第一線の航空企業のビジネスノウハウは、とても「人間くさい」ものだった ー 「どんな問題も「チーム」で解決する ANAの口ぐせ」(KADOKAWA)

特定の企業の経営のノウハウ、特に社員教育のノウハウについては、その企業の毀誉褒貶や業績の如何によって、評価が乱高下することがよくあるので、ブックレビューでとりあげるのに注意が必要なのである。
ただ、ANAという特定企業名を超えて、安全管理と定時運行とカスタマーサービスといった複数の要素の質の高さが同時に求められる”航空業界”のトップのノウハウが知れるのが本書である。

【構成と注目ポイント】

構成は

はじめに
Chapter1 ANAの社員は、「あれっ、大丈夫?」が口ぐせ
Chapter2 ANAの社員は、いつでもどこでも「雑談」する
Chapter3 ANAの社員は、「失敗」をとことん活かす
Chapter4 ANAの社員は、「好き嫌い」を気にしない
Chapter5 ANAの社員は、「基本」を徹底する
Chapter6 ANAの社員は、自分以外を「お客様」と考える
おわりに 危機だからこそ、成長できる

となっていて、こういう組織論のビジネス書では、ところどころに尖った「理屈」が忍び込んでくることがあるのだが、長い期間に渡って、多くの人によって練り上げられてきたノウハウというのは意外と人間心理に根ざしたところもある。

それは、例えば

CAの身だしなみには細かい基準があり、その基準を下回るような装いは認められません。お客様の前に出るまでに、必ず修正することが求められます。
とはいえ、「見た目」のこととなると、後輩から先輩に対してはもちろん、先輩から後輩に指摘をする場合でも、なかなか難しいものです。
(略)
そのようなとき、ANAのCAたちが使う言い方があります。「○○してください」ではなく、「○○したほうがもっとよくなるよ」 と、言い方を変えるのです。

といったところは最たるものであろう。

そして、もっと人間くさいのは

ANAでは、同期同士、先輩と後輩、時に上司と部下が、情報共有や意見交換をする何気ない「おしゃべり」の蓄積を、大切なものととらえています。「おしゃべり」や「雑談」だからこその本音や実感が込められている。自分一人では経験できないことを仲間から得る機会になるのです。
ANAをはじめ、航空会社のパイロットたちの間には「ハンガートーク」と呼ばれる会話の場があります。「ハンガー(Hangar)」とは、飛行機の格納庫のこと。かつて、パイロットたちは天候が悪くて飛行機を飛ばせない状況になると格納庫の片隅に集まって経験談に花を咲かせていました
(略)
「ハンガートーク」の重要性(は)・・・ 「自分がまだ経験していないことを、相手は積極的に話してくれる。自分も、なにか経験をしたら積極的に話す。 一人の人が自分の仕事の中で経験できることには限界があるので、他の人の経験を共有できるのは貴重 なことです」

といったあたりで、最近の日本の企業の社員育成が空洞化している気配があるのは、「効率主義」の視点だけで単眼的にとらえてしまっているところであるような気がする。欧米の企業っていうのは、効率性とあわせて、こうしたアナログなところを残しているところのしたたかさがあるのかもしれんですね。

さらには、エラー防止という観点でも

人間のエラーによる事故を防ぐために、ANAがとっている原則があります。それは、
「人間が起こすエラーはゼロにすることはできない」
という前提に立つことです。
(略)
そこで、「ヒューマンエラーの影響をコントロールする」という考え方が出てきます。人間のエラーがシステムなどに影響をあたえて最終的に事故が起きる。事故が起きるまでの過程のどこかしらで、影響の連鎖を食い止められれば、事故には至らないはずです。ANAは人間のエラーによる事故を防ぐための施策を「エラーコントロール」 と呼び、各部門で取り組んでいます。

というあたりは、なにか事件、事故があるたびに、「○○根絶」といった直線的な対処方法を取りがちな組織は、ちょっと反省したほうがいいですね。

このほか「ANAではチェックを多重でなく、作業者本人だけで行う」とか、「最近の変化が激しいビジネス環境においては、その変化に対応すべく人の異動も適材適所でひんぱんになり、デスクはフリーアドレスが一般的です。毎回違う人と仕事をするとなると、「共通言語」であるマニュアルに沿った仕事をしていくことが大切です。」といったところなど、現代のビジネス現場で参考になりそうなものが他にもありますね。

【レビュアーから一言】

航空企業のビジネス・ノウハウというと、もっとシステマチックで機械っぽい感じかと思っていたのだが、思いの外、「人間くさい」ものであることにまず驚く。
ただ考えてみれば、空港のカウンターから、飛行機の整備、操縦、そして機内の接客・・、とこの業界は「人」相手のものがほとんどで、その分、人間くさくないとうまくいかないもおなんであろう。
そういった意味で、本書のノウハウは、全ての「人」が働き、「人」を相手にするビジネスに共通したノウハウといっていい。全てのビジネスマンにおすすめできるノウハウ集でありますね。

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