫌いなはずなのだが・・・、というのが、この話の謎解き。この「山車庫」の移転先として、小倉屋のほかに、「うなぎの小川」の真向かいの工場跡地が候補地なのだが、鰻屋の女将・清子が猛反対しているらしい、というところで本編へ滑り出していく。

第二話の「探しもの」は、「草」が「うなぎの小川」の若主人の妻で、今は旦那と別居中のの丁子に、清子が山車庫の移転に反対している理由や、草の母「瑞」と不仲になった理由の探り出しを依頼する話を発端に、丁子が鰻屋に嫁に入ったときから「よそ者」扱いされていたことなどを聞かされる。滋は、三十代の頃、酒浸りで、店の近くの側溝に新聞紙を裂いて投げ入れたり、夜中に近くの土手に穴を掘ったりといった奇行があったのだが、女将の清子の明るさで店に悪評の立つこともな繁盛して・・、といったところなのだが、物語の進行でこの辺りの裏の事情もはっきりしてきますね。

第三話の「冷や麦」は、滋と丁子の娘・瞳の妊娠と籍をいれない結婚の話。当然、親も祖母も大反対で、瞳はそれに負けずと、賛成と応援の署名を集める。頼まれた「草」も署名するが、次の日、草の署名の部分を芳名録から切り取って、清子が草のもとに返しにやってくる。彼女は「瑞さんとそっくり」「正義を振りかざして、さぞかしいい気分でしょうね」「正しいからなんだっていうのさ。正しさが、人を苦しめることだってあるんだよ」と謎の捨て台詞をはいて帰っていく。仲の良かった母と清子を、そこまで引き離した理由とは・・、といった展開。
この話ではそこのところは明らかにならないが、瞳が小学生の頃、清子がつくった「冷や麦」を箸ですくい上げたところを、父親の滋に顔をぶたれたエピソードがでてきていて、真相へつながるヒントの一つではありますね。

第四話の「夏祭り」では、滋が以前、鰻屋の前にある廃工場のところに車を駐車して行方をくらました男の失踪に関係しているのでは、という疑いが「草」の耳に入る。その男の家族が「捜索依頼のビラ」を鰻屋近くの中華料理屋にもってきたらしい。
この男、「加藤」といって、便利屋をやっていたのだが、ある時、どこかから廃液の入ったドラム缶を運んできて、しばらく自分の敷地に積んでおいたのだが、密かにどこかに処分したらしい。加藤の失踪後、ドラム缶が運びこまれた土地の所有者という男が、ドラム缶を撤去しろと彼の実家に怒鳴り込んでくる。その廃液が隣地に漏れて一千万以上の被害を出したという話である。
当の加藤が失踪中のため結局はうやむやになったのだが、行方不明のはずの加藤が、実は密かに実家に帰っていることが判明する。
ドラム缶の行方に嫌な予感のした「草」は、ある場所に出向き・・、といった展開で、このドラム缶の中身が、この巻の謎を作りだした本命ですね。

最終話の「まひるまの星」で、「草」の母親・瑞と清子が不仲になった理由や、滋がやけになって酒浸りになったり、冷や麦を食べようとする瞳の顔をぶった理由も、すとんと明らかになる。ただまあ、その秘密が明らかになる過程で、それをひた隠しにしてきた人たちの「見なかったことにする」ところで嫌な気分になるが、最後のところで、鰻屋の女将・清子が「草」と彼女の母親・瑞と和解するために、小蔵屋の仏壇で線香をあげるあたりで、ちょっと慰められますね。

【レビュアーから一言】

ひた隠しにされてきた、地域の「秘密」を、お草さんが図らずも、白日のもとに晒してしまう、といった筋立てで、意地っ張りで、ひるまない彼女の意気地が発揮されているのが本巻。ただ、最初から正義感にかられてやっているわけではなく、母が遺した思いを届けようとしているうちに、そういう事態になってしまうのが、このシリーズでよくある展開。
ただ、思ってもみない方向へいつの間にかつれていかれてしまう、筆者の腕の冴えは見事である。その術に従って、流れに乗って楽しむのも一興でありますよ。

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