「桃子」の特殊能力全開は、なにを引き起こすのか ー 加藤実秋「モップガール3」(小学館文庫)

第一巻で、クリーニングサービス宝島にアルバイトで勤めて、殺人現場や事故現場の清掃によって自分の特殊能力に気付き、第二巻で、その能力が父親から伝えられたものであるとともに、同僚の「大友翔」との子供の頃からの関係や父親の死の真相を突き止めることのできた「桃子」だったのだが、父親の封印がとけ、「難聴」が現れていなくても。触れるだけでその場所で起きた出来事がわかる能力が完全開放される。
父親を殺した男から、その能力を「バケモノ」よばわりをされた桃子が、その能力とどう向き合って、どう使っていこうとするのかが描かれるのが今巻き。桃子も翔も「エイトコーポレーション」が正社員となり、「特殊清掃+素敵なサムシング」ビジネスが順調にいくのか、と思わせておいて、桃子の能力が突然失われたり、と二転三転しながら進んでいくのある。

【収録と注目ポイント】

収録は

「素敵なサムシング」
「黒いさざ波」
「シャドウプレイ」
「モップガール」

となっていて、第一話の「素敵なサムシング」というのは、この桃子の特殊能力を、上司の重男は「クリーニングサービス宝島」と契約した人への特別サービスとして売り込む時の名前で、このサービスとして、桃子は失せ物探しや車へ当て逃げした犯人探しとかをさせられる羽目になっている。

で、今回、頼まれたのが、新築のビルへのペンキによるいたずら書きの犯人探し。この事件、その内容がビルのオーナーへの誹謗中傷など営業妨害に近いもので、いわゆるストリート・アーティストの仕業ではなく、社長に不満をもっている人物であることは間違いない。そして、この会社の契約をとるため、桃子が透視した人物は、なんと社長の奥さん。この夫婦、会社創業当時から二人三脚で会社を大きくしていて、仲は良いはずなのだが・・・、ということで、真相を究明するため、奥さんと女子会をしたり、息子の誘拐未遂事件をでっちあげたり、とかなり危ないところまで踏み込む展開。
少々ネタバレすると、イクメンとはいっても奥さんの不満は貯まるようで、といったところ。

第二話の「黒いさざ波」は、重男が出演できることになった「テレビドラマ」の撮影現場で頻繁に起きている「窃盗事件」の犯人探し。「黒いさざなみ」っていうのは、そのTVドラマの名前である。今回も「素敵なサムシング」は快調に、盗難事件の現場に遺された想いから、現場の様子を「見る」ことができ、一人の女性AD・日下部苑に犯人の疑いがかかる。疑いをかけられたその娘は会社を退職してしまうが、その後、会社に嫌がらせのチラシのポスティングや桃子が詐欺まがいの商売をしている、というネットの書き込みが相次ぐ。どういうわけか、「素敵なサムシング」の能力も全く発動しなくなってしまうというおまけつきである。
嫌がらせの犯人には、当然、苑に疑いがかかるのだが、彼女からきたメールや彼女の様子から、彼女の仕業とは信じられない桃子がつきとめたのは・・という展開。
女の子に濡れ衣を着せるやつは、「成敗」ってな幕切れですね。

第三話の「シャドウプレイ」では、前話に引き続いて「素敵なサムシング」の能力が失われたまま話が展開する。ただ、桃子が特殊能力をもっているといういうのはかなり広まっていて、今回は、前話で登場した「日下部苑」へのストーカー事件の犯人さがし。ただ、苑は「翔」に好意を抱いていて、翔が苑になびいちぇしまうのではないかという心配の種を抱えながらの自主捜査活動である。
事件のほうは、翔と苑が偽装カップルを演じて、まんまとストーカー犯人らしき男をつかまえることができまあいた、ってな風に進むのだが、この男を捕まえた後、突然、甦った「素敵なサムシング」が見せた事件の真相は・・・、といった展開。
LGBTが市民権を得た社会になって、犯人探しと動機の解明が難しくなったな、と思わせる結末ですな。

第四話の「モップガール」は、このシリーズの完結話。「素敵なサムシング」が復活してストーカー事件を解決したのだが、被害者の「苑」から”余計なこと”をしたと非難されて落ち込む「桃子」。それに追い打ちをかけるように、契約先の会社で、その能力によって、未来におきるであろう「とんでもないこと(話の後のほうで出てくるのだが、「森の中で左胸を刺された翔が倒れていて、苑が泣き叫んでいる、そばには桃子も、という映像)」を見てしまう。自分がこのまま会社にいては、その出来事を引き起こすと、会社を辞めてしまうことに。
しかし、彼女が会社を辞めてから、「クリーニングサービス宝島」と解約するよう脅して回る連中が現れ、”宝島”の契約先がどんどん減っていく、そして、桃子が”宝島”の顧客リストを持ち出して、その連中と結託しているのは、という疑いもかけられる。
そんな中、「クリーニングサービス宝島」と解約するよう脅して回る連中を調べていた「苑」が誘拐される。そして誘拐犯は、「桃子」や「翔」「未樹」も誘拐し、北関東の森の中へ連れて行く。さあ、桃子たちは、彼らから逃げ出すことができるのか?、そして翔は本当に殺されてしまうのか・・・といった展開。
事件の犯人のほうは、翔の父親が殺された事件がらみ。その事件に関わっていた「エイトコーポレーション」が企画していた開発プロジェクトが事件の騒動で中止になったことによるものなのだが、今回の解決にも、元警察犬「ラルフ」が活躍しますね。
さらに、桃子の「素敵なサムシング」の能力が出現したり、しなかったりするりゆうやが明らかになったり、桃子と翔の関係にも進展があるのだが、詳細は原書で確認してください。

【レビュアーから一言】

こうした「特殊能力」の秘密が明らかになると、いままでコメディータッチで進んでいた物語が、突然サスペンス調になったり、あるいは世界の闇に潜む古来から続く「闇の組織」ってなものがでてくることがあるのだが、このシリーズはコメディー帳のミステリーとして安定した展開をしてくれていて、「未樹」ちゃんの活躍ぶりはさらにパワーアップしているので未樹ちゃんファン(いるかどうか知らないが)もお楽しみに。宝船の社長の「犬フリーク」も健在で、安心して読めますね。

特殊清掃の掃除会社に、霊感的特殊能力の女の子が就職すると・・ ー 加藤実秋「モップガール」(小学館文庫)

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