ローマの大災害の陰に、いろんな者たちが蠢くー ヤマザキ・マリ「プリニウス 7」

ローマ時代の博物学者プリニウスを主人公にした、ヤマザキ・マリによるローマものの第7巻が本訴『ヤマザキ・マリ「プリニウス 7」(新潮社)』。今巻は、第6巻の終わりのローマの大火が起きたあとを受けての、焼け果てたローマの「混沌」ぶりが主題。

目次は

ユピテル
シレノス
タツノオトシゴ
パンテオン
ピラミス
バステト
ピソ

となっているんだが、あいかわらず、読んだ後に目次の意味がわかるといった構造なので、紹介しても何の参考にもならんな、と反省。

【あらすじ

展開的には、大火後のローマでの皇帝ネロほか宮廷内の動きと、北アフリカに留まっているプリニウス一行の旅の状況が並行する。

まず、ローマのほうでは、火事が収まったように見えて、あちこち類焼している状況の中で、キリスト教徒らしい人物の放火を仕掛けたりする暗躍がある中で、皇帝ネロは、当初、焼け出された市民への食料の提供などの善政を敷いておきながら、うかうかと宮殿の再建という甘い言葉にのっかってしまう、「お坊ちゃん皇帝」ぶりを発揮する。

一方で北アフリカに留まっていたプリニウス一行は、ローマ大火の報を受けて単独で帰ろうとする護衛フェリクスの受難や、エジプトのピラミッドの内部探検で現地部族に襲われたり、と事件はあるのだが、やはりローマの火事後の大騒動には負ける「サイドメニュー的展開」

最後の方は、プリニウス一行は現地部族の襲撃を逃れてアレキサンドリア行を目指すところと、ローマの方は、ネロの「トンデモ皇帝」ぶりに我慢ならなくなって、「ピソ」が暗殺を謀むが発覚するところまで。次巻あたりは、ネロの没落あたりまでいくんであろうか。

【ここが読みどころ】

この巻の中心は、「ローマ大火」であると思っていて、その大火の混乱の中、暗いところでなにやら操作している、ネロの側近・ティゲリヌスの悪辣さは筆が冴えてますな。この頃のローマ帝国の混乱を招いたにふさわしい悪人ぶりであります。

以外なのは、他のところでは毒婦・姦婦としか評価されない「ポッパエア」のネロへの献身ぶり。案外に、ネロにベタボレなだけで悪女ではなかったのかも、とすら思ってしまうのは、作者の手の内にのっかってしまっているのかもしれないな。

【まとめ】

ようやく「ローマ大火」までたどりついた「プリニウス」のシリーズ。これから、ネロとセネカの全面対決であったり、ネロへの風当たりがとんでもなくきつくなったり、といった首都をゆるがす事態へと突入し、大騒ぎの展開になっていくと思われる。
この辺は、あれこれネットや歴史書を参照しながら読むのがよいと思いますね。

そして、この政争に、プリニウスがどう絡むのか、またフェニキアの孤児はどうなるの、といったところは、これからのお楽しみであります。

【関連記事】

プリニウスを通して描かれる「ローマ帝国」の健全さと退廃 — ヤマザキマリ「プリニウス」(新潮社)1~6

古代ローマ時代の「百科事典」をつくった男の物語がスタート ー ヤマザキマリ、とり・みき「プリニウス 1」

ネロとポッパエアは「ローマ」の退廃の象徴か ー ヤマザキマリ、とり・みき「プリニウス 2」

プリニウスたちの再びの旅を「火山」が待ち構える ー ヤマザキマリ、とり・みき「プリニウス 3」

カンパニアの地震からプリニウスは助かるが、ローマの闇はもっと深くなる ー ヤマザキマリ、とり・みき「プリニウス 4」

そしてプリニウスの旅は「アフリカ」を目指す ー ヤマザキマリ、とり・みき「プリニウス 5」

プリニウスはアフリカへ、ネロはローマ。物語は二つに引き裂かれる ー ヤマザキマリ、とり・みき「プリニウス 6」

ポッパエアが妊娠し、「ネロ」のローマ帝国も安泰か、と思いきや・・ ー ヤマザキマリ、とり・みき「プリニウス 8」(バンチコミックス)

コメント

タイトルとURLをコピーしました