難しくなる一方の「労働環境」にお悩みの方への福音の書 ー「仕事も人間関係もうまくいく ANAの気づかい 」(KADOKAWA)

前著「ANAの口ぐせ」では、ANAのビジネス・スキル全般について取り上げられていたのだが、今巻は、そのスキルの根幹の一つといっていい「気づかい」についてである。
『現場で、人から人へ受け継がれてきた、いわば「口伝の技術」を初めて公開』ということで、まあ秘伝を「公開」ってな雰囲気であろうか。

【構成と注目ポイント】

構成は

はじめに
Chapter1 「気づかい」は成果に必須のビジネススキル
Chapter2 すべての気づかいは「時間を守ること」から始まる
Chaptre3 「お客様をよく見る」のが接遇の基本
Chapter4 初対面で「すぐに打ち解ける」にはコツがある
Chapter5 気づかいの「マジックフレーズ」で人を動かす
Chapter6 ANA流「上司から部下」への気づかい
Chapter7 気遣いを「チーム」で活かす方法

となっていて、最初に注目したいのは、「はじめに」のところで言われている

チームメンバーとは初対面のこともあるでしょう。
職場によつては、違う企業文化の人たち、違う国の人たちといっしょに仕事をする機会が訪れることもあるかもしれません。
そんなとき重要になるのが、ちょっとした「気づかい」です。
サービス業だけに留まらず、前提を共有していない相手と同じゴールを目指すため、「気づかい一は必須のビジネススキルになりつつあるのです。(P8)

ということで、海外労働者の受け入れが本格的に始まろうという時期に、一番重要なのは、案外にこういうことかもしれないね、と思った次第。

そして、異文化や異なる世代が、少なくとも喧嘩しないで仕事を円滑にすすめていくに大事なのは

ANAでは「アサーション」という活動が浸透しています。
例えばパイロットの間では安全のために、
「機長←副操縦士」
だけでなく
「副操縦士←機長」
に情報がしっかり伝わるよう、上司側も気づかいをする、言いやすい雰囲気をつくるという活動です
(略)
アサーションの本来の意味は「健全な自己主張」です。
「下から上」はもちろんのこと、「上から下」にも遠慮せず、お互いの意見を伝え合うことが重要です。(P44)

ということで、とかく、上から下への「命令形式」の意思伝達か、下から上への「反乱方式」の意思伝達が主流となりがちな我が国の企業社会では、こうした形式の意思伝達をもっと研究したほうがいいような気がしますね。

そして、こういう「気づかい」「コミュニケーション」の基本は

新たな制度が導入されるとき、なぜそれが必要なのかを知ろうとする。
会議が延期になつたとき、なぜ延期しなければならないのかを知ろうとする。
異動を命ぜられたとき、なぜ自分が異動になるのかを知ろうとする。
人は、なにかに納得しようとするとき、理由を求めるものです。
その理由をもとに、それで納得できるかどうか判断しようとします。
ですから、人に「してほしいこと」を伝えるときには、明確な理由とともに伝えることが大切です。(P76)

線引きが難しい「行動しない気づかい」と「行動する気づかい」を、どう使い分ければよいのでしょうか。
CAの林は、単純明快な答えを示します。
「手伝ったほうがよいかどうか迷ったら、『お手伝いできることはありますか?』と尋ねればいいのです。
それに、もし自分がその場所にいることが清掃の邪魔ではないかと思ったら『私、ここにいて邪魔になりますか?』と尋ねればいい。
黙つて自分で判断するより、尋ねるほうが明確な回答を得られます(P201)

といったように、”説明すること”、”聞くこと”といったことのようで、日本方式の「以心伝心」「黙っていても心は伝わる」といったことは、昔の伝統となっているようである。もっとも、あらゆる職場で、外国人労働者が日常的に見られるようになるであろう今の時代には、必須の心得であるのでしょうね。

このほか「快適は人により価値観が異なるものですが、不快はほぼ共通している」とか「ハリーアップ・シンドローム」(時間に追われるあまり、注意力が散漫になったり、ストレスが溜まったりしている心の状態)とか、ビジネス全般に使えそうなTipsもたくさんあるのが嬉しいところである。

【レビュアーから一言】

「気づかい」ができる人っていうのは、特別の育ち方や才能の問題なのかな、と思ってしまうのだが、本書によると

ANAが新入社員をリクルーテイングするとき、気づかいできそうな人材を意識して採用しようとしているわけではありません。
気づかいを当たり前のようにするチームの中に入ると、自分も気づかいをするようになっていくこれが事実です。
気づかいは「チームで仕事を進めていく上で、なくてはならない」ものだからです。(P203)

ということであるらしく、要は自らが「気づかい」をしようとしているかどうかがキモであるようだ。

ダイバーシティや外国人受け入れなど、新しい労働環境対策にドギマギしている労務担当のビジネスマンにオススメです。

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