組織のノウハウを伝えていくには「秘訣」がある ー 「人もチームもすぐ動く ANAの教え方」(KADOKAWA)

「ANAの口ぐせ」で、ビジネス・ノウハウ全般、「ANAの気づかい」ではビジネスや組織を円滑にまわすためのコミュニケーション・ノウハウについて、そのキモのところを惜しげもなく外へ出してくれた、「ANAの〇〇」シリーズであるが、本書は、「教え方」、つまり、先輩や組織に「ナレッジ」として蓄積されるノウハウをいかにして後輩や外の組織に伝えていくか、のノウハウである。

秘訣やコツといったものは、多くの組織で優秀な人ややる気のある人が数人いれば獲得できたり、見つけ出したりといったことが可能なのだが、困難なのは、その「秘訣」や「コツ」をきちんと伝えるシステムをどうつくるか、ということで、この「伝承」がうまくいかなくて、代が替わると衰退してしまう組織は枚挙にいとまがない。本書は、多くの組織の悩みのタネである「教えること」のANA流のノウハウのまとめ本である。

 

 

 【構成と注目ポイント】

構成は

Chapter1 ANAの先輩は、後輩の「サポーター」

Chapter2 ANAの先輩は、思い切って「任せる」

Chapter3 ANAの先輩は、一人を「チーム」で育てる

Chapter4 ANAの先輩は、「褒める、叱る」に心を込める

Ckapter5 ANAの先輩は、自分自身も「教わる」

 となっているのだが、まず注目すべきは

「先輩は、後輩が自律成長するためのサポーターである」これが、ANAの教え方の基本です。私たちの会社においては、先輩は後輩を「動かす」のでもなく「引っ張る」のでもなく、サポートすることに重きをおいています(P6) 

 

今、どの業種・業界においても共通していることは、「変化が速ぐ―先が見えにくい」ということです。そうした状況では、言われたことを言われたままこなす人よりも、成果を出すために自分の頭で考える人、自ら行動できる人が求められています。すなわち、「1教えたら、完璧に1できる人」ではなく、「1教えたら、10考えられる人」、さらに言えば「1教えたら、Ю考えて、自ら100の成果を生み出せる人」です。なぜなら、昨日まで教えていた内容が必ずしも今日役に立つとは限らないから。もっと言えば、昨日まで正解だったことが、今日は不正解になってしまうことさえあるからです。(P7)

というところで、本書で重視される「教え方」は、テクニカルなものではなくて、「人づくり」そのもののスキルということであろう。確かに、どんなに優れた「ワザ」や「スキル」であっても、時代の変化による劣化ということは否めないもので、どうかすると、劣化に気づかずに、ただ「伝承する」ことに躍起になってしまうところに、組織がダメになっていく始まりがあったりするので、過去の遺産は遺産として、それをリニューアルないしは新しい要素を付け加えることのできる人材を育てることができれば、失速せずにパフォーマンスが保てるのだが、このあたりに気づいて体制を整えているところはすくない気がしますね。

そして

人に何かを教えるときに重要なのは、「スモールステップ」を踏ませることです。いっきに完壁な姿を求めても「どうせ無理だよ」と、相手はやる気をなくしてしまいます。ひとつずつ目の前の目標を達成していくことで、やがて大きな目標を達成できるはずです(P51)

といったあたりは、一足飛びに教育や研修の効果を求めがちになってしまう「組織の上層部」への戒めでもあるし、

「誰がやってもいいということは、誰もやらない危険があるということ。特に、お互いに信頼関係のある『仲のよい先輩・後輩』で仕事をするときほど注意が必要です(P92)

といったところは、「組織の融和」の影に、お見合いによる重大なミスの発生が隠れていることを教えてくれてもいる 。

 こんなふうに「ANAの教え方のノウハウ」が語られるのだが、少々安心するのは

 「目の前の仕事の成果をあげる、という観点からいえば、『班ごと』に仕事を割り振るのではなく、細分化された『業務ごと』に最適な人を集めて、マニュアル通りに仕事をしたほうが効率的です。私はこれを『マトリックス型組織』と呼んでいます。縦軸に業務、横軸に人を入れてマトリックスをつくり、全体を見ている『コントローラー』が業務を人に割り振る。最近どの業界でも増えているプロジェクトごとの仕事は、まさにこの考え方にもとづいています」これにより、たしかに業務は効率化しました。でもふと気づくと、誰も「個人の成長」を見る人がいなくなってしまった。大事なことを教わらないまま年次を重ねる若手が増えてしまったのです。(P108)

 といったところで、何の問題もなくこうしたノウハウが出来上がったわけではなく、ほとんどの企業が悩んでいる問題に、ここも直面し、なんとかしようとあがいた結果、掴んだ成果であることが語られていて、本書で語られるノウハウが、多くの企業に共通して適用できるノウハウであることを確信するのである。

 ただ、

『組織風土』とよく言いますよね。風土は自然にできあがるものですが、 一方で、ほったらかしにしておけば、どんどん衰退して、悪しき風土になってしまう。だから私たちは、あえて『文化』と呼んで、人間の手でつくり上げよう、と考えているのです。チームの習慣は、悪いものほど早く、全体に伝染します。(P123)

ともあって、一回作り上げてしまうとメンテナンスすることを怠りがちなこと戒めているのでご注意を。

このほか、部下や後輩の褒め方や叱り方など、感情がからんでなかなかうまくいかないことへのアドバイスもあるのが嬉しいところで、これから先のノウハウは原書で確認してくださいな。

 

【レビュアーから一言】

 多くのノウハウが満載されている本書のシリーズなのだが、それを踏まえて考えておかないといけないのは

後継者を育てるには具体的にどうしたらよいのでしょうか?・手取り足取り後輩を指導すればいいのか、あるいは何か研修を受けてもらえばいいのか。もちろん、それも大切ですが、 一番重要なのは「あなた自身が今のポジションに居続けない」ということ。そのためには、現在自分がいるポジションの目線で物事を見るのではなく、「ひとつ上の立場で考える」ことが必要です。(P152)

といったことでもある。

その場のベテランや古参になると、自分のやり方が一番のように思い、時代や情勢がかわっても、それを押し付けてしまったり、いつまでも影響力を行使しようとしてしまうのも、組織が劣化する一員でもある。

教えられる側だけでなく、教える側も変化していくことが大事なようですね。

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